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33・冒険者ギルド長

「ったく・・・そんなの在りかよ!まさか、形態を変えられる魔剣だったとはな。しかも獣化してるなんて、ガキん時に読んだ伝説でしか聞いた事ねーよ」


負けたギコは笑いながら大の字に寝そべって、文句を言っていた。


「へ~。じゃあ僕、よっぽど珍しいんですね」

「ああ。珍しいどころじゃない・・・それに、なんで鳥のお前が喋ってるんだよ!」


先ほどは試合の最中という事もあってツッコンで来なかったが、起き上ってツッコンで来た。やはり誰でもツッコミたくなる事なんだろう。


「ああ、それはこいつの足に付いてる魔法具で喋れるようになってるんです」

「そうなんです!すごいでしょ!」

「へぇ~そんなのもあるんだな・・・。はぁ~・・・とんでもないのが入って来たモンだ。見た目は一般民の弱そうに見えるが、中身は杖なしで魔法は撃つし、しかもそれは完全無詠唱。剣も魔剣を従えて腕も上等、その上しっかり使い(こな)せてると来たモンだ。大した化け物だよ」

「アハハハハッ!そうでもないですよ。あのまましばらく打ち合ってたら、俺の方が手が痺れて鵺を落としてますよ」

「でも、さっきの捌き方を見る限りじゃあ・・・まだ本気じゃないだろ?」

「さあ、どうでしょう?クククッ」

「はぁ~・・・食えない奴だね」

「あの~・・・終わりましたか?」


ギコと話していると、後ろから声がしたので振り向くと、先ほどの受付嬢のミリが扉から顔を出してこちらを伺っていた。


「ああ!終わったぜ!文句無しの合格だ!」


ギコが立ち上がりながらズボンを叩いてミリに報告した。


「え!?ギコさんが合格を出したんですか!?」

「あぁ、俺に勝ったんだ。文句の付け様がねぇよ」

「え!?ええぇぇぇ!ギコさんに勝ったんですか!?」

「あぁ」


この世界の奴と手合せをした事が無いので、はっきりは分からないが、ギコの剣のスピードやパワーは相当な物だった。そして何より剣を使うのに魔法使いでもあるのだ。

もし、相手が魔法使いなら詠唱している間に斬り掛かれるし、相手が武器を使う場合は距離を取って魔法を打てば勝てるのだ。


「え?え?まさかギコさん・・・二日酔いとか?」

「いや、絶好調だ」

「この間、ギルド長に注意されて魔法は使わなかったとか」

「いや、魔法も使った」

「じゃあ、剣を片手に限定して・・・」

「あ~!もう、うるせーな!俺が本気で殺そうと思ってやったが、負けたんだよ!もう、これ以上聞くな!」


ギコが負けた事がそんなに珍しいのか、ミリがあれこれ聞いて居ると、ギコが怒鳴り出した。

まあ、誰でも負けた原因を根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だろう。


「う、うそ!本気のギコさんが負けたなんて・・・」

「はぁ~・・・こいつは俺と同じなんだよ」

「は?ギコさんと同じって?」

「剣も使えるが魔法も撃てる。しかも完全な無詠唱だ。この街の魔法ギルドにだって無詠唱なんて芸当が出来るのは3者だけだ。それが魔法名も無しとなれば、いないだろう」

「え!?無詠唱ですか!?」

「ああ。こいつはこんな姿(なり)だが、間違いなく一流の魔法使いだよ。しかも、俺に剣で勝てるほどの剣の腕を持った化け物だ」


そう俺の事をギコが説明すると、ミリはこちらを見て顔が青くなり始めた。


(あ・・・この反応は覚えがある・・・)

「い、一流の魔法使い様とは露知らず、大変申し訳ありませんでした!度重なるご無礼をお許し下さい!」

(あ~・・・やっぱり?)

「あの~・・・ミリさん?頭を上げて下さい。自分も魔法使いである事を言わなかったのが悪いんです」

「いえ!知らぬ事とは言え、申し訳ありません!」

「あの~・・・ギコさん?・・・こういう時ってどうすればいいですかね?」


余りにも受付嬢が必死に、そして涙目になりながら頭を下げて来たので、こちらが虐めている様な気分になって来た。ここは同じく魔法使いでこの子と親しく話をしていたギコに助けを求める事にした。


「ん?あぁ・・・しかし、ミツルはそれでいいのか?」

「は?なにがですか?」

「なにがって、魔法使いなら他者より優位に立ってるんだから、偉そうにしてもいいんだぞ?」


俺の質問にギコは不思議そうに聞いて来た。しかし、自分にとっては畏まられる事は、壁を作られている様で嫌いなのだ。


「そういうのが嫌いなので、必要が無い限りは魔法使いだと言わないんです。他者に頭を下げられるのも、下げる事を強要しているのを見るのも不快です」

「へぇ~・・・変わってるな、おまえ」

「そういう、ギコさんだってミリさんに畏まった接し方はされて無いじゃないですか」


変わってると言って来たギコに対して少しニヤケながら、そういうそっちこそと返してやった。すると、ギコは苦笑いしながら首の後ろを揉みだした。


「あ、あぁ。俺はその、なんだ。そういうガラじゃねぇからよ!ギコさんって慕ってくれるのはうれしいが、それ以上に畏まられるのは・・・ちょっとな」

「じゃあ、自分と同じじゃないですか!っと言う訳で、ミリさん。自分も『さん』付けか、なんだったら呼び捨てでも構いませんよ?」

「え!?そんな、無理です!呼び捨てなんて!」

「じゃあ『さん』付けでお願いします」

「わ、わかりました・・・ミツル、さん・・・」

「はい!これから、よろしくお願いします」


まだ戸惑っているようだが、差し伸べた手にしっかりと握手を返してくれた。


「そういえば、まだちゃんと言ってなかったな!ミツル!」

「はい。なんでしょう?」

「合格おめでとう!これからもよろしくな!」

「はい!よろしくお願いします!」


ギコからも握手の手を伸ばされ、しっかりと握り返した。ついでに・・・


「あとな、また手合せを頼むぜ!このまま負けっ放しって言うのも、(しゃく)だからよ!」

「あ、アハハハハハ」

「僕もまたやりたい!」

「おう!よろしくな!」

「鳥が喋った!」


しばらく三者と一匹で話した後、ギコが思い出したように言って来た。


「あ!そういやぁ、これから登録だったよな?」

「あ、はい。登録手続きと注意事項の説明ですね」

「そんじゃあ俺、ギルド長んとこに『(ミドル)の1』から登録出来るように言って来るわ!」

「え!?ちょ、ちょっとギコさん!登録はみんな『(ビギナー)』からなんです。それを『(ジュニア)』も飛ばして『(ミドル)』なんて、無理ですよ!」

「はぁ?ミリ・・・こいつは『(ハイ)』でもおかしくない奴だぞ?そんな奴がなんで『(ビギナー)』からやらなきゃいけないんだよ!完全無詠唱の魔法使いだぞ!?」

「そ、それがルールです!『(ミドル)』からなんて絶対無理ですよ!」

「儂はいいと思うがな・・・」

「「!!」」


二者(ふたり)の話について行けず黙って話を聞いて居ると、建物の方から声がした。

声がする方を見ると2m半はある水牛のような角を付け、髭を蓄えた男がこちらに向かって歩いて来た。


「ギ、ギルド長!」

「ああ、おっさん!丁度良かった。こいつを『(ミドル)』から入れてやってくれないか?」


どうやら、この大男がこのギルドの長の様だ。


「先ほど、3階から見させてもらっていたよ。お前さん名はなんと言うんだ?」

「は、はい。ミツルと申します」

「そうか、儂はブルホンと言う。一応このギルドのギルド長をしておる者だ。ところでお前さんはさっき、ギコが魔法で火の矢を放ってから風の魔法を使ったが、無詠唱か?」

「はい。ギコさんが『炎射矢(フランマ・アロウ)』を詠唱していたので『疾風刃(ガレ・ラミナ)』で打消しました」

「そうか・・・あとこれは、儂の勘だがお前さん・・・3属性のどの魔法が来ても対処出来る・・・。違うか?」

「「え!?」」


ギコとミリが声を合わせて驚いた。

実際声には出さなかったが、俺自身も相当驚いていた。

先ほどの戦いの中で一度も風以外の魔法は扱っていないのだ。

それなのになぜかブルホンは、見事俺が3属性を使える事を見抜いたのだ。

一瞬誤魔化す事も考えた。しかし、この男は「勘」とは言ったが、確信を持った目をして質問して来たので、それも無駄だと悟った。


「ご慧眼、恐れ入ります。仰る通り、私は水・火・風の魔法を使う事が出来ます」

「「は!?」」

「やはり!・・・ククククッ、やはりそうか!ハハハハッ!お主の種族ならそれも可能だろう!」


俺の答えに二人は驚き、そしてブルホンは予想が当たって大声で笑っていた。

しかし、種族まで特定されていた事に驚いた。


「そうかそうか・・・儂の生きている間にまた会う事になるとはな!ミリ!」

「は、はい!ギルド長!」

「ミツルの登録手続きは儂がしよう」

「え!?しかし・・・」

「儂も話したい事がある。それに・・・ミツルも儂に聞きたい事があるだろう」

「えぇ、よろしければ」

「では、話の続きと手続きは儂の部屋で行おう。ついて来きなさい」


その言葉にいよいよもって、俺は確信を持った。ブルホンは俺が人間だとわかっているのだ。

そのやり取りについて行けていない二人は呆然としていたが、ブルホンはお構いなく自室へ向かって歩き出した。

俺も二人に一度頭を下げてそれについて行った。

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