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19・ルーン魔法

馬車から降りると、馬車の後ろの方から何やら近寄ってくる音がしたのでそっちを見てみると、鵺が体長3mはあろうかというイノシシを引率して来た。


「あのバカは・・・」


きっとあのバカの事だろう。狩って持って来たりするよりも、連れて来ればいい・・・なんて考えているに違いない。


「ん?何の音・・・ちょッ!デカ!」


馬車の中で鍋などを出していたカームが顔を出し驚いていた。

流石にあの大きさは身の危険を感じる大きさだろう。


「おい!鵺!そのスピードで連れて来たらお前を使う暇が無い・・・(ファメア)だ、(グラキエ)ろ!」


鵺にツッコミを入れつつ、無詠唱の氷槍(ファメア・グラキエ)で長さ1.5m程の氷で出来た槍を3本放った。

氷の槍は同時に猛スピードでイノシシに向かい、飛んで行った。


イノシシは飛んで来る氷の槍を回避しようと進路を変えようとするが、猪突猛進、時既に遅し、3本の内2本の氷の槍がイノシシを仕留めた。


「ス、スゲー・・・」


後ろを見るとケイトが目を輝かせて驚きの声を口にしていた。


「ミツルさん・・・すごいですね・・・」

「いやー、魔術師の魔法なんて始めてみたけど、すげーな!・・・会話の最中に魔法が出来るんだな・・・」


カームの言うように、俺はある程度魔法名を言わなくても魔法が撃てるようになっている。

しかし、魔法名を言うのと言わないのでは3倍程威力と数が変わるので、余裕があるときは魔法名を言うようにしている。


「それにしても・・・デッケー・・・これ4人で食えんのかな~」

「まあ食えなくても、干し肉とか魔法で凍らせれば大丈夫だろ」

「へ~・・・ミツルさんの魔法ってなんでもありみたいなんですね・・・」


ケイトが「なんでもあり」と言ったように、科学的原理の理解と無詠唱、それにルーン魔法があれば万能というよりチートに近い。


丁度、昼飯の為に停車した所だったので、森の中の少し開けた所で停まっていた。

3mのイノシシを解体するのに場所的には余裕がある場所だ。


イノシシの解体はケイトとカームが買って出てくれた。正直、倒したはいいがこういう大きい獲物どころか、動物の解体はやった事が無かった。

それに引き替え二人は行商という仕事柄なのか、慣れた手際でドンドン解体してくれた。


俺はというと、その手際を見ながら『流水(フルエンタ)』で内臓や肉の余計な血などを洗い流して、干し肉にしたり凍らせる為にある程度の大きさに切っていた。


(さて・・・結構な量を適当な塊にしたが、この陽気だから冷凍するなら早めにした方がいいだろう。だけど、入れる容器が無いんだよな・・・・・・そうだ!)


しばらく保存方法を考えていたが名案を思い付き、自分の居た所から5・6歩離れて地面に手をついた。


作るイメージは陶磁器。

ケイ素・アルミニウム・鉄を酸素で酸化させて混ぜ合わせて(かめ)をイメージする。

なるべく粒子の隙間は少なくして、酸化アルミニウムと酸化鉄を酸化ケイ素で繋いでいく。


10秒ほどで大きめの白い(かめ)が出来た。土に含まれるアルミニウムの量が少ないせいだろうか、地面の広範囲で土の色が変化し、浅く窪んでいた。


「お~・・・さすがご主人。そんな事も出来るんですね」

「まぁ~な」


鵺が生肉を口にしながら、感歎の声を掛けて来た。


出来た(かめ)の内側に「ハガル」と「イス」のルーンを二つ一組にして、4か所に刻み込んだ。



今回使う「ハガル」と「イス」はどちらも氷に関するルーンである。

それぞれの文字の意味を細かくいうと、

「ハガル」の意味は破壊、氷、冬、沈黙、障害、失敗、中断、変化、偶然、破壊、地震、天災、嵐。

「イス」の意味は氷、休止、静止、停滞、安定、槍、争い、妨げ、凍結。

である。


ルーン魔法の法則として、威力を単純に上げるには文字数を増やせば威力は上がる。

しかしそれよりも、他の文字と合わせる方が効率がいいと本には書いてあった。

また、複数の文字を使う場合は適当に刻めばいいという物でもなく、順番が存在する。


以前、鵺に作った翻訳魔法具に使ったルーンは「アンスール」・「ケン」・「マン」で、今回は「ハガル」と「イス」である。

ルーン魔法は文字に順番があり、その順序を守って書く必要がある。

5文字を順番で並べると「アンスール」・「ケン」・「ハガル」・「イス」・「マン」の順である。


魔方陣で使う場合はまた法則が変わるので別の話だが、基本的にはこんな感じである。


以前、ゲンチアナの家で色々実験していた時に驚いたのはルーン魔法を使う時の魔力の使い方である。

その使い方は全くと言っていい程、俺がルーン魔法の本で読んだ内容のままだった。


まず、文字を刻んだ本体が変化したりする場合は、一度発動させればしばらくはその効果が発生する。例えば木の枝や薪にケンのルーンを刻んで発動させれば、木はしばらく文字の部分を残して燃え続ける。

しかし、鵺に着けた魔法具の様に文字を刻んだ石本体ではなく、それを装着した鵺に効果を与えたい場合は、一度発動させてからも魔力を流し続けないと効果は無くなってしまうのだ。


ゲンチアナに魔石を頼んだ時はそんな事は考えていなかったが、それは偶然の巧妙(こうみょう)と言える。


今回の(かめ)は自分でルーンに魔力を流せば、中の物を凍らせる事が出来る。魔力を流すのをやめても、(かめ)自体がルーンの効果のせいで冷たくなるので保温も出来るようになっている。

我ながらに便利な物を作った物だと感心してしまった。



その(かめ)を三つ作ったところで、切り取った肉を詰めていった。三つの(かめ)がいっぱいになったところで、後の肉は他の(かめ)の半分程の量だったので干し肉にする事にした。


干し肉は塩に、鵺に頼んで取って来て貰った蜂の巣から取った蜂蜜を少量混ぜてそれを小さめに作った(かめ)で肉を漬けて下準備を終わらせた。


肉などを削いだ後、カーム達は何をしているのかと見てみると、俺が空の樽に流水(フルエンタ)で用意した水で毛皮の手入れをしていた。

やはり、そこは商人。氷槍(ファメア・グラキエ)で穴が開いてしまってはいるが、大イノシシの皮をどこかで売るのだろう。



「ミツルさん。昼ごはんの支度が出来ましたよ」

「あ!ご主人!ご飯出来たって!」


肉の入った(かめ)を馬車に積み、凍らせ終わるとサーニャが掛けてくれた言葉に鵺が反応した。

昼前にとんだ大仕事を(こいつ)が持って来てくれたせいで、すっかりお腹が空いてしまっていた。


「ありがとうございます・・・それより無理はしないで下さいね。まだ、完全には治ってないんですから・・・」

「ありがとうございます。でも、これぐらいしか出来ませんし、それに大分調子もいいです」


普通は麻黄湯だけではここまで回復はしないのだろうが、治癒魔法(サニタトゥム)を掛けているお蔭で飛躍的に回復が早いようだ。

おそらくは、体自体も現世の人よりは丈夫なんだろう。


「それよりミツルさん、その(かめ)は・・・」

「ああ、作りました」

「そうなんですか・・・作ったんですか・・・ん?」


サーニャが驚かないように苦笑いで固まっていたが、気付いたらしい。


「あの・・・ミツルさん?(かめ)ってなにで出来てるんですか?」

「あー・・・そこらへんの地面から作りました」

「地面?・・・え?」

「こっちは終わったが、飯できたか?・・・ん?サーニャもミツルさんもどうしたんだ?」


イノシシの皮を処理していたカームが作業を終えて戻って来たが、サーニャが驚きで固まり、俺が気まずそうにしているのに気付いた。


うん・・・もう開き直ろうかな。

次は4・5日後に更新予定です。

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