18・魔術師
なんだか短い気がするので2話同時投稿します。
「え!?火!?」
「え?だってミツルさんは火と治療魔法の魔法使い様だろ?」
ケイトは薬を煎じている時に火をルーン魔法で起こしているのを見て火の魔法使いだと思っているようだ。
対してサーニャは水と風と治療魔法の魔法使いだと思っている。
ゲンチアナに聞いていた「3属性の内1つを3段階以上使える様になると『魔法使い』と名乗れる」という話とサーニャに聞いた「平民の中でも魔法使いはランクが上」と言う話から、3属性共に使えるなんて話をした日には相当なランクと思われるだろう。
正直、気を使われるのが只でさえ好きではないのに、そんな話が出ればどうなるかは予想がついていた。
「ミツル様は魔術師様だったんですか!?」
サーニャが大声で驚きの声を上げた。
(ほらな・・・ランクが勝手に上がって行く。だから言いたく・・・ん?)
「魔術師?ちょっと待てください・・・魔術師って特殊魔法が使える魔法使いの事ですよ?俺は魔法は使えますが、召喚魔法とかの特殊魔法は使えないですよ!?」
「いえ!3属性と治療魔法が使える時点で魔術師様じゃないですか!?」
(おや?ゲンチアナやコロハの話と大分違うぞ?)
ゲンチアナやコロハの話では基本の3属性の内1つを3段階以上使える様になると『魔法使い』。それにプラスして召喚魔法や基本の3属性以外の魔法などの特殊魔法が使えると『魔術師』となる。
実際、自分は魔力操作(マギカ・オペレート)と土魔法(サト・マギカ)も使えるので魔術師と言っても問題ないだろう。
しかしそれを踏まえて魔術師というのと、それも無しに魔術師というのでは今後に大きく変わって来るだろう。
ゲンチアナは魔法使いという事は隠していなかったが、魔術師という事は隠していた。
コロハにも他言しないように言っていた事を考えると、この世界での魔術師は平民の中のランクとしては異常・・・むしろ、平民のランクに留まっているかも怪しいところだ。
「すみませんが、自分は他所から人がまったく来ない所から出て来たばかりなので、世の中の常識がわからないんです・・・詳しく教えて頂けませんか?」
「そうだったんですね・・・畏まりました。ご説明させて頂きます」
サーニャは恐れながらといったように、畏まって説明をしてくれた。
一般的な魔術師は自分の認識している通り、召喚魔法や基本の3属性以外の魔法などの特殊魔法が使えると魔術師と名乗れる。
しかし、通常は一人につき2属性の魔法を使えるようになる事も稀である為、
3属性の内1つを3段階以上使える様になると魔法使い。
3属性の内2つを3段階以上使える様になると一流の魔法使いと呼ぶ。
その中でも攻撃魔法と治療魔法は相性が悪く、両方使える魔法使いは一流の魔法使いの中でも極一部しかいない。
では、3属性を3段階以上使える様になるとどうなるか。
たとえ特殊魔法が使えなくても魔術師と言われるのだという。
実際に特殊魔法が使える魔術師が、通常の攻撃魔法は使えない・・・なんて事もよくあるそうだ。
むしろ、特殊魔法が使える魔術師の中で通常の攻撃魔法を2種類使える魔術師は殆んどいない。
ちなみにゲンチアナは火と水と治療と召喚魔法が使えた大魔術師という、実はすごい人物である事がここで初めてわかった。
「ですから、ミツル様は魔術師様で在らせられるのです。」
「そういう事ですか・・・ところで言葉使いまで変えないで頂けますか?」
「滅相も御座いません!畏れ多くも魔術師様!しかも全属性を統べるお方!当然の事で御座います!」
サーニャは酷く畏まっていたがケイトは状況がまだ呑み込めていないようで固まっていた。
「いえ、そう畏まられるとこちらも困ってしまいます。それに訳があって(ただ面倒臭いから)あまり目立ちたくないんです。普通にして下さい」
「左様で御座いましたか。しかし・・・」
「お願いします。これも俺の為と思って・・・」
「・・・・・・」
しばらくサーニャとケイトが固まっていたが・・・
「わかったよ!ミツルさんがそういうなら、そうしよう!サーニャ姉さんもそうしようよ!」
「ケイト!・・・でも・・・・・・わかりました」
サーニャがケイトの言葉に驚いていたが、さっきまで困った表情をしていた俺が笑ったのを見て納得してくれたようだった。
「ところでミツルさん!火の魔法、俺にも使えますか!?」
「ああ、おそらく使えるだろう。教えようか?」
「ホントっすか!?お願いします!」
「ケイト・・・ミツルさんに迷惑にならないようにね・・・本当に、失礼ですみません」
興奮して喜んでいるケイトにサーニャは注意をしつつ頭を下げて来た。未だにヨソヨソしい所はあるが、バールの街に着くまでにはなれるだろう。
馬車移動になったことで明日には街に着くだろう。その間にケイトにどこまで教えられるか楽しみでもある。
「まず、ケイトは自分の魔力を使った事はある?」
「はい!魔法道具の中には自分から魔力を送らなきゃいけないモノもあるんで」
「そうか、詠唱は習ったり、本で見たことは?」
「それが無いんです。しかも詠唱は普通、俺らが使っている言葉じゃないんで、何を言っているのかすらわからないです。」
確かに魔法の詠唱はラテン語なので、文字として英語に近い言語からは認識し難いのかもしれない。
「まずは照炎(フランマ)、掌に炎を出す魔法の詠唱だけど『Flammae illuminare et noctem,veni』だ」
「ふらんまえ、いるみ・・・?」
「『Flammae illuminare et noctem,veni』で、意味は『闇夜を照らす炎よ、出でよ』だ。意味が分かった方が想像しやすいと思う」
「闇夜を照らす炎か・・・うん、夜の焚火だな。よし・・・」
何かに納得したのか、ケイトは目を閉じて集中し始めた。
「Flammae illuminare et noctem,veni!」
ボウッ!
「おお、出来るのが早いな・・・」
開始からおよそ10分か15分位だろう。俺は最初に散々苦労していたが、もう使える様になっていた。
「え!?出来た!?」
喜んでケイトが目を開けると突然、掌の上の炎が消えてしまった。
「ああ、出来ていたがイメージをやめたからすぐに消えてしまった。でも、目を閉じている時にはしっかり出来ていたから、まずは目を開けたまま出来るように練習だな」
「はい!わかりました!・・・よーし!絶対バールに着くまでに魔法使いになってやる!」
(明日までに魔法使いって・・・無理すぎるだろ・・・)
ケイトが気合を入れた所で馬車が停まった。
「ミツル様、っとじゃなかった・・・ミツルさん昼にしましょう」
馬車の前からカームの声がした。確かにそう言われれば、お腹も空いてきた。
馬車から降りると、鵺が居ない事に気が付いた。
(まあ、放って置いてもそのうち戻ってくるだろう。)
そんなことを考えていると、馬車の後ろの方から何やら近寄ってくる音がした。
音の方を見ると・・・
「ご主じ~ん!もうすぐ昼ですよね~」
鵺が飛んで来た。
しかし、その後ろには体長3mはあろうかというイノシシが後をくっ付いて来ていた。
何をやっているんだ・・・あのバカは・・・