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22・命の重さ

倒木とか“その他諸々”を片付けたので早速馬車に乗り込もうとした所、カームが後方の盗賊だったモノへ向かって行った。


「あれ?カームさん、どうしたんだ?」


何をするのかと見ていると突然、おそらくまだ虫の息があった盗賊一人の首を跳ね飛ばしたのだ。


「え!?な、なにを!?」

(もう死ぬのも時間の問題なんだから、放っとけばいいじゃないか)


「ミツルさんは他者を殺めた事が無いと仰ってましたね?」


カームのいきなり取った行動に戸惑っていると、サーニャが悲しそうな眼をして声を掛けて来た。


「他者を殺めた者の責として、その者をニブルへ送る必要があるのです」

「ニブル?」

「僕知ってるよ。死者の国の名前だよね?」

「鵺さんの言う通りです。ミツルさんの住んで居た所にはそういった所があると伝わっていませんか?」

「いや、名前は違うが・・・天国とか黄泉(よみ)とかそういった死後の世界という考えはありました」

「そうですか・・・この国や大多数の国では、死後の世界をニブルといいます。魂は首が胴体から離れていないと体から離れる事が出来ず、その世界に行く事が出来ないとされています」

「魂が体から出られないとどうなるんですか?」

「体から出られない魂はやがて誰かに救いを求めるように彷徨(さまよ)い、人を襲うようになります。それがタキシムやスケルトンの姿だと言われています」

「タキシムですか・・・会いたくないですね」


タキシムは現代のゲームにもなかなか登場しないモンスターの一種で、東ヨーロッパの本などに記述されている事が多い。


遺恨を残して死んだ者の死体が、肉体を腐敗させながら彷徨(さまよ)い歩く。この「歩く死者」は、蘇った死体という意味ではゾンビに近いが、呪術によって魂を奪われた抜け殻の彼らとは違って意思がある。しかし知性や知能は無いので、誰振り構わず襲うのだ。

腐敗が進んで骨だけになるとスケルトンになるので、肉があるか無いかの差なのだがそれが一番の差でもある。

なにせ死体が腐って動き回るのだから、想像するだけで周囲の異臭は(たま)ったモノではない。

夏場ならば最悪だ。

しかもスケルトンと殆んど同じなので対処法も頭を潰す事なのだが、まず近寄りたくはない。スケルトンより何倍も厄介なのだ。


「なるほど・・・」

「ですから、ああやって頭部に損傷がなく、首がある者は首を落として置かなければいけません」


その後、カームは氷の槍を抜いた後、盗賊たちを森の中へと放り投げて後始末を終えた。




再び馬車に揺られながらケイトは水魔法の練習をし、サーニャはまだ体が回復仕切っていないので横になっていた。鵺はカームと御者台にいた。

そんな中、俺はずっと無言のままだった。


目を瞑れば盗賊たちの最期の瞬間が甦り、頭から離れなかったのだ。

ゴブリンの時は感じなかったが、罪悪感と恐怖感に襲われていた。

恐らく今までは、どこか非現実視していたところがあったのだろう。相手は倒すべき相手で、ゴブリンと違う所は言葉が通じるだけの事だと思い込む様にしていた。

しかし、頭の片隅に(よぎ)ってしまったのだ。

あれはコロハ達と同じ獣人族だと。そして、その者達の命と一生をこの手で奪ってしまったのだと。

この世界はRPGの世界なんかではない。自分もけがをすれば痛むし、下手をすれば死ぬ。そして、殺される事も・・・。

俺の居た世界と異なるが現実なのだ。


そんな事を考えていると、(おもむろ)にサーニャが俺の横に来て腰を掛けて来た。


「ミツルさん。あなたは本当に優しい方なんですね」

「やめて下さい・・・。自分が本当に優しい奴ならもっと考えて、違う選択が出来た筈です。盗賊たちを殺さずに済む方法だってあった筈・・・。ですが、自分はそれを選ばなかった、むしろ考えようともしなかった・・・。そんな奴は優しいとは言いません」

「そうですか・・・。ではなぜ悩んでいるんですか?」


俺が否定する言葉に、サーニャは横から真っ直ぐな眼差しで聞いて来た。

しかし、その言葉に俺は感情が高くなってしまった。


「当たり前です!いくら悪党でも、そいつらにも一生があった!それを簡単に奪ったんです!しかも、サーニャさんは俺を優しいと言ったが、今だって『もし自分が殺される側だったら』『もし、大切な人がそうなったら』なんて自分勝手な事を考えている!そんな奴が優しい奴な訳がない!」

「ふふふっ・・・やはり優しいんです。」

「なっ!?」

「いいですか?ミツルさん・・・。この世界では大半の盗賊は倒すべき存在なんです。それは盗賊をそのままにすればさらに被害を受ける人が居るからなんです・・・・・・」


言葉が途切れたので、サーニャを見るとすごく寂しそうな悲しい目をして話し始めた。


「私たちの村はここよりもっと西の山間にあった小さな村でした。村のみんなは全員が家族のような、温かい村だったんです・・・。私もその村のみんなが大好きでした・・・。

しかし4年前のある日・・・。

国の軍隊が討伐した大きな盗賊団の残党がやって来て・・・。村は無くなりました。」

「っ!?」

「家はすべて焼き払われて、女は凌辱(りょうじょく)され、逃げる者も子供も全員殺されました。その盗賊は私たちの村だけではなく、近くにあった3つの村も襲ったのです・・・。

ミツルさん。あなたの住んで居た所はどういう所だったのかはわかりません。

しかし争いもなく、平和な所だった事は何となくわかります・・・。

しかしこの世界はミツルさんの居た所より、危険で残酷なんです。私たちと姿形が一緒で知能があっても、知性が無い者などの魔物と変わらない。そんな存在がこの世界には沢山居るんです。だから、殺さなくてはいけない存在なんです。そうしなければ、誰かが不幸な目に遭うんです・・・。」


悲しい目をして自分の村の事を話していたサーニャだが、言葉を区切って真剣な目をこちらに向けて、見つめて来た。


「しかし、だからといってミツルさんが悪いとは言いません。むしろその優しい心は持って居て下さい。この先、きっと今日の様に他者の命を奪わなければ、自分や大切な者の命を守れない事も沢山あります。その時はやはり辛い思いをするかもしれません。ですが、完全に優しさを捨てるような事はしないで下さい。たとえ仕舞い込んだとしても、いつでも出せるようにして下さい。あなたは魔術師様です。心を失くした魔術師は・・・ドラゴンより恐ろしい魔物になってしまします・・・。どうか、心は強く持って居て下さい」


サーニャの真剣な言葉は温かみを帯びていた。


それは自分自身でも持って居た懸念だった。

この世界の他の魔法使いや魔術師の力はわからないが、自分の力は異常だと思っていた。

もしもこの力が欲の為に施行される様になれば、最悪の殺人(シリアル)(キラー)となってしまう。

この世界では「悪」は狩るべき存在なのだが、他者を殺める事に慣れた者は少しづつ狂って行く。少しづつ狂って行けば最後には命を奪う事に対してなのも思わなくなってしまうだろう。

1890年代のシカゴに「私が人間を殺すのは、詩人が詩を詠うのと同じだ」と言った殺人鬼が居た。

自分がそうなってしまうのではないかと、恐怖感を感じていた。


だが、サーニャの言葉は自分にとって喝を入れられた気分だった。今の自分には「正しい事をした」と正当化する事など出来ない。

しかし自分や周りを守るには必要な時もある存在し、この先多くの経験をする事だと理解はした。

ただし、その時の選択は間違えてはいけないモノだから、心を強く持つように言われた気がしたのだ。


「わかりました・・・。そうならない様にしますよ」


その言葉を聞いたサーニャは優しい笑顔を見せた後、また横になって休み始めた。


(まったく・・・。サーニャさんだって相当な『優しい方』だろうに・・・しかし助かりました、自分は間違えませんよ。サーニャさん)


口には出さなかったが、そんな事を心の中で言いながら、「フッ」と笑いがこぼれた。

ちょっと短かったので、2話同日投稿します

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