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38・放電による火花

「なるほど、名前の剥奪ですか・・・。という事は罪重は4か5ですね」


飯を食べ終えたあと、本人に奴隷のあれこれを聞く訳にもいかないので、俺は一人でラークの所に来ていた。

少女はまだ他者に対して恐怖心があり、街中で放電されても困るので話し相手の鵺を残して留守番させて来た。


「確か、奴隷商の(くそ)が『(ざい)(じゅう)は4だ』とかなんとか言ってましたね。なんなんですか?その罪重って」

「ハハハハッ、随分奴隷商も嫌われたモノですね。

罪重と言うのは、その者が奴隷に落とされた原因となる罪の重さです。

罪重は1~5まであります。

まあ、その度合いによって剥奪されるモノと奴隷の身分で居なければいけない最低期間が変わってきます。

1は財産で期間は3年

2は財産と身体権で期間は7年

3は財産、身体権、家族で期間は15年

4は財産、身体権、家族、名前で期間は26年

5は財産、身体権、家族、名前、身分復帰権で期間は無期限です。

ちなみに3以上で奴隷に落とされた家族は罪重1ですが、お金を払えば奴隷にならずに済みます」

「『身分復帰権』は奴隷から解放されないって事でわかりますが、『身体権』って言うのはなんです?」

「『身体権』と言うのは、体の自由の事です。2以上の奴隷が付けている従属の首輪は、主人の命令に逆らえば苦痛を与える様に出来ています。

また、主人は奴隷に何をしても罪になりません。それこそ、命を奪ったとしてもです。

うちの奴隷は罪重2ですが、あと3年で最低期間が過ぎますが期間を過ぎたあと、その奴隷を解放するかどうかは主人の自由です。まあ、あの子たちは懸命に働いてくれていますので、期間が来たら少し考えようかと思ってます」

「そうですか・・・」


ラークの説明を聞いて居て一つ引っかかった。

あそこまで臆病で泣き虫な子がそこまで重い罪を犯したとは考えにくい。

何か事情があるのだろう。


「なにか、しっくり来ていない顔ですね。」

「え?」

「そうですね~。ミツル殿の顔に書いてある文字を見る限りですと“あの子がそんなに重い罪に問われるのはおかしい”・・・そんな感じでしょうか?」

「あ、あぁ。そんなに、わかりやすい顔をしていましたか・・・。あいつは泣き虫で恐がりなだけだ。そんな奴がそんな罪を犯すものなのか?と思って」

「おそらくは、あの子の最初の罪重は3だったと思いますよ?」

「は?どういう事です?」

「うちの子たちもそうなのですが、罪重1の者にお金が無いと2になってしまうんです。

おそらくあの子は何かしらの事情で、力が暴走して身分がある者を傷つけてしまったのでしょう。

しかし、その子にお金も無いし家族も居なかった。

そうなれば、剥奪に不足があるので罪重が上がるのです」

「そうか・・・あいつも家族が居ないのか」


俺にも家族は居なかった。

小学校に上がる前に家が火事で焼けて、助かったのは俺だけだった。

孤児院での生活はそれなりに楽しいモノだった。院の人は優しかったし、仲間もいい奴ばかりだった。俺は家族が居なくてもそれなりに生活していたのだ。

だが、あいつはそうじゃない。

他者に(しいた)げられ鞭を打たれ、傷付けられて来た。

あの様子だと、その前から何かあるような気がした。


「ラークさん。いろいろありがとうございます。あともう一つ聞いていいですか?」

「なんでしょう?」

「ラークさんの所にいる奴隷の子たちの首輪なんですが、あいつの着けている首輪より細くてアクセサリーにも見えるんです。それも罪重に関係しているんでしょうか?」


少女が付けている首輪は、見た目的にも重苦しくて見ていて気持ちのいい物ではなかった。

しかしラークの所の奴隷が着けている首輪は、見た目にもあまり目立たないチョーカーのような首輪だった。


「いえいえ、あれは私が用意した物ですよ」

「ラークさんが?」

「はい。やはり商売上いかにもな奴隷の恰好をされると、見た目的にも美しくないですから。ですから、そういう所に使う奴隷用の首輪を着けさせてます」


罪重に関係なく変えられるのであれば、変えてやりたい。

俺の精神衛生の為にも。


「それって高いんですか?」

「まあそこそこしますが、ミツル殿には問題ないでしょう。そうそう、昨日お渡し出来なかった代金をお渡ししなくてはいけませんね。おーい!ミーナ!ミツル殿に渡す物を持って来てくれ!」


すこしすると、タッタッタッタッと足音がして、この前のネズミの様な耳と尻尾の付いた女の子が金貨の入った袋を持って来た。

改めて見ても女の子の首に付いているそれは、奴隷を使役する為の首輪には見えなかった。


「では、金貨30枚の支払いです。お確かめください」

「あぁ、ありがとうございます。それで、首輪なんですけど」

「はい、これですね」


そう言うと、女の子が黄色の雫型の石が付いた黒いチョーカーをラークに渡した。


「え?」

「クスクスクスッ!きっとミツル殿の事ですから、そう言われるのではないかと思いましてね。昨日注文して、今朝あの子に合いそうな物を用意しておいたんですよ」

「よ、よくわかりましたね・・・」

「いえいえ、これでも商店の主人ですからこれぐらいは普通ですよ。値段は銀貨30枚ですが、今回は甕の件で大分おいしい思いをしましたので差し上げますよ」

「え!?いいんですか!?」

「えぇ、まあこれから甕以外の商品への期待も込めての賄賂(わいろ)ですよ」


ラークはニヤリと笑ってそういったが、流石商人というかなんと言うかだ。

少なからず、少しは自分の事を理解してくれている事がわかって嬉しかった。


「ありがとうございます!ラークさん!この借りは返します!」

「えぇ、期待しております」


その後、ラークから首輪の取り換え方とこれから(そろ)えたい商品について話して、あまりあの子を放って置く訳にもいかないので早めに宿へ戻る事にした。





「おかえり、ご主じ~ん」

「あ!お帰りなさい、ご主人様!」

「ただいま~。ゴフッ!・・・」


部屋に帰ると少女が鵺とベッドで話していたが、立ち上がってこちらへ走って抱き着いて来た。身長が150cmに満たない彼女に勢いよく抱き着かれると、肺の空気を一気に押し出された。

見た目には可愛く見えるこの行動だが、なかなかに威力が高い。それに加えてピリピリと電気が伝わって来るというなかなかに微笑ましくも危険なタックルなのだ。


「あぁ、ただいま・・・ん?ご主人様?」


抱き着いて来た少女の頭を撫でてやり再度声を掛けたが、遅れて俺を呼ぶ呼び方に疑問符が浮かんだ。


「はい!鵺さんと話して、やはりご主人様と呼ぶべきだと思ったんです!」

「あ、あぁ、そうか」


しかし、どうも俺は“様”付けと言うのに抵抗を感じていた。

なので一度考え直して貰おうとした瞬間、


「けどな────」

「ダメ・・・ですか?」


抱き着いたまま寂しそうな上目使いで見上げて来た。


「い、いや・・・その・・・うん、好きにしていいよ」

「ありがとうございます!ご主人様!」


俺はその攻撃に敗北した。

誰に言い訳するでもないが、あれは無理だった。卑怯すぎる。こんな可愛い少女に上目使いで、言われれば嫌と言える奴はこの世に存在しないだろう。

俺が許可を出すと、嬉しそうに再度ギュッと抱き着いて電気を流して来た。


(これって親バカみたいだよな・・・)

「いえ、ただの女の子に骨抜きにされた男性だと思いますよ?」


俺の思考に鵺が突っ込みを入れて来た。


「・・・なんで、俺の心の声がわかるんだよ」

「いやぁ~。ご主人の事だから“自分の娘でも、こうやって許しちゃうんだろうな・・・”なんて考えているんじゃないですか?」


この鳥・・・意外といい所まで勘付いていた。

こいつは余計な事は喋るし、うるさいが頭は悪くないのだ。まあバカではあるが。


「まあご主人も男ですから、自分の奴隷に手を出しても誰も文句は言わないと思いますが」

「お前は何を言っているんだ。主人になったからってそいつの意思を無視してそんな事、出来る訳ないだろ!」

「ご、ご主人様!」


鵺と話していると、少女が真剣な顔をして声を掛けて来た。

心なしか、顔が少し赤いようだ。


「あ、あの・・・。私、ご主人様なら大丈夫です!そ、その・・・は、初めてなので・・・や、優しくしてもらえると・・・」


意を決した様に言って来た少女は何を言うかと思えば、妙な事を口走り始めた。


「・・・おい、鵺。お前こいつになに吹き込んだんだ?」

「いえ。何も言ってませんよ!」

「正直に話した方がいいぞ?」

「あ、あの!鵺さんは関係なくて、その・・・。私がそうしたいと、言うかなんというか・・・」


鵺が何か良からぬ事を吹き込んだのだろうと思って問い詰めていると、少女はそれを否定して、(うれし)()ずかしい事を声が小さくなりながらも言って来た。

少女も相当恥ずかしいのか、顔を赤くして電気をピリピリと放電していた。


「そうかわかった、ありがとうな。だが、それはもう少し落ち着いてからでいい。まずは、その暴走した力とかを何とかしないとな。正直、俺も完全にお前の力が効かない訳じゃないからな」

「わ、わかりました」


少女は少し残念そうにしていたが、納得してくれた。

正直俺も嬉しくも残念だが、今のままではその時にいろいろと不都合があるので、それが解決してからという事にした。


「それはそうと、お前にあげるモノが2つあるんだ」

「わ、私に頂ける物ですか!?」

「あぁ、一つはこれだ」


先ほどラークからもらったチョーカー型の首輪を出して渡した。


「あ、あの。ご主人様。私は、この首輪がついているので・・・その・・・」

「あぁ、これは交換する用の従属の首輪だ。そんな重苦しい物いつまでも着けているのも、嫌だろ。っと言うか俺が見ていて嫌だから変えてくれ!」

「は、はい。わかりました」


そう言って、ラークに教えて貰った通りに交換作業を始めた。


アクセサリー型の従属の首輪には2つの使い方がある。

1つはすでに首輪が付いている奴隷の首輪を交換する。

もう1つは当人同士の任意で、主従関係を誓う為のモノだ。


1つ目の用途に使う場合は、主人の血を所定の場所に付けて首輪をはめれば、古い首輪は自動的に最低期間を新しい首輪に引き継いで外れる。

もう1つの用途で使う場合は、所有者を変える時に前主人が血を付けるところに自身の、そして新主人の所に主人となる者の血を着けて制約の言葉を言えば発動する。


今回は普通に俺の血を付けて少女の首にはめれば、自動的に古い首輪はゴトンと重そうな音を立てて外れた。


「うん!なかなか、似合っているな」

「ありがとうございます!」

「わ~、可愛いな~」

「ありがとうございます、鵺さん!」


どうやら新しい首輪は気に入ってくれている様だったので、少しほっとした。

そして、次のモノも気に入ってくれればいいのだが。


「さて、もう一つあげるモノがある」

「は、はい。で、でもそんなに頂いてしまっていいのでしょうか?」

「いや、もう一つの方が無いと困るモノだから受け取って欲しい」

「わ、わかりました」


まだ奴隷という身分を気にしているせいで遠慮していたが、どちらかと言うとこちらの方が大事なモノだった。


「もう一つは、シンティラ。お前の名前だ。」

「え?」


シンティラ。

ラークの店から帰る途中にいろいろ考えた末に出した、少女に名付ける名前だった。


シンティラはイタリア語で、放電による火花を意味している。

音色的にもいいし意味もまさに『名は体を表す』という言葉通り、電気を放つ少女にぴったりだった。


「私の・・・私の名前・・・」

「あぁ。俺の故郷から少し離れた国の言葉で、お前の出す光の事をそういう。すごく辺境の地の言葉だから、同じ名前の奴はいないだろう・・・。まあ、何となく音が嫌とかあるなら変えるが・・・」

「いえ!ありがとうございます!・・・そ、その、もう一回言って貰えますか?」


別の案も言おうとすると、お礼を言いながら抱き着いて来た。


「あぁ、いいよ。シンティラ」

「もう一回お願いします」

「シンティラ」

「はい。ご主人様。・・・もう一回呼んで下さいますか?」

「いいよ。シンティラ」

「ありがとうございます。ご主人様・・・。シンティラはこの名前は失くしません」

「あぁ。改めてよろしくな。シンティラ」

「はい・・・」


シンティラはそのまま俺を放そうとせず、何度も忘れない様に繰り返し名前を呼ぶように頼んで来た。そのまましばらく、自分の胸に抱き着いていた。


しばらくしても一向に動こうとしないので顔を覗くと、シンティラは涙を流して笑顔のまま眠っていた。

なんだか16歳と言っていたが、とても高校1年生と同じ歳とは思えない幼さだった。

やはり今まで居た環境が大きく関係しているのだろうと思いながら、起こさない様にベッドへ運んでやった。

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