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29・不注意と甕(かめ)

ラークがため息をつくと、この甕が如何に異常か詳細を教えてくれた。


「いいか?まず、魔法具自体が高価だって事はカームだって知っているだろう?」

「あ、あぁそれは知っている。

安い物でも銀貨50枚、上を見ればキリがないモンだろ?

ホントかは知らないが、白金貨30枚の魔法具があったとか・・・」

「その通り、そしてその白金貨30枚は軍事用の兵器魔法具だ・・・まあそれはいい。

じゃあ魔法具の値段だが、どうやって決まるか知ってるか?」

「は?どうやってって・・・そりゃあ道具なんだから、利便性とか性能とか?

あと希少価値か?」

「その通り・・・なんでそこまでわかってるのに、この甕の異常さがわからねぇかな?・・・

いいか?まず魔法具って言うのは魔法具技師が、魔法陣や呪文をその道具に刻んで作る。

物によっては使わないが、大抵は高価な魔石を埋め込んで使うので、それだけで値が張るんだ。

じゃあ今回の甕はどうか考えて見ろ。

魔石はおろか、ガルの話だと魔法陣らしきモノも無い。しかも見た目もきれいな白い磁器の甕だ。

そもそも磁器自体が高価な物で飾り物として使う事が多い物だ。それなのにこの甕は見た目もきれいだが、驚くべき所はさらにその性能だ。

肉は互いがくっ付く事無く、完全に凍っていたという。その話が本当なら道具屋の協会どころか、下手すれば魔法ギルドが出て来る代物なんだよ」

「へぇ~」


ラークから聞いた話はカームも理解した。しかし、あまりの異常さに現実感が無さ過ぎたのだ。


「『へぇ~』じゃねぇよ。ったく!道具屋協会に行って来るからちょっと待ってな!」


そういってラークはそのまま出掛けてしまった。

残されたカームとサーニャは呆然としながらも、二人同じ事を考えていた。


「なぁ・・・、サーニャ」

「ん?なに?カーム・・・」

「俺の考えが正しければ、(まず)い事になってないか?」

「うん・・・そうね、私もそう思う」

「どうしようか?」

「う~ん・・・とりあえず、ミツルさんの事は黙って置いた方がいいと思う」

「だよな・・・」


二人して呆然としながら待っていると、ラークが二人の男性を連れて戻って来た。

一応使い方についてはカームから説明したが、作者の刻印などが無い事から「誰がこれを作ったのか?」と聞かれた。カーム達は嘘をつかず、しかし本当の事も言えなかったので「作者との約束で明かせない」と説明した。

最初は協会の二人も聞き出そうとしていたが、二人が「これを作ったのは魔術師だと言う事以上は、その方の事を詳しく明かす事は出来ない」と譲歩した形で説明した。協会の男達も魔術師に関する事となれば深く干渉するのは危険と判断し、そこで引き下がった。



「さてと、じゃあ精算に入ろうか」


話が一通り終わったので、ラークがいつもの調子に戻って支払いの話に移った。


「ほら、お二人さん!いつまでも呆けてないの!」

「あ、あぁそうだな・・・」

「まず、穀物と塩・胡椒からだね。コメが200kg・麦が400kg・塩が50kgとあと胡椒が10kgだから・・・合計は66860パルだね。支払いは金貨1枚・銀貨33枚・銅貨36枚だ。確認してくれ」

「あぁ、大丈夫だ」

「さて、次に問題品だな。まず、甘草が230gと麻黄が305gだから・・・28469パルだな。支払いは銀貨56枚・銅貨46枚・石貨9枚だ。

さて、次は最大の問題児だが・・・さっき協会の連中とも確認したが、間違いなく本物の魔法具だ。協会の規定通りの価格で取引となるから、金貨5枚だな」

「え?え、えぇ?ちょっと!ラークさん今、金貨って言った!?金貨5枚?」


ラークが伝えて来た金額は、カームが持って来た商品660kgの値段の4倍以上あったのだ。


「ああ、そうだ。金貨5枚、しかもそれが3つあるから・・・」

「は?3つで金貨5枚じゃないのか?つまり・・・」

「その通り・・・俺もこんな金額の取引したのは初めてだよ・・・。つまり問題児だけで支払いが金貨15枚だ・・・。どうする?こんな大金持ち歩くか?それとも手形にするか?」


金貨と言うと1枚で普通に1ヶ月一人暮らせる金額だった。それが15枚。余りに大金である。

行商人はそういった大金を扱う場合、手形という物を発行する。現代世界で言うなら小切手のような物だ。

しかし、カームはそれを断った。


「いや・・・現金でもらう」

「おいおい、カーム。大丈夫かよ」

「ああ、詳しくは話せないが実はこの作者は、さっき話した治療魔法師と関係があってな。その人に売買の代行をお願いされた物なんだ」

「なるほど、そういう事だったか」


咄嗟(とっさ)に出た理由だったが、ミツルに代金を渡さなければいけないのも本当だった。


「それにしても・・・カーム。おまえ、いい出会いをして来たんだな」

「え?な、なんでまた?」

「お前とサーニャさんの態度を見ればわかるさ。その治療魔法師も魔術師もきっと、いい方なんだろ?じゃ無きゃ、いくら相手が強かろうとお前さん達が魔術師の頼みを聞く筈がないからな」


ラークはある程度カームやサーニャの村の事も知っていたし、カーム達が魔術師に対して毛嫌いしている事も、そして怯えている事も知っていた。そんな彼らが魔術師の知り合いの治療魔法師を馬車に乗せて、さらに頼まれたからと言って商品を預かるなんて事は考え難かった。脅されているのであれば、それも考えられなくもないが、そういう感じもしない。つまり、その魔術師を少なからずカーム達が心を許している証拠でもあった。


「まったく・・・ますます、その治療魔法師殿に興味が湧いたよ。サーニャさん。是非お話したいと伝えてくれ」

「フフフッ・・・ええ、わかりました」


サーニャは、こんな所でもミツルが他者を引き寄せる例外的な存在だという事に、思わず嬉しくも可笑しくなってしまった。


「お、おい、ラークさん。そこはなんで俺に頼まないんだよ」

「あ?こういうのはお前よりサーニャさんが向いているからに決まっているだろ?まあ、俺からしてみればお前らは二人で足らない所を補っている、お似合いな二人だと思うけどな」

「フフフフッ・・・ありがとうございます」

「お、おい・・・サーニャまで」

「はぁ~、意味がわかりながらも(かわ)すサーニャさんと、ここまで言ってもわからないお前じゃ無理もないか・・・」


ラークはため息を付きながらも言葉にするが、サーニャはそれに対して笑っていた。その様子をカームは何が何やらわからずに混乱していた。


「さて、立ち話もなんだから明日積んでく物については中で話そう」

「じゃあ遅くなっては悪いから、私は帽子を見てくるわ」


ラークが店の中で話す事を提案すると、サーニャは帽子を探しに行こうとしていた。


「帽子?なんでまた」

「ああ、その治療魔法師の方のとケイトの物をお土産に買って行こうと思って」

「え?あの坊主の?なんでまた」


ラークが不思議そうに言うのも無理はなかった。行商人であれば帽子は邪魔になるだけなのでフードが付いた外套(がいとう)を着る事が多いのだ。


「え~っと・・・カーム、ケイトの事は別に話しても大丈夫よね?」

「ん?それはいいんじゃないか?」


二人のやり取りにラークは首を傾げっぱなしだった。そもそも、最初からカームが「ケイトは宿で爆睡している」と言った時点で違和感があった。そんなに朝早い訳でも無い時間に店へやって来たのに、行商の旅をして大分経つケイトが起きて来ないというのは不思議だった。

しかし、その不思議も次の瞬間吹き飛んでしまった。


「実は昨日、水魔法の3段階目を習得した時に、成功はしたそうなんですけど、疲れて倒れてしまって・・・それで、まだ宿で寝ているんです」

「・・・・・・はあ?」


サーニャの言葉に思わずラークは素っ頓狂な声を上げてしまった。


「え?ちょっと待ってくれ、誰が水魔法の3段階目を習得したって?」

「ケイトが習得したんです」

「ちょっと待ってくれ!待って待って待って待って・・・なあ、カーム。ケイトってあの坊主だよな」

「ああ、あのケイトだ」

「はあ?頭がごちゃごちゃになって来た。まずなんで、坊主が魔法を?っていうか水魔法の3段階目って事は・・・」

「ああ、昨日で魔法使いになったんだよ。あのケイトが」

「・・・」


ラークは口を開けたまま言葉を失っていた。

ラークの知っているケイトは、何をやらせても今一つで、才能のない奴と言うイメージだった。そんな奴が、つい3ヶ月前に別れてから今日になるまでに魔法使いになって戻って来たのだ。


「ちょっと待ってくれ!まず、なんでケイトは魔法を学び始めたんだ?そもそも誰に教わったんだよ」

「「あ!?」」

「・・・ん?なんだよ、『あ』って」


二人ともすっかりケイトが魔法使いになった事が嬉しくて忘れてしまっていたが、思えば当然の疑問だった。そして、それを答えるには治療魔法師と言っていたミツルが、魔術師である事は隠したとしても、本当は魔法使いである事を話さなくては話が通らないのだった。

うーん・・・全体の見直しは何回かしてますが、文章的に変じゃないか不安です。

もしよければ「こうした方がいい」などあれば、コメントなど頂けると嬉しいです・・・。

次回はまた4・5日後に更新予定です。

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