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30・伝説は知らぬ間に始まる

二人ともすっかりケイトが魔法使いになった事が嬉しくて忘れてしまっていたが、ケイトが魔法を習得した理由を説明するにはミツルが、魔術師である事は隠したとしても、本当は魔法使いである事を話さなくては話が通らないのだった。


「え~っと・・・まぁ、いろいろあって、使える様になったんです・・・」

「サーニャさん・・・それは無理があります」

「ですよね~・・・ハハハッ、はぁー・・・。ラークさんだから話しますけど、絶対に他に話さないで下さいね?」

「お、おい。サーニャ!いいのかよ」

「ラークさんだから、大丈夫のような気がするし」

「ん~・・・まぁ、サーニャさんが言うなって言うなら絶対言いませんよ」

「実は・・・」


そこから三人は店に入り、商談用の音が外に漏れない部屋でミツルと会ってからの話を、全て話す事にした。それはまだ、村がある頃からラークと信頼関係があったからである。そして、本当にすべて話してしまった。その中には魔術師である事はもちろんだが、人間である事も話した。


「はぁ~・・・なるほど。それは協会の連中はおろか、街の誰にだって言えない事です。・・・フーッ」


話を聞き終わったラークは紅茶を一口飲むと大きく息をついた。


「なので、どうか誰にも話さないで下さい」

「俺からも頼みます。ラークさん!」

「はぁ~、とりあえず頭を上げて貰えませんか?」


頭を下げた二人にラークはそういって少し考えた。

まず真っ先に言える事は「誰にも話せる訳がない」という事だ。

魔術師だけならまだしも、おとぎ話に出て来る『人間』がそれなのだ。もし、自分が口を滑らせた事が原因で大事(おおごと)になった日には、街自体が吹き飛ばされたっておかしくは無いのだ。

そんな恐怖心があるのも事実だが、それ以上にミツルに対して興味が湧いていた。

無償でサーニャを助けた事、(かしこ)まられるのを嫌っている事、ケイトに魔法を教えてたった2日で魔法使いにまでしてしまった事、そして何より盗賊を倒した事に嘆いていた事。

どれを取っても魔術師はおろか、魔法使いにだってそんな者はいない。

魔術師を誰よりも憎んでいたサーニャが、その魔術師の事を『平民よりも心優しい怪物』と笑いながら言った。

おとぎ話にも出て来ない、それこそ夢物語の中の者の様だった。ラークはそんなミツルに合って、話して、そんな面白い者を相手に商売がしたいと思っていた。


「わかりました。ラーク商店の店主として、そして二人の良き友として、この命を懸けて口外しない事を約束しましょう」

「「ありがとうございます!」」

「それから・・・改めて、サーニャさん。ミツル殿に『是非お会いしてお話がしたい』と伝えて下さい」

「え?それは・・・どうしてですか?」


一瞬、サーニャはラークが良からぬ事を考えているのではと心配になってしまった。

しかし・・・


「いや、別にサーニャさんの命の恩人でもあるミツル殿に、何かする訳ではないですよ。ただ、ますますその方に興味が湧いたのです」


そう言って笑い掛けて来た。


「ハハハハッ!ラークさん。ラークさんも相当変わり者だな!」

「ああ、よく言われるよ!ククククッ」


カームがラークのそんな態度に思わず笑ってしまったが、ラークも大分緊張を解いたようで剽軽(ひょうきん)に返してきた。


その後、ラークがカームと明日の積み荷の話をしている間に、サーニャは帽子を探しに行き、話が終わったカームと合流して帰って来たのだ。






「っと、言うわけなんです。申し訳ない」

「すみません。勝手に他者にミツルさんの事を話してしまって・・・」


そういって二人は話し終えたあと、頭を深く下げて来た。


「き、気にしないで下さいよ!そんな、親友と言えるような方にまで話せないような事でもないですし・・・」

「そういって頂けると助かります!ラークは決して悪い奴ではないので、安心してください!」

「え~っと、俺は話について行けてないんだけど・・・」


カーム達とやり取りをしていると、カイトが声を掛けて来た。


「え~っと、人間って聞こえたんだけど・・・何の事?」


カームは途中から話がわかっていなかったようだったが、核心について聞き直して来た。


「あー、え~っと、ケイトは気付いていなかったか・・・まずったな・・・それはだな───」

「それについては、俺から改めて話させて頂きます」


カームはすっかりケイトも気付いている物だと思って話していたが、知らなかったのであればそのままにした方がよかったと思い、言い難そうにしていた。

しかし、そのことに関しては俺の口からちゃんと話すべきだと思った。気付いて居たが接し方を変えないでくれたカーム達に、そうするのが筋だと思ったのだ。


「まず、今まで隠していた事を謝らせて下さい。すみませんでした」

「そ、そんな。謝らないで下さい!魔術師、しかも人間となればそう簡単に開かせる事ではないですから!」

「いいえ、サーニャさん。それでも心を許してくれた貴方達に、俺は不義理な事をしたと思ってます。そしてこれから話す事をどうか、3人の中だけの秘密にしてもらいたいのです」

「そ、それはもう・・・今の状況だって誰にでも話せる内容じゃあないですよ」

「もちろん!先生がそう仰るのであれば、絶対に言いません!」

「ありがとうございます、カームさん。ケイトもありがとう。では、俺がこの国・・・と言うより、この世界に来た所から話しましょう」


そうして前の世界がどういう所で、その世界からこの世界に来て、コロハやゲンチアナと暮らしていた事を話した。ゲンチアナが魔術師である事を隠しているので、村の名前や場所は伏せさせてもらう事を謝って、それ以外の話をした。




「なんというか・・・俺、大昔の伝説の冒頭を聞いてる気分になって来たんだが・・・」

「そうね・・・まさか、人間以外が存在しない。魔法もない世界があるなんて・・・」


話が終わるとカームとサーニャがそんな事を呟いた。

確かに、そんな事を急に話されても信じられる話では無い事はわかっていた。もしも、自分が前の世界でそんな話を聞いたら、話をしたそいつの頭を疑うだろう。


「はぁ~・・・やっぱり先生と鵺さんは普通じゃなかったんですね・・・でも先生がどんな方だろうと先生は俺の先生で、俺たちを助けてくれた事に変わりは無いです」

「まあ、そうだな。ケイトの言う通り!ミツルさん達が居なかったら、サーニャは病気で危なかったし、盗賊に襲われて居たかもしれないな」

「えぇ、そうね。私の命、そして私たち3人を助けてくれたのは、変わりません。なので大丈夫です。私たちはこれからも変わりません」


ケイトの言葉をきっかけにして、それぞれが優しい言葉を掛けてくれた。そんな言葉が気恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。


「そうそう、それで帽子なんだけど」

「「帽子?」」


思い出したようにサーニャが箱に入った包みを2つ出してきた。


「ああ、サーニャと二人で話していたんだが、ミツルさんは耳と尻尾が無いので帽子をかぶった方が隠せていいんじゃないかって言う話になって買って来たんです」

「ケイトはミツルさんみたいに隠す必要はないから、魔法使いらしい帽子にしようと思って」


そう言って二人から包みを渡された。


「あの・・・開けて見てもいいですか?」

「もちろんです。ミツルさんに合えばいいんですけど」

「俺も開けていい!?」

「ああ、いいぞ」


ケイトと二人して包みを開けると、俺の包みにはマフィアなんかがかぶって居そうな黒い山高帽。ケイトの包みには如何にも魔法使いがかぶって居そうなツバ付きの三角帽子が入っていた。


「おぉ、かっこいいですね。ありがとうございます!」

「二人ともありがとう!」

「フフフッ!どういたしまして」

「うん、気に入って貰えて何よりだ」


ケイトと二人でお礼を言った後、ある事を思い付いた。


「じゃあ、俺もケイトに魔法使いになったお祝いを上げようかな?」

「え!?先生がですか!?」

「うん、ケイト。その帽子を貸してくれる?」

「え?はい」


ケイトに帽子を貸してもらい、前もって用意しておいた紺のスカーフの様な布を出した。

本当は魔法使いは杖を使うと聞いて居たので、何かの杖につけようと考えていたが、帽子に付けるのも面白いと思い、帽子に巻き付けて少しツバから垂れるようにつける事にした。


「これでいいかな?はい」

「あ、ありがとうございます・・・あのこれは?」


傍から見れば薄らとガラが付いた紺色の布でしかなかった。

しかし、もちろんこのガラはただのガラである筈がなかった。

ケイト達が街を離れる前にケイトに何か送ろうと考えた時に、ルーン魔法で魔法を補助する事を考えたのだ。

そこで、俺がこの世界に来た時に着てたシャツならば染料の成分もわかるので、それを使ってケイトが起きるまでの間に作っていた。


「この布は、(かめ)と同じ魔法具だ。効果は水魔法の補助だ」

「え!?そんな物を頂いていいんですか!?」


ケイトは先ほど聞いた話から、俺の作る魔法具の価値がとてつもなく高価だと認識していたので、すごく驚いていた。



今回、作った布に使ったルーンはウル・イズ・シゲル・エホ・ラグで、その文字を布に規則的にびっしり並べてある。

意味だが、ウルは力・イズは氷・シゲルは成功・エホは補助・ラグは水として発動して定着させてある。

試しに落ちていた木の枝に巻き付けて、街の塀の外へ向けて無詠唱で氷槍(ファメア・グラキエ)撃ってみたのだが。


発動させると完全に無詠唱なのにも関わらず、長さ5m太さ50cm程の特大な氷の槍が5本も出現した。そのまま射出させるとすごいスピードで飛んで行き、遠くでドーンという音が鳴り響いていた。

自分にとっては非常にオーバースペックだが、ケイトがこれから成長するのには訳に立ってくれるだろうと思い、その場を逃げるようにして部屋に戻った。魔法具としては成功として送る事にしたのだ。



「あぁ、それはケイトの為に作った物だからな。大事にしてくれるとうれしい」

「はい!大事にします!」

「ケイト。ご主人の魔法具って事は僕とお揃いだ~!」

「はい、鵺さんと同じですね」


その後、遅い昼ご飯を食べた後の夕方にラーク商店へ向かう事にした。

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