27・・得意不得意
27話が短かったので、2話同時更新です。
ドーン・・・
「ん・・・あれ?ここは?」
「あ!ケイトおはよー」
何かが遠くで響く音が聞こえて起きたケイトは、知らない部屋のベッドにいる事に気付いた。
カチャ
「あ、ご主人!今ケイトが起きたとこですよ!」
「お、起きたのか」
ドアが開くとミツルが部屋にが言って来たので、鵺が報告した。
「あれ?先生。ここは?」
「ああ、ケイトは昨日『氷槍(ファメア・グラキエ)』の短縮詠唱に挑戦した時に倒れてしまったからな・・・。ここはバールの街の宿だ」
「そうだったんですか。すみません」
そう言って、ベッドに座ったままケイトが頭を下げて来た。
『氷槍(ファメア・グラキエ)』の短縮詠唱挑戦の後、疲れ切って倒れたケイトを馬車まで運んでやった。
カームもサーニャも最初は酷く驚きと心配の顔をしていたが、ケイトが魔法使いになれた事を伝えると、涙を浮かべながら喜んでくれていた。
そのままバールの街に行ったが大分日が傾いており、ケイトも寝ていたので今日の所は余った甕2つ半のイノシシの肉だけ売って宿に泊まる事になったのだ。
余ったイノシシ肉は一日経っていたが凍らせていた事もあり、1万8千パル(9万円相当)という非常に高値で売れた。
そのおかげで、4人二部屋で4日間は宿生活が出来る程度に潤っていた。
昨日はそれだけで辺りが暗くなってしまったので、何もできないまま終わってしまった。
「気にする事無いって、俺も魔法を使い始めて2日しか経って無い奴に無理をさせたと思っているよ」
「先生、そんな事無いです。ありがとうございました」
ケイトは俺の言葉を否定して、再度深く頭を下げて来た。
「そういえば、ケイト」
「なんですか?」
「その『先生』ってのは?前に頼んだ時に『先生』とは呼ばなくなったのに・・・」
以前、俺が「訳があって(ただ面倒臭いから)あまり目立ちたくない」と言った時に普通に「ミツルさん」と呼ぶようになっていたが、なぜか今は俺の事を「先生」と呼ぶようになっていた。
「それは当然です。だって俺を魔法使いにして下さった方です。先生と呼ぶのは当然です!
あ!それとも師匠とお呼びした方が・・・」
「いいよ、先生で・・・。まあ慣れないけど、ケイトが俺の教え子である事には変わりないんだ。そういう事なら、先生と呼ばれるのも悪くは無い」
「あ!ご主人、もしかして照れてます?」
「うるさい!」
正直、背中がむず痒くなる感じがするが、俺がケイトを魔法使いにした事は確かだった。
それならばケイトが俺の事を「先生」と呼ぶのは変ではないし、それを無理に止めるつもりもない。しかし「師匠」だけはどうも偉そうで嫌なので、「先生」にしてもらう事にした。
「そういえば、カム兄たちは何処でしょうか?」
「ああ、カームさん達は今、馬車に積んでた商品と俺が作った甕と薬草を売りに行っているよ。たぶんもうすぐ帰ってくる事だと思う」
「そうでしたか・・・」
そう言ってケイトは自分の手を眺めて、ボーっとしていた。
「未だに信じられないか?」
「え?」
「いや、ケイトの顔に『本当に魔法使いになれたのかな?』って書いてあったからな」
「ハハハッ・・・わかってしまいますか・・・。まだ実感がわかなくて」
困った笑いを零したあと、また考える表情に戻った。
「実は俺、今まで何をやってもうまくいかなかったんです。カム兄について行商を覚えようとしてもうまくいかないし、獲物を狩ろうにもうまく出来なくて、剣もまともに触れなかったんです。そんな俺が、たった2・3日で魔法使いになれたなんて・・・今でも信じられないんです」
「まあ、みんなそんなモンだと思うぞ」
「え?」
俺の言葉に驚いて顔を上げてこちらに向けて来た。
「誰だって得意不得意がある。商売が得意な奴も居れば、料理が得意な奴も居る。商売が得意な奴は商人になり、料理が得意な奴は飯屋をやればいい。剣士が料理屋を無理にする事は無い。みんなそんなモンだろ」
「そう、なんですかね・・・」
「ああ、俺の居た所に伝わっている古い詩にこんな言葉がある。
『自分が両手をひろげても、空は飛べないが、
飛べる小鳥は自分のように、地面を速く走れない。
自分が体をゆすっても、きれいな音はでないけど、
鳴る鈴は自分のように、たくさんの唄は知らない。
鈴と、小鳥と、自分、みんなちがって、みんないい。』
・・・確かそんな詩だった筈だ。まあ詩の通り、誰だって出来る事と出来ない事がある。要は出来る事や得意な事が見つけられるかどうかだ・・・。
ケイトはそれがたまたま魔法で、今までそれを教えてくれる奴が居なかった。それだけの事だ」
(やばい、ガラにもなくクサイ事を言ってちょっと恥ずかしい・・・きっとケイトも「なに言ってんだ、こいつ」とか思っているんだろうな)
そう思ってケイトを見ると、今度は自分の手を自信を取り戻した笑顔で見つめていた。
「『みんなちがって、みんないい』か・・・俺、どこかみんなと一緒じゃなきゃダメだと思っていたんだな・・・」
俺の言葉は意外と的を得ていた様で、ケイトに自信を取り戻させるには十分だったようだ。
「ありがとうございます!先生!俺、魔法使いとしてカム兄たちと出来る事をしていこうと思います!」
「ああ・・・だけど、慢心はするなよ?俺は会った事が無いが、俺やケイトが手も足も出ない奴がきっとこの世界には居る。自分の力を過信しないで出来る事をちゃんと考えるようにね」
「はい!」
俺もガラに合わないと思っていた「先生」もなかなか、悪くないモノだと思ってしまった。
「戻りました。お。ケイト起きたか」
「あ!カームさんとサーニャさん、お帰りなさーい!」
そんな事を考えていると、ドアが開いたのに鵺が気づいた。カームが少し疲れたように部屋へ入って来て、それに続いて若干疲れた笑顔でサーニャも部屋に来た。
表情を見る限りでは、いい値段で商品が売れなかったのだろう。
「お帰りなさい。カームさん、サーニャさん。どうでしたか?」
カームの様子を見る限り商品が高値で売れなかったのだろうと思ったが・・・
「いやー、それが商品はまあまあ売れて、しかもミツルさんの物は物凄くいい値段で売れたよ」
「「え?」」
俺とケイトが声をシンクロさせて驚いた。表情を見る限りそんな風にはとても見えないのだ。
「まあ、朝からの事を順立ててお話しますよ」
そういってカームが疲れた顔で笑った。