25・続、科学魔法
「さて結論から言うと水は、力を加えると『気体』になって、奪うと『固体』になります」
「「・・・え?」」
結論が早すぎたのか二人そろって凄まじい量の「?」マークが頭の上に出ていた。
「ミツルさん。聞いてもいいですか?」
「ん?」
ケイトが『全く、ワケがわからないよ』みたいな顔をして聞いて来た。
「以前『魔法は詠唱と魔力で妖精を使役して発動させる』って魔法使いの人が言っていましたが、ミツルさんの言葉ですと『妖精は水を作るけど、そのあとは魔法使いが操作する』みたいに聞こえるんですけど・・・」
「おおぉぉ・・・」
「え?」
結論を言うのが早すぎたと思いきや、意外と理解している事に思わず感歎の声が出てしまった。
「いや、まさか殆んど教えていないケイトがそこまで気付くとは思わなかったよ。実はその通りなんだ」
「え!?」
「実は『水』その物を作るだけで、妖精は使役するのは難しくてその先は何もしてくれない事が多い。普通の魔法使いは『氷結(コンゲラート)』の詠唱に出てくる『氷精』に働き掛けるが、見えないし想像し難いので、自分の魔力で操作した方が簡単で尚且つ早い。そのせいもあって、俺の魔法はコツさえ掴めれば殆んど無詠唱で出来る訳だ」
「「へぇ~」」
「じゃあ、それぞれ詳しく『液体から気体になる仕組み』とその逆。そのあと『液体から固体になる仕組み』とその逆を順に説明していこうと思う」
「う~ん・・・私は結構もう頭が痛くなって来たから、横で大人しく聞いてます」
「そうですか・・・」
ここでサーニャは脱落を宣言し俺が作ったベッドに横になったので、俺は苦笑いをして答えた。そしてほぼケイトと1対1での授業となった。
「まずは『液体から気体になる仕組み』だが、ケイト。鍋に水を入れてそのまま火に掛けて置くと、中の水はどうなる?」
「え~っと、無くなりますね」
「そう。これは熱と言う力を加えたから、力を得た水は『液体』から『気体』になって飛んで行ったんだ。じゃあ次は『気体から液体になる仕組み』だが、ケイトは寒いと体が動き難くなったりした事はない?」
「え?まあ、ありますね」
「それはケイトの体も寒さで力が奪われているからなんだよ。これはさっきの『液体から気体になる仕組み』の逆でも言える事なんだ。つまり力を与えれば『気体』になるのなら、冷やして飛び回る力を奪えば逆に『液体』に戻るという事なんだ」
「なるほど・・・でも、どこに飛んでいるかわからないのにどうやって奪うんですか?」
「さっきも言ったように冷やせば力が奪われるから、そこら辺にある『気体』で力が奪われたモノから『液体』になっていくんだよ。じゃあ試しに実際にやってみようか」
「え?」
言葉で説明しても、やはりイメージをする事に慣れていない者にとっては実際に見せた方が有効だろうと思い、小さな鍋に水と氷を入れてケイトの前に出した。
「鍋に氷と水を入れてどうするんですか?」
「よく見てみな?鍋の外側はどうなっている?」
「鍋の外側?・・・あ!?小さな水の粒がどんどん増えてる!」
「そう、これは鍋に入った氷水で冷やされた鍋が、さらに周りの『気体』の水を冷やして力を奪ったから『液体』になったんだよ」
「すげー!これも魔法なんですか!?」
「いいや。氷水は魔法で作ったけど、水が鍋の外側に集まったのは魔法じゃない。『気体』を冷やすという条件を整えれば自然にそうなるんだよ。これが『水の理』だ」
「へぇ~」
「じゃあ今度は『液体から固体になる仕組み』だが、水は冷やせば氷になる。そして力を奪う=冷やすという事は?」
「え~っと・・・そうか力を奪えば冷えて固まるんですね!」
「正解!もっと詳しく説明すると『液体』は『気体』程ではないけど、動き回る力が多少残っている。だけどその力も奪ってしまうと、動く事が出来ないので硬くなる。この硬くなったのが『固体』・・・つまり氷だ」
「なるほど・・・」
「さて、一応ここまでで『水の理』の基礎知識の一部を教えた訳だけど、わかった?」
「はい!・・・え?」
元気よく返事したかと思えば、目が点になって驚いた顔をしていた。
「ん?どうした?」
「今“『水の理』の基礎知識の一部”って言ってましたが、これが『水の理』じゃないんですか?」
「え?あぁ、今回は『氷結(コンゲラート)』と『氷槍(ファメア・グラキエ)』に応用できる程度だけだからね。1から究極まで説明したら1年ぐらい掛かっちゃうから、今回は最初に言った様に『水の理について少し説明しよう』と思ったんだよ」
「やばい・・・流石魔術師様。俺は今の程度で限界です・・・」
そういってケイトは頭を抱えてしまった。
実際に水に関する科学を説明しようモノなら、
・水素と酸素の特性や水の物質に対する働きなどの化学。
・雨や雪、雷などの気象地学。
・水圧や浮力についてや、圧力を変える事によって性質や状態が変わったりする物理学。
・生物に対する水の働きを説明する生物学。
そういったすべての水に関する事が『水に関する科学』であり、そしてその説明にはそれぞれに付随する事も説明しなくてはいけない。
つまり、小学校から高校の科学の内1/6以上は説明しなければいけないのだ。
これは教える自分も相当面倒だし・・・
「これは・・・しんどい・・・」
ケイトの呟いた様に、科学がない世界の人間には到底難しい話なのだ。
「さて、ここまで教えた事をおさらいしながら『流水』からやってみようか」
「わ、わかりました」
ケイトが返事をすると大きめの桶を出して来ようとしてきた。
「ああ、ちょっと待って」
「なんですか?」
「桶は使わないで、馬車の後ろで外に向かってやってみてくれるか?」
「え?えぇ、わかりました」
ケイトはその理由がわからず首を傾げていた。
「あと、詠唱は『Fluenta(流水)』で使ってみて」
「え!?それって!」
そう、ケイトが驚くのは無理もない。今からやって貰おうとしている事は、この世界で言う無詠唱魔法だった。
「大丈夫。魔法は技術と知識で施行される。そしてケイトには両方あるのだから出来る」
「は、はい!やってみます!」
自分の想像通りであれば、無詠唱に必要な技術は一度詠唱をして出来ているので問題は無い。知識は付け焼刃ではあるが、今教えた。ちゃんと教えた事を理解しているのであれば、無詠唱の発動は出来ると確信している。それは自分が無詠唱を出来る理由だとも考えていたからだった。
「落ち着いて集中すれば出来るはずだ。詠唱して魔法を使った時の魔力の使い方を思い出せ」
「はい・・・」
ケイトは両手で球体でも持つかのように腕を伸ばし、詠唱した時の感覚を思い出す様に目を閉じて集中し始めた。
「そして、もうケイトは知っているはずだ。水はそこら中に存在する。それを散らばった麦を集めるように思い描け」
「はい・・・」
そう言うと、両手の間にはすでに水が集まりだし、水の球体が徐々に大きくなっていった。
「今だ!目を開けて詠唱しろ!」
「Fluenta!(流水)」
ドッ!ザッバーーーーン!
「うお!なんだなんだ!」
ケイトが目を開き、魔法名を強く言った瞬間、両手から鉄砲水の如く大量の水が放たれ、その轟音にカームが驚いて馬車を止めた。
「おおぉぉ、思ったより多量に出たな・・・な?出来ただろ?」
「え?本当に?え?俺・・・本当に無詠唱で魔法が?」
出来た本人は未だに信じられないと言った状態で呆然としていた。
「ああ!まぁ初歩の魔法だが、これだけの量を無詠唱で出来たんだ。喜んでいいぞ!」
「あ・・・あはは・・・・・・俺でも、魔法使いに・・・なれた・・・魔法使いに!
・・・よっしゃあああぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁ!」
やっと、自分が発動した魔法を認識したのか、目に涙を浮かべながらに大声で喜びの雄叫びを上げていた。
「ふ~、やれやれ・・・」
(魔法使いって言えるのは使える魔法が3段階以上なんだが・・・まあ威力だけなら3段階以上はあるだろう・・・)
ふと視線に気付き後ろを見ると、カームとサーニャが驚きと笑顔でその姿を見つめていた。