31・お茶会と革命
更新・・・忘れていた訳ではないですよ?
遅くなってしまって申し訳ない・・・
「ミツルさん、大事な話があるので、今ちょっとよろしいですか?」
昼を食べ終えて、出掛ける準備をする為に、部屋に戻るとカームが声を掛けて来た。
「はい、なんですか?」
「これのお話をして置こうと思いまして」
そう言ってカームが何かが入った巾着を出して、テーブルに置いた。ジャラっと音を立てた事から、甕や薬草の売ったお金が入っている事はすぐにわかった。
「あぁ、その事でしたか」
「はい・・・。サーニャとも話したんですが、ミツルさんに金貨15枚をお渡ししようと思いまして」
「え!?」
金貨15枚と言えば甕を売った全額であり、尚且つ一人であれば1年間以上何もしなくても生活できるほどの金額だった。
「いや、いくらなんでも多すぎます。たしか、当初の予定では売却の3割は売却手数料でお渡しする話だったじゃないですか」
「はい。ですので、これはちゃんと理由のある金額です」
「はぁ、理由ですか・・・」
「まず、一つ目はサーニャの治療費。二つ目は盗賊から守ってもらった護衛料。三つ目はケイトに魔法を教えて頂いた謝礼です」
そう聞くと、確かにそのまま受け取っても問題無さそうではあるが、それにしても多く感じていた。
「いえ、どれも気にしなくてモノですし、しかもその理由にしても多いと思いますが・・・」
「いえ、とんでもありません!これでも安いぐらいです。ミツルさんはご存じないかもしれませんが、普通の魔法使いに平民が頼んで魔法使いにしてもらうのには3か月で金貨30枚は必要です。しかし俺たちも生活があるので、そんなに大金を払う事が出来ません。なので、せめて甕の代金はお渡ししたいのです」
一瞬反論をしようと思ったが、カームの真剣な目を見て理解した。
カームもプロの商人である。そのカームが道理を立てる為に言って来た話なので、押し問答をするだけカームの誇りを汚してしまうと感じたのだ。
「わかりました・・・。ありがたく頂戴致します」
「ありがとうございます!」
「では、この話はこれで清算出来たので、今度は商人としてのカームさんに一つ依頼させてもらってもいいですか?」
「え?」
一度お金は受け取ったが、このままと言うのも今度は俺の気が済まないので、カームに商売の依頼をする事にした。
宿を出てラーク商店に着くころには、外はもうすぐ夕方になろうとしていた。
「ラークさん!居るか!?」
「少々お待ちを!」
カーム達はいつものように、店の裏口から声を掛けると店の奥から返事が返ってきた。
「お待たせ致しました」
少しして店の奥から出て来たラークは今朝とは打って変わって、髪の毛はちゃんと梳かし、服装もきれいな格好で出て来た。
「ようこそ我が商店へ、私はラークと申します。お会い出来て光栄です。ミツル殿」
「こちらこそ、初めまして。ミツルと申します。で、こっちが相棒の」
「僕は鵺と申します!」
話に聞いて居た感じと大分違っていたが、挨拶をして握手を交わした。
しかし、その後ろで・・・
「プッ・・・クククククッ・・・」
「クスクスクスッ・・・カーム、ラークさんは真面目にやってるんだから笑っちゃ失礼でしょ!」
「クククッ・・・そういう、サーニャだって笑ってるじゃねーか!」
サーニャとカームが笑いを堪える声が聞こえていた。
「あー、もう!カーム!サーニャさんまで笑う事は無いだろ!?」
「いや~だってよ・・・ククククッ・・・お前らしくもない・・・クククッ。フッフフフ!アハアハハハハ」
カームがとうとう堪えられなくなったようで、苦しそうに笑い始めた。
「ったく!折角、真面目でかっこよくしようとしたのに台無しだ・・・はぁ~。それよりカーム!なんで客人を裏から通してるんだよ!普通は表だろ!」
「ああ、クククッ悪い!いつもの癖でよ!」
ラークは気まずそうに髪の毛を掻きながらため息をついた後、カームに苦情を入れていたが、当のカームは笑いを止めるのに必死そうだった。
「はぁ~・・・。改めまして、ミツル殿、鵺殿。二人から話は聞いてます・・・。初対面の方なので礼節を持ってお迎えしようと思ったんですが、そこの二人のせいで台無しですよ・・・」
ラークは諦めたかの様に肩をすくめて、苦笑いしながら言って来た。
「しかし実の所、私もこういった余所余所しいのは好きではないのです。許して頂けるなら本来の私で迎えさせてもらいます」
そう言って、頭を下げて来た。
「えぇ。俺もそういったのは苦手ですし、畏まられる程の者でもないので楽にして頂ければ助かります」
「それは助かります」
そういうと、笑顔で再度握手を交わした。
「さて!立ち話、しかも店の裏にいつまでも居させる訳にはいかないので、中でお茶を用意しましょう」
「はい。お邪魔します」
「お邪魔しまーす。」
店内の商談部屋に通されると、首にはチョーカーのような物、頭にはネズミの様な耳と尻尾の女の子が持って来てくれた紅茶を飲みながら、いろいろと話していた。鵺はその間、暇そうにしていたが大人しくしてくれていた。
「ほう・・・ミツル殿は異世界からの人間でしたか。なるほどなるほど、古い歴史書にそういった異世界の者がこちらに来た記録などはありますが、人間と言うのは初めて聞きました。まさか本当に違う世界が存在するとは・・・」
「その歴史書とかに、異世界に行く方法や戻る方法は書かれて居ませんでしたか?」
「いえ・・・、そういった記録はありませんね」
聞いては見たが、最初からそんなに期待はしていなかった。
ゲンチアナにもそのあたりを聞いたが、多くの魔術書や歴史書に異世界の者の事は記載されていても、帰る方法やその者が帰った事の記載はなかったそうだ。ただあるのは、多くの異世界者は世界に多くの影響を及ぼして、この世界の土に骸を沈めたという事だけだった。
「申し訳ない、力になれませんでしたね」
「いえ・・・そんなに簡単に見つかるとは思って居ませんので、大丈夫です」
ラークが頭を下げて来たが、その必要はないと頭を上げて貰った。
「ところで、ミツル殿」
「はい」
頭を上げたラークが声色を普通に戻して切り出してきた。
「あの魔法具の甕ですが・・・私の勘が正しければ、あれは魔法陣に近い物を付与したものではないですか?例えば傷のようなモノがそれとか」
「え!?なぜ、それを!?」
俺が驚くのは無理もない。ゲンチアナが知らない所から、ルーン文字の存在自体があるかも怪しい。あったとしても、メジャーな物ではない筈だった。それを、ただの傷のような物しか見えないモノを指摘してきたのだ。
「やはり、そうでしたか。詳しくはわかりませんが、カームが使い方を見せる時に甕の内側で4箇所、魔力が強くなったところがあったので、そうでは無いかと思ったんです。しかし、いくら見ても魔法陣らしき物はありませんでした。なので不思議でしょうがないんです。ミツル殿。出来ればでいいんですけど、仕組みを教えて頂く事は出来ませんか?」
「ラークさん!それはミツルさんに失礼じゃねぇか!?」
「確かに・・・カームの言う通りではありますね。申し訳ない。ただ、非常に興味深いのも確かなんです。差支えがあれば、もちろん秘密でも構いません」
「まぁ、別にいいですよ?」
「「「「え!?」」」」
俺が紅茶をすすりながら、平然と教えると言う答えにラークと俺以外、鵺を含めた全員が声を揃えた。
「ご、ご主人!いいんですか!?」
「ああ、別にかまわない。タネを教えた所で、複製出来る物でもないしな。流石に根底の所は説明出来ないが、どういう仕組みかは教えても問題ないだろ」
そもそも、その事も甕を作った時に考えていた事だった。魔力が作用する以上は、いつかは傷の様に見えるルーン文字の存在がわかるだろう。しかし、正しく認識しなければ発動しないのだ。しかも、今回の甕は使った文字が特殊である。「ハガル」と「イス」には「冷やす」という意味は無く、「凍結」の意味も「イス」にしかない。
つまり、「ハガル」と「イス」で変化・凍結をイメージして定着させる必要がある為、意味を理解していなければ複製を作るのは不可能である。
「ありがとうございます。早速ですが、あの甕の4か所にどういった仕掛けがあるのでしょうか?」
「簡単に言えば、その4か所には2つづつ文字が刻まれています。その文字は一つ一つが魔法陣を圧縮した物なんです」
「そうですか・・・何とも初めて聞く原理です・・・。その文字と言うのは甕に使われた物以外に種類はあるんですか?」
「ええ、この場にも二つの魔法具があります。一つはケイトの帽子に、もう一つは鵺の足についてます。帽子はすでにケイトに上げた物なので、効果について俺の口からは話せません。鵺の方ですが、先ほど鵺は獣化する魔剣だという事は話しましたが、こいつと話が通じるのは、足に付いている魔法具のお蔭です」
「なるほど、そうでしたか・・・実に便利な魔法具です」
「しかし、自分はこれら二つの魔法具を世の中に出そうとは思って居ません」
「「「「え?」」」」
俺が、魔法具を作って売らない事を伝えると、サーニャ以外が首を傾げていた。サーニャの顔を見る限り、理由を察してくれている様だった。
「私も、ミツルさんの考えは正しいと思います」
「サーニャさんまで・・・。どうしてです?こんなに便利な物があれば、きっと・・・いえ、絶対に魔法具の飛躍的進化になります!」
「ミツルさんはきっと、それが危険な事だと理解されているのではないでしょうか?」
「き、危険ですか?」
やはり、サーニャはしっかりと理解してくれている様だった。
「えぇ、サーニャさんに言って頂いた通りです。確かに便利な物でしょうが、物によっては軍事的に使われる可能性があるのです。今回の甕は、そういった危険性を失くして複製が出来ないように考えて作りました。なので、カームに売買を依頼して・・・再度、追加依頼もしました」
「「え!?」」
追加依頼をした事にサーニャとラークが驚きの声を上げて、カームに目を向けた。
しかし、カームは気まずそうに頭の後ろを掻くだけで黙っていた。
「先ほども言った様に、今回の甕は複製や悪用の危険性が無いように考えて作りました。危険性が無いのであれば、生活に役立てない手はありません。なので、今回は条件を付けて甕を売ってもらう事にしました」
「じょ、条件ですか・・・」
「はい」
条件と聞いたラークは、それがなんなのか聞きたそうにして来た。
「それは・・・一体?」
「そこは・・・すでに依頼を受けて頂いた、カームさんに言って頂いた方がいいでしょう」
「あ、ああ。わかった・・・条件ってのは、肉屋と魚屋にしか売らない事。それと一つの値段を金貨3枚以下にする事だ」
「・・・え?」
カームに説明してもらった条件を聞くと、ラークはますます困惑の顔色を浮かべた。
「まあ、そういう事です。今回、依頼数は4つ。いずれも他の街で売買して貰います」
「いや・・・しかし、その値段では・・・すぐ転売されて・・・」
「はい。確かに転売などの可能性もありますが、それは売った先の事で買った人の自由です。しかし、そのまま肉屋や魚屋が使えば、転売以上の利益があるのでその可能性も低いでしょう。肉屋や魚屋が使えば、今までよりずっと長くそして新鮮なまま販売出来るんですから」
この世界では魔法を使える者は、地位があるが故にそういった生活の改善には繋がらないのが現状である。もし、それが魔道具で改善出来るなら、おそらく食文化の発展や庶民の暮らしに大きく変化をもたらす事だろう。
日本の歴史上、こんな言葉を残した武将が居た「食は人の源であり、食によって人は発展する」だそうだ。
自分もそう思ったので、まずは試験的にカームへ売却手数料5割で依頼したのだ。
「なるほど・・・クククッ、なるほど なるほど なるほど・・・アハハハハッ!」
ラークが何かに納得しながらも笑い始めた。
「これはこれは・・・確かにとんでもない怪物だ」
「怪物?」
「ちょ、ちょっと、ラークさん!」
ラークの言葉にサーニャが慌てだした。
「いやいや、サーニャさんからミツル殿の事を聞いた時に『心優しい怪物』と言っていたのでね・・・確かにその通りだと思ったんですよ」
「ラ、ラークさん!あ、あのミツルさん!別に悪い意味では無くて・・・その、優しいのにすごい魔法を使う物ですから・・・その、フォローと言うかですね・・・例えで・・・」
ラークの言った言葉にサーニャがすごく気まずそうに、俺に弁解してきた。
まあ実際の所、その例えで合ってると自分も思って居た。
「なるほど・・・『心優しい怪物』ですか。クスクスクスッ・・・サーニャさん、センスありますね」
「ミ、ミツルさん!笑う事無いじゃないですか!」
「いえいえ、その通りだと自分でも思ったので」
「ね~!ご主じーん!」
さっきまで大人しくしていた鵺が、訴えるように声を掛けて来た。
「ん?どうした?」
「お話な~が~い~!お腹すいちゃいましたよ!」
鵺に言われてみれば、確かに大分空腹を感じていた。
「これはこれは、申し訳ない。話に夢中になってしまったようですね。実はミツル殿との出会いとケイト君の祝いも兼ねて、食事を用意させて頂いて居たんです」
「え?俺の祝いも!?」
「それはそうです。何て言ったって、ケイト君は魔法使い様になられたんです。当然じゃないですか。今、準備させましょう」
「ありがとうございます!ラークさん!」
「ありがとうございます、ラークさん。お言葉に甘えます」
「じゃあ、俺たちもご相伴に与ろうか」
「そうね。ご馳走になりましょう」
そうして、ささやかだが、ケイトの魔法使い記念と俺の歓迎の宴が行われた。