24・科学魔法
ガラガラガラ・・・
森から景色が変わり、馬車は草原の中を通る道を走っていた。
「Glaciem frigore spiritus, communia durandam・・・Congelatio!(凍てつく氷精よ、それを凍らせよ・・・氷結!)」
シーン・・・
「凍らないね・・・」
「うん・・・何も起きないね・・・」
「ちくしょ~!なんでだ!」
街に向けて再度走り出した馬車の中でケイトの魔法レッスンが続いていた。
早くも「流水(フルエンタ)」が使える様になっていたので、今は「氷結(コンゲラート)」の練習中だった。
どうやら夜の見張り番の最中、ずっと桶に溜めた水に手を入れたりして「流水(フルエンタ)」の練習をしていたそうだ。
その成果もあって、朝起きた時には朝飯の時に「流水(フルエンタ)」が使える様になっていた。
なので今は濡れた布を吊るして、それに向かって「氷結(コンゲラート)」物を凍らせる魔法を練習中なのだが・・・
「まったくわからねぇ!氷は見た事も触った事もあるけど、凍らせるってどうやるんだ!?」
・・・っと、まあ苦戦中なのだ。
ケイトは「照炎(フランマ)」も「流水(フルエンタ)」もすぐに出来ていたので、妙な自信がついていた。
ところが「氷結(コンゲラート)」になるとウンともスンとも言わないのだ。
「ミツルさん!コツとか無いんですか!?」
「コツね~・・・。こう、布が急速に凍ってパキパキパキッ・・・みたいなイメージ?」
(俺の場合はコツと言うより、科学で水が凍る原理を理解しているからなんだが・・・教えるのは時間が少ないしなー)
「ご主人・・・アバウト過ぎてわからないと思いますよ?」
「わ、わからねー」
「ほら」
「じゃあもう一回見せようか?」
「お・・・お願いします」
「照炎(フランマ)」と「流水(フルエンタ)」は詠唱文自体に「闇夜を照らす炎」や「清らかなる水」などの意味があるので多少は想像が出来るのだ。しかし「氷結(コンゲラート)」の場合は「凍てつく氷精」というよくわからないモノまで登場する。うまく想像が出来ないなら、実際に見せればいいと思い何度も見せている。
「いいか?『Glaciem frigore spiritus, communia durandam・・・Congelatio。』」
パキッベキバキバキッ!
詠唱をしてちょっと力を入れると馬車ごと凍ってしまうので、全力で力を押えて発動させたが瞬間冷凍させたバナナのように釘でも打てそうな状態になってしまった。
「うーん・・・そもそもなんで凍ると冷たくなるかがわかりません・・・」
「だよね・・・僕にもわからないよ・・・」
「う~ん・・・そうか・・・」
科学が無いこの世界では「なぜモノが冷たくなると凍るのか?」という事など、解る筈もなかった。
「早くしないと、バールの街に着いちまう!火の魔法はこれ以上は馬車で出来ないから、水系の魔法使いになろうと思ったのに!」
「うーん」
やはり教える側としては希望に沿って上げたい部分もあった。
距離的にはあと5時間もあればバールの街に着いてしまう。しかしこのままひたすら練習してもケイトにイメージが湧く可能性は低い。実験も兼ねてケイトにある提案をした。
「ケイト。ちょっといい?」
「なんですか?」
「これを選ぶのはケイトの自由なんだけど、提案があるんだ」
「提案・・・ですか?」
「そう。これからケイトに『水の理』について少し説明しようと思う」
「コ、コトワリですか?」
「『理』と言うのは、この世界のあらゆる物が存在するための理由だ。この『理』を理解して覚えれば、すぐに『氷結(コンゲラート)』は使えなくても確実に『流水(フルエンタ)』の力が強くなる。その内使える様になったら俺並みの威力の『氷槍(ファメア・グラキエ)』が撃てるようになる」
「え!?」
「今のままひたすら練習するか、それとも『氷結(コンゲラート)』はすぐに使えないかもしれないけど、バールに着くまでに『水の理』を教わって『氷結(コンゲラート)』に挑戦するか、ケイトが選んで―――」
「教えて下さい!」
俺が言葉を言い終える前にケイトは科学を学ぶ事を選んだ。その眼には希望と期待が映っていた。
早速、ケイトに水についての科学を教えようとしていたら・・・
「・・・なんでサーニャさんまで姿勢を正して聞く体制なんですか・・・?」
ケイトと並んでサーニャが体を起こし、背筋を伸ばして聞いていた。
「だって魔術師様が教える水魔法の極意なんて、そうそう聞ける物でもないですし♪」
「そうですか・・・まあ好きにして下さい」
すっかりサーニャは体調を戻して元気になっていた。元気になったのはいい事だが、それにつれて意外とお茶目でマイペースな人だという事がわかって来た。そういう所は何処か鵺に似た感じがしていた。その鵺は暇だったのか、何処かに飛んで行ったようだった。
今回は時間が無いので、気にせずに話を始めた。
「まず始めに、ケイト。水っていうのが何か、言葉で説明出来る?」
「え~っと、水の妖精がつくった物で、冷たくて持つ事が出来なくて・・・え~っと」
普段そんな事を考えた事もなかったのだろう。頑張って出た答えが「水の妖精がつくった物」だった。
この世界の人に説明するのであれば、きっかけとして「水の妖精がつくった物」として話すのもいいだろう。
「うん、それぐらいでいいよ。じゃあサーニャさん。水の妖精はどうやって水を作るのかわかりますか?」
「え?え~っと、妖精から染み出るとか?」
「実は『水素』という物を2つと『酸素』という物を1つ、それをくっつけて『水』を作っているんです」
「え!?でも、水は塊じゃないから3つの物で出来ているっておかしくないですか?」
ケイトが驚いて質問をして来た。きっと池○さんなら「いい質問ですね」と言いそうだ。
「ケイトの言う通り。自分たちが見たり触ったりしている物が『水』その物ならおかしな話ですが、自分たちが見ている『水』は『小さな水』が集まった物なんです」
「小さな水ですか?それってどれくらい小さい物なんですか?」
「それこそ目に見えないぐらい『小さい水』なんです。そしてこの『小さな水の粒』は目に見えないだけで、そこら辺にもいっぱい飛んでいます」
「え!?じゃあ、今私たちの周りにも水が飛んでいるって事ですか?」
「サーニャさん正解!つまり水魔法と言うのは、このそこら辺に飛んでいる『小さな水』を魔力で集めて出す魔法なんです」
「へ~・・・自分で使っているのに知らなかった」
ケイトがそう思っているのは無理もない。実際、『水』ではなく『水妖精』が見えないだけで飛んでいる。そこに魔力で働き掛けると思えば、原理は似ているのであり得なくもない話だ。
「さて、水が一体何なのかはわかったと思います。『水素』と『酸素』を妖精がくっつけて、見えない程『小さな水』を作る。その『小さな水』はそこら辺に飛び回っていて、自分たちが飲んだり触ったりする『水』はその集合体だという事はガッテン・・・じゃなくて、わかって貰えましたか?」
「「はい!」」
「じゃあ次は『水がなぜ凍るのか?』ってところについて説明しますね。それにはまず、水についてもう少し詳しく説明する必要があります。」
「え?まだ水についてなにかあるんですか?」
いよいよ『氷結(コンゲラート)』ついて話すと思っていたのか、ケイトが不思議そうに聞いて来た。
「うん。実は水には大きく分けて3つの状態があるんだよ」
「それってさっき、集まると触れる『水』になるって言ってたのと関係するんですか?」
「え!?サーニャさんなんでわかったんですか!?」
「え!?え?そうなんですか?」
答えた本人も驚いていたが、それ以上にまさか答えが出て来るとは思っていなかったので自分も驚いた。
「まさに、その通りです。さっき『小さな水の粒がそこら辺に飛んでいる』と言ったけど、この状態を『気体』というんです。そしてその粒が集まった物を『液体』っていいます」
「へ~『気体』っていう言葉は聞いた事無いけど、『液体』自体は普通に使う言葉なのに知らなかった」
「じゃあもう一つの状態は?」
「塊!」
ケイトが自信満々に答えたが、考えは惜しかった。
「まあ半分合っているけど『固体』と言うんだ。水の『固体』はケイトもわかったと思うけど、氷の事だ。じゃあこの『気体』『液体』『固体』に水がなるのはどうやってなるのか。ここからが本題です」
「!?」
ここから本題と言った瞬間に、さっきまでも真剣だったケイトの目がさらに熱を帯びた物に変わったのが手に取る様にわかった。
「さて結論から言うと水は、力を加えると『気体』になって、奪うと『固体』になります」
「「・・・え?」」
結論が早すぎたのか二人そろって凄まじい量の「?」マークが頭の上に出ていた。
(さて・・・ここから普通に理科の話をしてわかってくれるだろうか・・・)