2・この世界
「お~い、犬っ子~。しっかりしろ~」
「うにゅ~」
一向に起きようとしない。
一先ず情報が欲しい現状で、この犬娘にこの世界の事を聞くのが一番だろう。
幸いな事に体は無傷で動く。
ここが異世界である事はわかったし、原因はどう考えてもあのアマだろう。
しかしあいつを探そうにも、この世界を知ることが先決だ。
そして、異世界という単語に持病の中二病はすこぶる発作を起こしていた。
「お~い、犬っ子~」
「すまんが、少しばかりソッとしておいて貰えんかのー」
声の持ち主に目をやると、部屋の入口に杖を突いた老婆が居た。老婆もやはり銀髪で耳と尻尾が付いていた。こいつの親か祖母なのだろう。
「だらしないの~、まったく」
そう言いながらこちらに近づいてきた。不思議と見た目はヨボヨボの婆さんだが、妙に畏怖と言えばいいのか、貫録のような気配に警戒してしまった。
「そう、警戒するでない。お主に危害など加えんよ。」
そういいながら近くのイスに腰を掛けた。
「さてね~、まず自己紹介からしようか。わしはゲンチアナ、これは孫のコロハという。」
「・・・両方薬草の名前か?」
「ほう、詳しいの。お主は薬師か何かかね?」
「その卵みたいなモノだ。」
「名はなんと言うんだい?」
「宇尾間 充」
「そうかい。苗字が付いていて、しかもミツルという苗字は聞いた事が無いの~」
「いや、ミツルが名前だ、ミツル・ウオマだ」
「そうかい。ミツル君って言うんだね。お主はコロハに倒れているところを拾われたんじゃよ」
婆さんが言うには、この犬っ子…コロハが薬草を取りに行った帰りに山で俺が倒れている所を発見し、ここに連れて来たらしい。見た目は細い体付きなのに力持ちらしい。
「ところでお主、人間かね?」
さっきまで、空いているんだか分らなかった目が少し開き、覗かせた青い瞳がこちらを直視して来た。一種の殺気にも似た眼光だ。
「・・・あぁ、信じられないかもしれないが、異世界から誘拐された人間だ。」
その返答に何を思ったのか、考えるようにゲンチアナは少し黙った。そして、
「・・・そうかい、あんたも災難だったね~。じゃあまず、この世界の話をしようかね。」
(「あんたも」と言うことは異世界の人間を知っているのだろうか?)
そう考えていると、ゆっくりと、この世界の事を話始めた。
まず、この世界はサマルターナといい、大きく分けて5つの大陸がある。
その中に獣人や魔人、ドワーフなどが居て、6つの大きな国がある。
人間は大昔に減少し、今では伝説的種族らしい。
しかし、大昔は人間が絶大な力を持っており、他の種族を奴隷や家畜・ストレス解消に虐殺していたそうだ。
その為、今でも伝説的とは言っても恐怖の対象に変わりは無いらしい。
そして、ある言葉に自分は魅入られていた。
「この世界では武器で戦うか魔法を使えないと、生きてく上で危険な世界じゃ。」
<魔法>
この世界には本当に魔法がある。あの恋い焦がれたと言ってもいい魔法がこの世界に存在する。
なんとしてでも使いたい。実際に頼むとゲンチアナは掌を上に、俺の目の前に出すと火を出して見せた。
「お、おい。熱くないのか?」
「この程度の魔法で、本人にダメージがあるはずが無かろう。威力が上がれば話は別じゃが、これくらいは普通じゃ」
「お、俺でも使えるのか?」
「ふむ…この世界の人間でないお主が使えるかはわからんがの。」
俺はゲンチアナに頼み、基礎だけでも教えて欲しいと頼んだ。ゲンチアナが快く了解してくれたところでコロハが起きたが・・・
「ふぁ・・・おばあちゃん・・・ひっ!」
バタっ
そして、なぜかこちらを見てまた気を失った。
(何なんだこいつは…)