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34・先人の記録と自分の登録

「先ほどのお言葉・・・もしや私と同じ種族にお会いになった事が?」


ギルド長ブルホンの部屋に入ると、垂れたうさ耳をした女性が紅茶を入れてくれた。

その間は二人とも沈黙していたが、女性が部屋を出た後、こちらから話を切り出した。


「あぁ・・・それより種族などと言わず、同じ『人間』に、と言った方がいいのでは?」


やはり、ブルホンは俺が人間だと気付いて居たのだ。


「今から30年前になるか・・・

儂がまだ、各地を旅していた時にスクラードの山脈の奥地で会った。

その者はもう死んでしまったが、その時に

『人間は魔法の種類を問わず、特殊魔法も含めて、ある程度想像さえすれば使える』と教わった。

そのほかにも人間について詳しく聞いた」

「では!他の人間が今どこで暮らしているかも!?」


一瞬希望が持てた。

もしかしたら、人間の集落があってそこに行けば何か手がかりがあるのではと・・・。

しかし、その質問にブルホンは首を横に振った。


「いや・・・。その事についても聞いたが、人間はバラバラになってしまって、一カ所には暮らして居ないそうだ・・・。

そして人間の血を濃く継いでる者も少なく、その者が最後かもしれないと言っていた」

「そうですか・・・」


大きく希望を持ったが、やはり上手くは行かない様だ。その情報をくれた者も既にこの世界に居ないのだ。俺はあからさまに肩を落とした。それを見たブルホンが言葉を続けた。


「しかし20年前に、スクラードの山脈の近くを通った際にそいつの家があった所へ寄ったのだ。その時にその者がすでに死んだ事を知った。家はまだ残っていて、その中に一つの手紙があった・・・。自分には全く文字がわからなかったが、手紙の最後だけはこの国の言葉で書いてあった・・・

『いつか・・・ブルホンがこの手紙を見つけたのなら、持って居て欲しい。そして人間にもしもまた会ったら、渡してほしい』・・・それがこの手紙だ」


そう言ってブルホンが本棚から木の箱を取り出し、渡して来た。

中身を見ると、一通の手紙が入っていた。


その紙を広げた瞬間驚いた。この世界にある筈が無い物。


「な、なんで・・・なんで、日本語が・・・」


広げた手紙は確かに、漢字・ひらがな・カタカナで書かれていた。


「やはり、それは人間の言葉であったか・・・

良ければだが、儂にも書かれている事を教えてくれないか?

実は20年間、内容が気になっていたのだ」

「・・・わかりました。では、読みます・・・。

『この手紙を受け取った人は、この文字が読めているだろうか?

この手紙を手にした者がこの字を読めるのであれば、気付いて居るだろう。

俺は違う世界の日本という所から来た。

この世界は最初、ゲームの夢でも見ているのでは、と思って居たが間違いなく現実だと程無くして知った。

そして、帰る為の方法を探す旅をしてわかった事がある。

この世界に居た人間は殆んどいないのだ。

各地の話を聞くと大昔は居たとらしいが、それも魔族との戦争で激減し、また友好的な者は多種族と血が混ざって数を減らした。

やっとの事で見つけた人間も両親が他の世界から来た人間で、俺の世界の人間ではなかったのだ。

俺は諦めてこの世界で、一生を送る事を覚悟した。

しかし、この世界は人間に対しては恐怖の対象でしかないのだ。

そんな人間が普通に暮らせる筈もなく、俺はスクラードの山に身を置くことにした。

その20年後、ブルホンが来た5年後に、とある人間が突然訪ねて来た。

その人は魔大陸の奥、カーグラガム山の人間の村から来たそうだ。

そこには他の世界から来た人間も居るそうだ・・・。

旅にも出ようかと思ったが、自分には遅すぎた。

肺を患ってしまっていたのだ。

咳と共に血が出て来る。結核かガンになっていたのだ。

体力も無く、山を下りる事も出来ない。

悔しいが、自分はこのままここで一生を終えるだろう。

しかし、もしも他に自分と同じ者が居たら、そいつにはそこへ行って欲しい。

だからこの場所を、俺を知る数少ない友人にこの手紙を託そうと思う。

ブルホンには、済まないと伝えて欲しい。

『いつか・・・ブルホンがこの手紙を見つけたのなら、持って居て欲しい。そして人間にもしも会ったら、渡してほしい』 伊藤 正則 』これで以上です」

「そうか、トウマサの奴は本当はイトウ マサノリという名だったのか・・・。

あいつめ・・・2年も一緒に暮らしたのに、一言も無しに死におって・・・。

謝るなら自分で伝えろ!」


手紙を読み終えると、ブルホンは文句を言い出した。

しかしその顔には怒りではなく、笑いながら涙を流していた。


俺は俺で思わぬ収穫を得ることが出来た。

伊藤さんが残した手紙によって、自分の希望と目標が持てたのだ。

今は急がなくていい。しかしいつかは魔大陸の奥、カーグラガムの山へ行く事を決意した。


「見っともない所をお見せしてたな・・・。

そうか、ミツルもあいつも違う世界から来たのだな・・・。

ミツルよ、どうするのだ?」

「はい・・・。すぐではありませんが、ゆくゆくはカーグラガムへ向かおうと思います」

「そうか、そうであろうな。それにそれが、あいつの願いでもある」

「そうですね。私にとっても、目標を持つことが出来ました。手紙を見せて下さいまして、ありがとうございます」

「いやいや、あいつの最後の望みだ。儂もそれを果たし、そして20年間謎だった内容が判明した事が何よりだ・・・。それはいいとして、こちらの話も進めなくてはな!」

リンリーン!


気分でも切り替えるようにブルホンが声を大きくして、机に置いてあったベルを鳴らした。するとすこし間を空けて、紅茶を持って来たうさ耳の女性がギルドの手続きの書類をトレーに入れて持ってきた。


「あぁ、ありがとう・・・。まずはこの登録の紙に記入して貰いたいのだが、種族はフマナと書いてくれ」

「フマナ?」

「お前さんも魔法使い、それも一流と言われる魔法使いだろ?魔法詠唱の言語は理解していないのか?」

「フマナ・・・Humana・・・あ!なるほど、そういうことですか」


この文字の意味は魔法使い、それも魔法詠唱以外の言葉を学ばない限りは知らないのも無理はない言葉だ。

ブルホンが言った種族名humanaとはラテン語で人間を意味する。

つまり魔法の研究、もしくはその知識に学歴のある者にしかわからない単語なのだ。


Humana(フマナ)は各ギルド長や魔術師しかわからん。まず、ギルドの受付で提示したとしても“珍しい種族”としか認識されないだろう」

「なるほど・・・知識と経験がある者にしか、わからない様になっているという事ですか」

「しかしその反面で、(けん)人間派(じんまは)という“人間は災厄の種だから、見つけ次第殺すべきだ”と思っている連中に見つかると厄介だぞ」

「たしかに知識と経験を持った賢人達に狙われるのは、恐ろしいモノがありますね」

「そういう事だ。そこ以外は普通に埋めればよい。こちらの字は問題ないか?」

「はい。自分で書けます」


パピルス紙のような物で出来た書類に目を通すと事務的な内容の項目が並んでいた。その内容に上から順に埋めて行った。


名前 ミツル・ウオマ

種族 Humana(フマナ)

年齢 25

地位称位(ちいしょうい)(身分のランク) 魔法使い

得意魔法 水系魔法(他が使えるとかは書く項目がないので、嘘は書いてない)

武器 片刃剣

所有奴隷・・・?


「ん?所有・・・奴隷?」

「ん?なにかわからない項目があったか?」


思わず疑問を口にすると、他の書類整理をしていたブルホンが聞いて来た。


「所有奴隷ってあるんですけど、冒険者って奴隷を持ている事が多いんですか?」

「あぁ、駆け出しの奴や貧乏な奴は持たないが、普通は連れているモノだ」

「そうなんですか・・・ちなみに、ブルホンさんも?」

「儂?あぁ、儂も持って居たがな。ギルド長になってからは必要なくなったから、解放してやった」

「へぇー」

「まあ、未だに仕えてはくれて居るがな」

「え?」

「ほれ!さっきの紅茶や書類を持って来た奴がおったろ。あやつが、儂の元奴隷だ」


そういえば秘書的なうさ耳女性が居たが、あの女性が元奴隷だったとは思わなかった。

それに解放したと言っていたが、その後も近くを離れない所から、ブルホンが信頼や尊敬されている事がわかる。


「ミツルの世界には奴隷は居なかったのか?」

「えぇ、そういう制度がある国もありましたが、自分の居た所には無かったです」

「そうか、大抵の冒険者の場合は戦力になる男の奴隷を買う事が多い。

自分自身に自信がある物は逆に、身辺の世話をしてくれる女の奴隷を買う事が多い。

まあ、若い冒険者の中には寂しさを紛らわす為に性奴隷として買う奴も居るが、そういう奴は大抵身を滅ぼす」

「なるほど・・・。この所有奴隷の空白項目が8つある理由は何かあるんですか?」

「ん?いや特に無いが、チームの構成数が10を超えるとスクワッド(隊)としての登録になる。

ギルドの討伐依頼の中にはスクワッド(隊)や30名以上で構成されるバタリオン(大隊)での依頼がある。

そういう場合は大抵は他チームと組んで依頼を受ける事になる。そこら辺も含めて、各説明事項を伝えるかな」

「お願いします」


そう言ってバームは自分の席を立ち、俺が座っているソファーの前に腰を掛けて書類を広げた。


「まずは、ランクから説明しようか。ギルドランクは下から、

ビギナーの3~1』『ジュニアの5~1』『ミドルの5~1』『ハイの5~1』『ファーストの3~1』とあり、

数字が少ない方がランクが高い。

お主は今回、特例で『(ミドル)の3』から始まるが、普通は『(ビギナー)』から始まる。試験の結果で3~1のどれかから始まるのが通常だ。ほとんどの登録している冒険者は『(ジュニア)』か『(ミドル)』が多い。『(ハイ)』にもなれば剣王や剣神、魔術師がこの部類だ。ちなみに儂は『(ハイ)の3』だ。ここまではいいか?」

「はい」

「まあ、お前さんの場合は『(ハイ)』でも問題ないかもしれないがな・・・ククククッ」

「まあ、今の所は『魔法使い』ですから『(ミドル)』で十分です」


ブルホンはすでに俺が人間である時点で、魔術師でもある事はわかっていた。

その上で紙に俺の書いた『地位称位(ちいしょうい)(身分のランク)・・・魔法使い』の欄を見て、からかう様に笑いながらからかって来た。


「あぁ、あと『(ファースト)』ってやつだが・・・これはもう尋常じゃない領域だ」

「具体的には?」

「一者で街一つを、何もなかったかの様に更地に出来るレベルだな」

「そ、それは関わりたくないですね・・・」

「安心していい。今はみんな死んでいないからな、今は3ランクとも空席だ。

さて、ギルド証だがな、あとで渡すが説明だけ先にしておこう。

ギルド証はこの世界中の大陸を問わず、何処の国でも共通の身分証になる。

それから、世界中の何処のギルドでも依頼を受けられるようになる。旅をするのならば、便利なものだな。

今回は冒険者ギルドのギルド証だけだが、一つのギルド証に魔法ギルドや商業ギルドの情報も追加出来る。その気があるなら、魔法ギルドに登録してもいいかもしれんな。

依頼を受ける時はこのギルド証と依頼書を持って受付に行き、依頼完了の時も依頼書とギルド証、依頼ごとに決まっている討伐部位などの依頼完了証拠を出せば、報酬がもらえる。

依頼を受けてから途中でキャンセルか失敗すれば、違約金で1000パル取られるから気を付けることだな。

依頼ランクの掲示方法はギルドごとで多少異なるが、大抵は『初』『下』と『中』『上』で1階と2階とか西側と東側でわかれている。

依頼ランクは自分のランクより下は4つまで、上は3つまで受けられる。『中』以上になるとランクを上げる明確条件は無いが、真面目に依頼をこなしていれば、その内『中の1』まで上がる。

依頼受け方とかの説明はこれぐらい・・・あぁ、あともう一つ。依頼とは別に素材や薬草を取って来た場合は、ギルドで買い取る事も出来る・・・まぁ、質に自信があるなら外に売りに行った方が売れる場合もあるがな・・・それぐらいだ」

「わかりました。あとは、禁止事項などはありませんか?」

「禁止事項?そんなモノは特にない。強いて言うなら、各国にある法を犯さない事・・・位だな。犯罪を犯して捕まれば、身分を落とされて奴隷になる。そうなればギルドの資格も無くなるからな。まあ、犯罪を犯して捕まればの話だ」

「なんですか、その『捕まらなければ犯罪じゃない』みたいな言い方は・・・」

「まあ、実際この世界は何処もそんなモンだ」

「はぁ~・・・」


ゲームやファンタジーに出て来るギルドとは思った以上に違い、結構アバウトの様だった。


「おっと、忘れていた。あとミドル以上の冒険者は平民への武力行使が認められている。無闇にするとギルドの資格が剥奪されて、同じく身分を落とされて奴隷になるが、まあ無差別殺戮でもしない限りは不問になるがな」

「そんなんで、いいんですかね・・・」


そんなアバウトな説明を受けた後、登録料銀貨1枚を支払って作られたギルド証を受け取った。

ギルド証は厚さ1cm程の銀色の金属で、表には冒険者(アドベンチャー)のAと中(ミドル)のM、そしてローマ数字でランクのⅢと刻印されていた。


何となくではあるが中二病な俺としては、これから冒険が始まるような気分でギルドを後にした。

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