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41・お出掛け その2

しばらく歩いて、次に向かう先はギルドだ。

一緒に行動するのであれば、シンティラも登録して置いた方がいいだろう。


早速、冒険者ギルドに入り、ギルドの冒険者登録受付に行くと前回と同じようにミリが座っていた。


「こんにちは。ミリさん」

「あ!こんにちは、ミツルさん。今日は依頼の確認とかですか?」

「いえ、この子の登録です」

「この子?」


俺が、シンティラの登録をしに来た事を言うと、ミリは首を傾げていた。

シンティラは相変わらず俺の後ろに隠れて居るので、ミリの居るカウンターからは見えなかったのだ。


「ほら、シンティラ。ちゃんとあいさつして」

「こ・・・こんにちは」


俺の上着の陰から顔だけ出して挨拶をするが、やはりまだ怖いのかすぐに隠れてしまった。


「すみません。こいつは恐がりで、他者の前だとこんな感じになっちゃうんです」

「か・・・」

「か?」

「か、かわいいぃぃぃ!ミツルさん!この可愛い子が噂の子ですか!?全然、危険な風に見えない!」


俺が謝るとミリはそれを流して、黄色い声でカウンターから身を乗り出してきた。


「噂の子?」

「えぇ、それはもうギルド中の噂になってましたよ!『新人の魔法使いが、凶暴な雷獣族の子供の奴隷を買って行ったらしい。しかもその魔法使いは、魔剣使いでもあるらしい』って。私とギコさんは口には出しませんでしたが、間違いなくミツルさんの事だと直感しました!」

「はぁ、そうでしたか。まぁ、そういう事であればシンティラの事で間違いないですね」


確かに大勢の前で鵺を使ったのは良くなかったかもしれない。しかし、あの時はそんな事はどうでもいいほど苛立(いらだ)っていたのだ。


「へぇ~。シンティラちゃんって言うんですね。私はミリです。よろしくお願いします、シンティラちゃん」

「よ、よろしく。お願いします」


相変わらず後ろに隠れているみたいだが、一応顔だけ出して挨拶を返した。

まあ、頑張った方なのだろうと思って優しく頭を撫でてやった。


「それで、俺のギルド登録にシンティラの名前を追加しに来たんです」

「なるほど、そういう事でしたか。では、今登録用紙を用意しますので、ギルド証の提示をお願いします」

「はい」

「ありがとうございます。では、こちらの用紙に記入をお願いします」


そう言って出されたのは、一昨日記入したばかりの登録用紙だった。

そこに追記する形で記入した。


名前 ミツル・ウオマ

年齢 25

地位称位(ちいしょうい)(身分のランク) 魔法使い

得意魔法 水系魔法

武器 片刃剣

所有奴隷 

・シンティラ 雷獣族 16歳

・  ・  ・  ・  ・  ・  ・


「これで、いいですか?」

「え~っと・・・はい。問題ありません。これが、シンティラさんのギルド証になります」


そう言って出て来たのは、メタリックブルーで大きさは俺のより約1/3程で厚さ1cm程の金属で出来たギルド証だった。表には冒険者奴隷(アドベンチャーズ・スレイブ)のA,Sと主人名・主人のランクが刻印されていた。


「このギルド証って本人に持たせた方がいいですか?」

「そうですね~。大抵の方は主人が管理している事が多いです。このギルド証を見せれば、大抵の所に主人と一緒じゃなくても大丈夫ですからね。その部分に関しても説明します」

「よろしくお願いします」

「奴隷用のギルド証は一種、奴隷身分の免罪符的な物です。例えば、飲食店などで奴隷入店禁止の店があったとします」

「はい」

「その店にシンティラちゃんがそのギルド証を見せると、その店は奴隷だからと言って入店を断る事は出来ないのです」

「ほぅ~」

「これは、冒険者が奴隷に買い出しをさせた時にトラブルが起こらない様にする為です。

その他には権限として、主人である冒険者のランクに応じて同等の権限が与えられます。

ミツルさんはM(ミドル)Ⅲなので、シンティラちゃんにもある程度ですが平民への武力行使が認められます。ただし、その責任などは主人にあるので、気を付けて下さい」

「わかりました」

「一応、主人の持っているギルド証と1週間20m以上離れると、奴隷用ギルド証の文字は消えてしまいます。再度発行する際は主人のみ申請できます。冒険者奴隷のギルド証剥奪は主人のギルド証が剥奪、または主人の意思で登録を消された時は剥奪されます。あとの細かい事は紙に書いてあるので、目を通して置いて下さい」


そういって、パピルス紙の様な説明用紙を受け取った。


「っだ、そうだ。だから、失くさない様にしろよ」

「え!?」


説明が済んだ所でシンティラにギルド証を渡した。

シンティラはまさか渡して貰えるとは思っておらず、驚きの声を上げた。


「そ、そんな!私が持っていていいんですか!?」

「あぁ、お前のギルド証なんだからお前が持っているべきだろ。ミリさん。なにかチェーンみたいな物ってありますか?俺も欲しいので、あれば2つ欲しいんですが」

「え、えぇ。ギルド証用のネックレスチェーンがありますが・・・。本当にいいんですか?」

「なにがです?」


ミリに尋ねると、戸惑う様に聞いて来た。


「奴隷にそれを持たせるという事は、一種の自由を与える事になります。普通はそんな事、しないのですが・・・」

「いいんですよ。それにミリさんも知っている通り、俺は普通じゃないんで」

「はぁ~、そうでしたね。無言で3属性の魔法を撃つし、ギコさんに剣で勝てる腕を持った魔剣使いの魔術師なんて、普通じゃないにも程がありますね」


俺が普通じゃない事を自笑するように言うと、呆れたようにため息をついて納得してくれた。


「それにしても・・・」

「なんですか?」


ミリが一言呟いたあと、俺の登録用紙を睨むように眺めていた。


「なんで『魔法使い』にしているんですか?」

「あぁ、登録を『魔術師』にしちゃうと後々、面倒事になるかと思ってそうしました。勧誘とか面倒臭いですしね」

「はぁ~・・・ミツルさんもギコさんみたいな事言うんですね・・・」

「っと言うと?」

「実はギコさんも記録上は『剣士』なんですよ。なんでも『魔法使いになって偉くなりたい訳じゃねぇ!ペコペコ頭下げられるなんて面倒臭いだけだから、俺は剣士でいい!』なんて言うんです。まあ、ここのギルドではギコさんが魔法使いでもある事はみんな知ってるんですけどね」


どうやらギコも俺と同じく、他者に頭を無闇に下げられる事を嫌っているようだ。

熱い奴だとは思って居たが、何となく親近感が湧いた。


「そうでしたか・・・ところで、手続きは他にもありますか?」

「いえ、シンティラちゃんの手続きは以上です。登録料500パルとチェーン2本220パルで720パルを頂きます」

「わかりました」


720パル丁度に当たる、銀貨1枚と銅貨22枚をカウンターに出して支払いを済ませた。

受け取ったチェーンネックレスとギルド証だが首から下げると何かと邪魔になるので、俺もシンティラもウォレットの様に腰のベルト通しに付けてポケットに仕舞った。


「あと、依頼を受ける時ってどうすればいいんでしたっけ?」

「受けたい依頼の用紙を各カウンターに持って行って下さい。ここのギルドは入口入ってすぐ右の掲示板が(ビギナー)(ジュニア)の5まで、ホールの右奥が(ジュニア)4~1までの掲示板です。入口入って左側は(ミドル)(ハイ)の掲示板です。(ビギナー)(ジュニア)の受け付けは掲示板に張ってある依頼書を剥がして両掲示板の真ん中にあるカウンターに持って行って下さい。(ミドル)(ハイ)はここの3つのカウンターで受けられます」

「あれ?ここのカウンターってギルド関係の手続きのカウンターじゃなかったんですか?」

「えぇ一応そうなのですが、そんなに手続き業務は多くないのでここでも受付をしています」

「そうなんですね、わかりました。じゃあ、ちょっと見てきます」


とりあえず、依頼を受けるかどうかは別として掲示板を覗いてみる事にした。

しばらくは(かめ)を売った代金で暮らせるが、やはりしばらくしたら旅をしながら稼いで行く予定なので、今の内から慣れていった方がいいだろう。


ミリの居たカウンターを右に行くと(ミドル)(ハイ)の掲示板があった。張ってある掲示物を見ると、大部分は討伐依頼だった。


「う~ん『双頭のドラゴンの討伐』『リヴァイの泉の嫉妬の宮殿まで、魔法使いの護衛と調査補助』『ヴェヒル山の暴食の宮殿まで、魔法使いの護衛と調査補助』『タラスクスの討伐と街までの運搬』『マンティコアの捕獲』・・・なんか、いかにもファンタジーな内容だな。報酬は・・・金貨40枚?あぁ、随分多いと思ったら(ハイ)のチームか(ミドル)スクワッド(隊)の依頼か。(ミドル)向けの以来は・・・」

(ミドル)ならこっちの方だぜ」


(ミドル)の依頼を探していると横から声がして、目を向けるとそこにはギコが居た。


「ああ、ギコさん。こんにちは」

「おう!噂は聞いてるぜ!暴れていた雷獣族の奴隷を鎮めて、買ったんだってな!」

「えぇ、まあ」

「しかし雷獣族なんて、なんで買ったんだ?話に聞く限りじゃあ、雷獣族は近寄ればみんな痺れて動けなくなるか、悪ければ死んじまうって危険な種族だろ?貴族やなんかは門や塀に鎖で繋いで侵入者を防ぐのに使ってるらしいが、街にそうそう連れ出せる奴らじゃ─モゴッ!」


ギコが俺の後ろにシンティラがいる事に気付かず、雷獣族の扱いについて話し始めたので急いで口を塞いだ。


「ギコさん♪これ以上、喋ったら殺しますよ?」


そして俺もその話は少し不愉快に感じたので、殺気をギコに向かって笑いながら放った。

ギコもその殺気に顔を青くして、首を何度も縦に振っていたので口から手を放した。


「ゲホッ!しかし、いきなりどうしたんだ?」

「すみませんね。この子には聞かせたくない話だったモノですから」

「は?この子?」


そう言って俺の裾にしがみ付いているシンティラに目を向けると、ギコもその存在に気付いた。


「ほら、シンティラ。知り合いの冒険者でギコさんって言うんだ。挨拶して」

「こ、こんにちは」


相変わらず裾から手を放さないが、同族の話を聞いたからなのか若干震えていた。

その姿を見たギコが驚いて声を上げた。


「お、お前!雷獣族を連れて歩いて平気なのかよ!」

「えぇ、大丈夫です。危害を加えなければ、安全です。ただし・・・」

「た、ただし?」

「こいつに危害を加える様なら、こいつと俺が暴れますけどね♪」

「お、おう。それはこの上無く、危険だな・・・」


ギルドの登録試験でギコは割と本気を出していたが、俺はそこまで本気では無かった。

それはギコもわかっているので、俺と危険だと言われる雷獣族が暴れるとなれば相当厄介だと認識して貰えたようだった。


「じゃあ、改めて。俺はギコって言うんだ!お前は?」

「シンティラ・・・と申します」

「そうか。シンティラ、よろしくな!」

「・・・・・・」


ギコが笑顔で握手をしようと手を伸ばすと、シンティラはその手をジーッと眺めたまま俺の裾から手を放さずに、握手をしようとしなかった。


「どうした?シンティラ」

「や!」

「ん?どうかしたのか?」

「このお兄さん・・・顔恐いです」


確かに、目つきは悪いし竜の様な角も生えて赤い髪をしている。おまけに腕や肩には傷の痕も付いていて、見方によっては確かに『恐いお兄さん』なんだろう。


「プッ!ククククククッ!そう、そうか。恐いか、クククッ!アハハハハッ・・・」

「ミツル。笑い過ぎだ」

「いや、すみません・・・クククッ。シンティラ、ギコさんは優しい方だよ・・・。たぶん・・・顔は恐いかもしれないけど」

「おい!二言余計じゃねぇか!?」

「冗談です冗談です。シンティラ。大丈夫だから握手してみな?」

「は、はい・・・」


若干怯え気味だがやっと俺の裾から手を放し、前に出て来た。


「よ、よろしくお願い・・・します」

「ああ!よろしくな!」


握手をした後少し安心したのか横にしがみ付く形には戻らず、ハニカミながら俺と手をつないで隣に居た。


「まあ、無闇に他者を攻撃しなければ大丈夫だろ。じゃあ今日は冒険者奴隷の登録に来たのか?」

「ええ、さっき済ませました」

「そうか。まあ、(ミドル)の冒険者奴隷なら多少の事は問題にならないからいいかもな!」

「そうですね・・・」


実際は冒険者奴隷になる事によってそんなメリットがあるとは思ってもみなかったが、シンティラが完全に安定するまでと、何かあった時の免罪符。それと、奴隷の身分でも店などを普通に使える様になると言うのはありがたい事だった。


「それはそうと、(ミドル)の依頼だろ?こっちの入口側の壁と立ってるボードがそうだぜ」


ギコに案内されて(ミドル)向けの掲示板を覗いた。


「なるほど・・・いろいろあるんですね。『北の森に出るリッチ8体の討伐』『東の山に出るトロール5体の討伐』『マトゥルの村で(ミドル)の冒険者を16名殺戮した黒豹族の女の捕獲』?ってこれは犯罪者の指名手配か、あとは~『南の街道に出る大型犬の討伐』?これなんか楽そうだな、報酬は・・・金貨10枚?(ミドル)Ⅲの依頼か・・・」

「お!なんか良さそうな物でもあったか?・・・あ~。これか・・・」


横から顔を出してきたギコが依頼書を見ると、苦い顔をした。


「ギコさん、この依頼知っているんですか?」

「あ~・・・まぁ、(ミドル)Ⅱの知り合いがな・・・これを受けて失敗したんだよ」

「え?大型犬ってもしかして何匹も居るんですか?」

「いや、詳しくは知らないが、犬は1匹だけらしいんだが、そいつ曰く『あれは犬じゃない』だそうだ」

「そうですか・・・。じゃあやめといた方が無難ですね」

「それより、こいつを一緒に受けねぇか!?」


ギコが一枚の依頼書を出してきた。


「『南の森のゴブリンの巣の掃討』?報酬は・・・金貨6枚?」

「おう!元々こいつは(ジュニア)の依頼書だったんだが、(ジュニア)の連中が行ったら巣の中には500は居たらしいぜ。そんで、(ジュニア)の連中じゃ手におえないって言うんで、報酬が跳ね上がって(ミドル)Ⅳのチーム依頼に来たんだよ」

「500って・・・多くないですか?」

「まあ多いが、お前と俺なら問題ないだろ?」

「まあ、確かに行けなくもないですが・・・」


確かに『氷槍(ファメア・グラキエ)』のフル詠唱で最大約70本まで氷槍を出せるし『爆炎(フランミス)』で一気に焼き払う事も可能ではある。しかし、シンティラだけを宿に残して置く訳にも行かないので、連れて行って大丈夫なのかが心配でもあった。


「実はシンティラの力がまだ安定していなくて、力を使うと周囲に無差別的に攻撃してしまうんですよ」

「そ、それは危ねぇな」

「なので、何とか形になれば行けますね。返事は明日でもいいですか?」

「おう、それでいいぜ!じゃあ、明日の夕方頃にまたここでいいか?」

「わかりました。じゃあ、また明日」

「おう!じゃあな!シンティラも頑張れよ!」


去り際にシンティラの頭をギコが強めに撫でると、シンティラが「あぅ」と小さく声を上げていたが、はにかみながら頭を押さえていた。

まあ、そこまで嫌がっている様子でもなかったので、ギコに対してはそれなりに抵抗は無い様だ。

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