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39・研究と特殊能力 その1

シンティラをベッドに寝かせたあと、昼もとっくに過ぎていたのでイザックにサンドイッチを5つ頼んだ。

眠ったままのシンティラが起きた時に食べる用の2つを残して、鵺と軽く食べて昼を済ませた。


昼を食べ終わった後どうしようかと考えたが、またシンティラを残して出掛けるのも可哀想な気がした。

なので、午後は部屋で作業をすることにした。


まずはシンティラの暴発する・・・と言うより、垂れ流していると言った方がいいかもしれない電流対策だ。


こういう時は、もう毎度お馴染みとなったルーン様の力を使うのが一番だろう。

ラークに教えて貰った魔法具屋で、銀貨2枚の力が弱い安い魔石を5つ買って来た。

その石を鵺に縄鏢になって貰って、ルーンを彫って行った。


今回使うルーンは、効果に分けて2種類の魔石を作る。

1種類は雷の意味を持つソーンと制限の意味を持つユルを刻んだ物を2つ、

もう1種類は力の意味を持つウルと安定の意味を持つイズを刻んだ物を3つ作った。


まず、ソーンとユルを刻んだ石は両腕に1つずつブレスレットにしてやり、ウルとイズを刻んだ3つを腰に巻けるように長めのミサンガ風で幅広の紐に付けた。


「ご主じーん。暇です~」


作業を進めていると鵺が、暇そうに声を掛けて来た。


「ん?ああ、悪いな。ちょっと、今日はやる事が沢山あるから、おとなしくしていてくれるか?」

「え~~。そんな~。僕、暇過ぎて死んじゃいますよ」

「じゃあ、ラークさんの所にでも行って来るか?」

「う~ん、そうですね・・・。暇ですし、遊びに行ってきま~す」

「ああ、あまり迷惑を掛けない様にな!」

「は~い」


そう言って鵺は窓からラークの所へ向かった。


俺は作業を進め、出来た物に魔力を流して定着させたあと、一度自分で試す事にした。

ブレスレットの方は自分に電気を起こす魔法が無いので、腰紐の方しか試せなかった。

試しに、自分の腕に巻き、そのまま力の加減や制御を考えずに照炎(フランマ)を発動させた。


ボッ!

「おお・・・なかなか、いい感じだな」


発動させた照炎(フランマ)は無意識の割には炎が小さく、自分が初めて魔法を使える様になった時と同じ位の大きさだった。

ちなみに通常は、何も考えずにやれば軽く部屋が火事になる程度に大きい炎が出る。

それがここまで小さくなったのだから、効果は間違いなく発揮されているだろう。

その上、自分が魔法を使うと言う意思は無効化される事無く、魔法は施行されていた。毎回思うのだが、ルーン魔法はチート気味に便利だ。


作業を始めて3時間程度経つが、シンティラはまだ幸せそうな顔をして寝ていた。

その内に、次の事を始めよう。


次はバールの街に出発する朝に、ゲンチアナから貰った召喚魔法の本で召喚魔法の勉強だ。

その本をカバンから取り出して中を見てみた。


「げ!全部、ラテン語かよ!はぁ・・・全部読めるかなぁ・・・」


魔法使いの本なのだから、あり得ない事ではなかった。

読んだ事のある魔法の本の中には、サンスクリット語やファリスク語と言ったもっと古い言語もあるのだから、まだラテン語は優しい方ではあった。

しかし、この世界には俺の愛用辞書が無いので、わからない単語があったら読めるか自信が無かった。

まあ、今は出来る所まで頑張るしかないだろう。




「いや・・・なんかおかしいだろ」


読み始めてから20分程で違和感に気付いた。

何気なく読み進めていたが、読めない単語が無かったのだ。


確かに勉強してラテン語は少しは読めるようにはなっていた。

しかしそれを含めても、異常な程書いてある文字が読めるのだ。

改めて本に目を向けたがやはり読めるし、書いてある単語の意味が理解できた。


試しに、苦手なサンスクリット語を意識して、ラークの所で買ったパピルス紙のような紙に文字を書いてみた。


मम नाम नर(私は男です)


やはり書ける。

一体、どういう事なんだろうか?

よくファンタジー小説の中で『異世界から転移した時に特殊な能力が付いた』なんて物があるが、そういった(たぐい)なのだろうか?

しかし戸惑う所はあるが、今は非常に助かる。

早速、ゲンチアナから貰った本を読み進めて行った。




「ん・・・う、ん?あれ?」

「お!シンティラ、起きたのか」


ゲンチアナの本を読んでいるとシンティラが起きて来た。

それに気付いて外を見ると大分、太陽が街の防護壁に隠れ始めていた。


「す、すみません!寝てしまって!」

「ああ、気にしなくていい。特に用事もないし、多分シンティラが起きていても暇だったと思うぞ」

「いえ・・・その、すみません」


飛び起きたシンティラは言葉では謝っていたが、少し嬉しそうな顔をしていた。

まあ3年も名前が無かったのだから、気持ちはわからないまでも無い。


「そうだ、シンティラ。ちょっとこっちに来てくれるか?」

「はい!」


膝を叩いてシンティラを呼ぶと、元気良く返事をして自分の座るイスの近くへやって来た。


「じゃあ、服を(まく)って」

「え、えっと・・・」

「あ!いや、すまん・・・」


俺が服を捲る様に言うと、シンティラは顔を赤くして戸惑っていた。

確かに説明も無くいきなりでは、戸惑うのも当然だろう。


「いや、わるい!言葉が足らなかったな!実は、お前のバチバチするのを何とかする為の道具を作ったんだ!それがお腹とか腰の辺りに付ける物だからな!それでお腹だけ服を持ち上げて欲しかったんだ!」


別にやましい事を考えて居た訳では無いが、いい訳でもするように早口になってしまった。


「あ。わ、わかりました」


そう言って、服をたくし上げて貰い。魔石が3つ付いた紐をお腹辺りに付けてやった。


「どうだ?苦しくないか?」

「はい」

「じゃあ、次は手首だな。両方出して」


次にブレスレット型の魔法具を両手首に付けてやった。


「よし。これでどうだ!」


魔法具を付け終って「どうだ」と言ってみたモノの、どうやら変化は感じないようでシンティラは首を傾げていた。

まあ、もともと電流は流したくて流している訳では無いので、わかりにくい。

しかも今回作った魔法具は、自分の意思で力を使おうとすれば使える様になっているので「電流を流してみろ」と言って流させても意味がないのだ。


「しかたないな、シンティラ。ちょっと後ろ向け」

「?・・は、はい」


首を傾げつつ命令通り、シンティラは後ろを向いた瞬間。


「ひゃ!キャハハハハッ!ご!ご主じ、ご主人様!やめ!や!ヒィー、ヒィー!・・・」


思いっきり脇腹をくすぐってやった。

まあ、苦しそうではあるが楽しそうでもあった。

見方によっては喜んでいる様にも見えるので、ひょっとしてMッ子なのかもしれない・・・。

っと、今回の実験はそういう趣旨ではなかった。


「うん!大丈夫そうだな!」

「ハーッ・・・ハーッ・・・な、なにがでひゅか?」


くすぐり終えるとシンティラは息も絶え絶えに、ピクピクして涙目になりながら床に転がっていた。

やり過ぎた感はあるが、しっかりと結果が見て取れた。


「シンティラ。ここまでしたのに、今バチバチしたの出なかっただろ?」

「へ?あ・・・」


シンティラも気付いたようだ。散々、呼吸困難になる程くすぐったにも関わらず、電流は一切流れて来なかったのだ。


「よかった。これで、明日からシンティラも一緒に出掛けられるな」

「は・・・はひ。ありはとう、ごじゃいまひゅ」


うん。

いくらなんでもやり過ぎたようで、未だに涙目のまま言葉もおぼついて居なかった。


「あ~・・・わるいな。やり過ぎた」

「い、いえ。でも、もうしないで・・・欲しいです」

「うん・・・わるかった」



その後、シンティラが少し落ち着いた頃に鵺が帰って来たので、みんなで夕食を取る事にした。

夕食もイザックに部屋へ持って来て貰った。

本当は食堂に行こうかと考えたが、シンティラがまだ他者の事が怖いと言うので今日の所は、部屋で落ち着く事にした。


「フーッ・・・相変わらずココの飯はうまいな」

「そうですね。僕はコロハさんやご主人の作ったご飯も好きですが、ここのご飯も中々美味しいです」

「あ、あの!」


鵺と夕飯の味について満足していると、シンティラが声を掛けて来た。


「ご飯もそうですが、服とかもこんなにいい物を頂いで・・・本当にありがとうございます!」

「いや。朝も話したと思うが、俺がやりたい様にしてるだけだから気にするな」

「いえ、奴隷なのにこんなによくして貰って、私なんかが訳に立てるか不安なんです・・・」

「そこは大丈夫だろ。シンティラの電気は確実に役に立つと思うぞ?」

「デンキ・・・ですか?」

「あー・・・そうか」


電気と言う言葉にシンティラが首を傾げていた。

確かゲンチアナも電気を知らなかったのを思い出した。


「電気って言うのはシンティラが出しているパチパチした物の事だ」

「グロムの事ですか?」

「ん?雷獣族ではグロムと言うのか?」

「はい。私はお父さんやお母さんよりグロムが多いらしくて、自分でもうまく使えないんです」

「そうか。まあそのグロムというモノが俺の居た所では電気という。その電気には強い力が有るから使い方さえ覚えれば何とかなるだろ」


そういうと、シンティラが俯いて落ち込みだした。


「ん?どうした?」

「すみません・・・私、自分で思う様に使えないですし、やり方もわからないんです」

「あぁ、その事なら大丈夫だ」

「え?」


俺の大丈夫という言葉で顔を上げたが、流石に同じ雷獣族でもない俺が制御方法を知っている筈が無いと思って居るのか、不安げになっていた。


しかし、手当(アッロワンセ)の時に魔力を流してわかった事があったのだ。

シンティラの体の構造上、特殊な臓器や人と違う器官が無かった。


つまりシンティラが発している電気は「生まれながらの魔力の性質」と言う可能性が高い。元が魔力なのであれば問題解決は簡単である。

一度、魔道具を外して貰って、その時に魔力がどうやって働いているのかを知り、俺が電撃を使える様になればいい話なのだ。


「まあ、考えはあるから任せて置け」

「は、はい。よろしくお願いします」

「まあ、ご主人の事だから何でも出来そうな気がしますけどね」

「何でもは流石に出来ないけど、この件に関しては何とかなりそうだ。まあ、明日も色々あるし、寝る支度をしますか」

「わかりました・・・。あ、あの。私は何をすればいいですか?」


寝る支度をする事を、背中を伸ばしながら言うと、顔を赤くしたシンティラが若干モジモジしながら聞いて来た。

別に恥ずかしがる要素は今の話には無かった筈だった。

まあ、心当たりが無い訳でも無い。

しかし別にそういう意図は全くないので、スルーする事にした。


「う~ん・・・そうだな。じゃあ、桶にお湯を入れるから、そこにある布で体を拭いて」

「ご、ご主人様の体をお拭きすればいいのですね!」

「いや、そうじゃなくて・・・。俺は俺で自分で拭くから、シンティラも自分で体を拭いてって事」

「そ、そうでしたか・・・」


自分の事は自分でしようとすると何故かシンティラが落ち込み始めた。


「ご主じ~ん。折角シンティラちゃんがやる気を出しているんですから、手伝って貰えばいいじゃないですか」

「そうは言ってもなぁ~・・・」

「・・・」


鵺がシンティラの後押しをするように言って来たが、別に自分の事ぐらいは自分で出来るので断ろうとした。

断ろうとしてシンティラの方に改めて目を向けると、尻尾を下げて両手で手ぬぐいの様な布を持って若干涙目になりながら、こっちを見ていた。


正直その眼はやめて欲しい。なぜか俺が虐めている様に思えて来てしょうがない。昔、TVのCMに出ていたチワワを彷彿(ほうふつ)とさせる、そんな眼だ。


しばらく負けまいと頑張ってはみたが・・・最終的に俺が負けた。

もちろん全身は恥ずかしいので背中だけ拭いて貰ったのだが、その頼みに嬉しそうにシンティラは俺の背中を拭いていた。


シンティラも背中だけは俺が拭いて、あとは自分で体を拭いた後、俺が適当に買って来たネグリジェを着させて寝る準備は整った。

あとは、最後にやる事をやって寝るだけだ。


「さて、シンティラ」

「は、はい!よろしくお願いします!」


シンティラに声を掛けると、なぜかベッドの上で顔を赤くして頭を下げて来た。


「ん?どうしたの?」

「あ、あの!ご、ごごご主人様によ、喜んでもらえる様に頑張ります!」


何を勘違いしているのか、今にも湯気が顔から吹き出しそうな程真っ赤になっていた。


「シンティラ?とりあえず、落ち着いて?」

「は、はい!」


返事はするモノのこちらを一切見ようとせず、緊張で体を固まらせたままだった。

変に筋肉に力が入っているとやり難いので落ち着いて欲しいモノだが、このままではいつまで経っても先に進まなそうだったので、少々強引に事を進める事にした。


シンティラの頬に手を伸ばして触れた瞬間、シンティラの体がビクッと反応した。

そのまま、首の後ろに手をまわして小さな体を自分の方へ引き寄せた。


そして、そのまま・・・




首と後頭部のツボに魔力を流して眠らせた。



「フ~ッ。少し強引だったがしょうがないな」

「あ、あの・・・ご主人?何しているんですか?」

「ん?あぁ、手当(アッロワンセ)を掛けるのに筋肉が硬直していると効きが悪いから眠って貰った」


そう。別にどうこうしようと言う訳では無く、昨日はシンティラの体力も考えて途中でやめた手当(アッロワンセ)の続きをしようと思って居たのだ。


「はぁ~、ご主人。折角シンティラちゃんが覚悟を決めて居たのに、酷くないですか?」

「いや・・・。確かに気持ちは嬉しいが、もう少し時間を置いた方がいいだろう・・・。っと言うかそういう状況を想像しているお前が、なんでずっと見ているんだよ」

「てへっ」

「『てへっ』じゃねぇよ。まったく・・・さて、さっさと手当(アッロワンセ)を掛けてやるか」


恐らくは、今日だけでいろいろな事があったから空回りしているだけなんだろうと思い、しばらくは頑張って理性を保って居ようと決めている。


正直、さっきもヤバいところまで流されそうだったので、自信は無いが・・・。


そうしてシンティラに手当(アッロワンセ)を掛けてやった後、自分も眠る事にした。

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