13・旅立ち
朝飯を食べ終わった後、
スケルトンを倒して以来、ここ5日行っている薪相手に刀の練習をしていた。
スケルトンを調べて大体の動いている仕組みがわかって、それを応用した魔法を動きに取り入れていた。
スケルトンに筋肉は無く、関節を魔力で動かして動いていたのだ。
それから工夫をして自分の体に使ってみると、飛躍的にパワー・スピード共に増していた。
今では投げた薪を空中で8分割に出来るようになった。
既にある程度使える様にはなっていて、何度が多量のゴブリン相手に使ってみたがいい感じではあった。
しかし、やはり基礎体力も上げるべきだろう。当面の目標は基礎体力向上だ。
魔法の方も順調に上達して新たにいくつかの魔法が使える様になった。
水属性で
氷槍(ファメア・グラキエ)氷の槍を目標に放つ。
風属性で、
強風(フォルティス・ベントゥス)身動きが出来ないほどの強風を起こす
治癒魔法で、
治癒(サニタトゥム)病気・毒を治す。
検査魔法(サーチ)ゲンチアナが治療をする際に、体内に魔力を流して異常を見つける時に使っていた魔法
オリジナル魔法もいくつか作り出す事が出来た。
火と水属性の複合魔法で、
水爆(ハイドロゲン・ボム)水から水素と酸素を生成し爆発させる魔法。
そして魔力操作「Magicae operatio」(マギカ・オペレート)と土魔法「Sat magicae」(サト・マギカ)の開発である。
魔力操作(マギカ・オペレート)は大雑把にいえば風魔法に近い空気魔法だ。
空気は主に酸素が約20%・窒素が約79%・その他の二酸化炭素などが約1%ほどで構成されている。その酸素と窒素を圧縮し、魔力を混ぜて質量を持たせて自在に使う。
今の所は、
不可視の強壁(トゥーレス・インビジビリウム)任意の場所に見えない壁を作る。
探知魔法(ソナー)、レーダーのように魔力と空気の波を作り、空間内を把握する魔法が出来ている。
そして土魔法(サト・マギカ)は、石などに含まれるケイ素・鉄・アルミニウム・炭素と、正確にはそれぞれ酸化しているので酸素。それらをイメージして操作することによって、半径100mの範囲で形を変える事が出来た。
使い方や仕組みからすると魔力操作(マギカ・オペレート)と同じなので、分類的には一括りにしても問題はだろう。
土魔法は実に便利な魔法ではあるが、難点があるとすれば物質を生み出している訳ではないので、何か生成すると周囲の土が持って行かれてしまう事だ。
現にそれで出来た窪みにコロハはハマった。
あとは
加速魔法(アクセラート)関節と筋肉運動を魔力で補助をする事で大幅にパワーとスピードが上がる魔法。
まぁ、そんな具合に大分戦闘に対しては力がついて来たのでそろそろ頃合いだろう・・・。
今日はコロハも家にいるので3人そろって昼飯を食べている時に話を切り出した。
「婆さん、コロハ、話がある」
二人を呼ぶと、コロハは不思議そうにこちらを見てきた。
ゲンチアナは感づいているのであろう、平然とスープを口に運んでいた。
「俺はこの家を出ようと思う」
「えっ!」
「コロハ。・・・座りなさい・・・ゴホッ!」
俺の言葉にコロハが驚いて立ち上がったが、それをゲンチアナが注意して咳をした。
「俺が世話になってもうすぐで1か月経とうとしている。これ以上厄介になる訳にはいかない」
「そんな!もう少し、いえこのままここで暮らせばいいじゃないですか!」
コロハを見ると悲しそうな、今にも泣きそうな顔をしている。そんな顔も可愛くて抱きしめたくなるが、そうも言っていられない。
元の世界に戻る為にも情報が必要なのだ。
「ゴホッ!ゴホッ!・・・コロハ、わがままを言うでない。ミツルにもミツルの生き方がある」
「でも・・・」
ゲンチアナの言っている事はコロハにもわかるだろう。しかし、3人で暮らしていた時の賑やかさがなくなるのは寂しく感じてくれているのだろう。
「ところで、お主・・・ゴホッ!どうするつもりじゃ?」
「とりあえず、バールの街に行こうと思う」
バールの街はエド村から4日歩いた場所にある街で、そこそこ栄えているので冒険者ギルドもあるという。
話に聞く限りだと、モンスターから剥ぎ取った素材などを買い取ってくれるらしい。
戦闘しか出来ない俺にとっては、そこで稼ぐのが一番だろう。
何より冒険者ギルドという名前に中二病がうずく。
「まずは、バールの街に行って金を作る。まあ受けた恩もあるし、3週間か1か月後にこっちにまた顔を出すよ」
「そんな事は気にせんでいい」
「いや、それでは俺の気が済まないんだ」
「そうか・・・ゴホッ!好きにするがいい」
「悪いな」
コロハは俯いたまま黙ってしまったが、もともとは二人で暮らしていたのだから大丈夫だろう。
「ところで、いつ発つつもりじゃ?」
「ああ、明日の朝には出ようと思う」
「っ!」
俺の言葉に驚き、顔を上げたコロハの目には涙が流れんばかりに溜まっていた。
「そうか・・・お主の魔法と剣の腕なら大丈夫じゃろ」
「ありがとう。そこで悪いんだが、午後は旅支度をするつもりなんだが・・・」
「ええよ。それくらいの金は出してやろう」
「何から何まで悪いな。必ず返しに来るよ」
「ふふふっゴホッ!・・・気にしなくてええと言っているに」
飯を食べ終えて村に買い出しに行き、最低限の物だけ買って夕飯前に家に戻った。
飯を食べてる最中もゲンチアナからいろいろ情報を貰っていたが、コロハは一言もしゃべらず黙っていた。
その雰囲気を察したのか、鵺も黙ったままだった。
翌朝
旅立ちには絶好の雲一つ無い空だった。
少し熱い気もするが、寒いよりはいいだろう。
玄関先まで見送りで出てきてくれた二人だが、コロハは俯いたままだった。
「いろいろ世話になったな、それに服まで貰って」
「気にしなくてよい・・・それより、これをお主にやろう」
「これは?」
ゲンチアナが一冊の分厚い本を渡して来た。
「召喚魔法の本じゃ」
「え!?」
コロハが驚いてゲンチアナに目を向けた。
召喚魔法と言えば、ゲンチアナが魔術師と言われる要因となった魔法のはず。
そんな物を俺に渡していいのだろうか?
「それって!・・・いいのか!?」
「お主ならきっと使える様になるじゃろう。儂は儂が作った魔導書があるから大丈夫じゃ。それにそれは、儂が研究の最中に書いていた本じゃ」
「ありがたく貰ってくよ・・・」
「ああ、気を付けるんじゃよ」
「ああ・・・・・・コロハ」
俺が声を掛けるとコロハがビクッと肩が動いて寂しそうな顔をした後、俯いてしまった。
「コロハ・・・また1か月位の間に戻ってくる。そんな顔はしないでくれ。
あと・・・いろいろ世話になったな」
しばらく沈黙が続いたが、一向にコロハは俯いたまま無言だったので出発する事にした。
これ以上この場に居れば、自分も別れるのが辛くなってしまいそうだった。
二人に背を向けて歩き出そうとした瞬間、背中にドンと弱い衝撃が来た。
背中を見るとコロハが抱き着いていた。
「ミツルさん」
「ん?なんだ?」
顔を見ようかと振り向こうにも後ろからしっかり腹の位置でホールドされて動けなかった。目線をゲンチアナに向けると何やらニヤニヤしている。
「ミツルさん・・・絶対・・・絶対無事に戻って来て下さい」
「ああ・・・」
「風邪とかに気を付けて下さい」
「ああ・・・コロハもな」
「無理とかしちゃダメですよ?」
「ああ・・・」
「それから―――」
「コロハ、ありがとう・・・必ずまた会える」
「・・・はい」
コロハの腕をほどき、両手を握って俺より20cm程身長が低いコロハの顔を覗き込んだ。
「じゃあ行って来る。」
「はい!」
コロハは涙を流しながらも精一杯の笑顔で返事をしてくれた。
コロハの頭を撫でてやり、俺はバールの街へ足を向けた。
その後ろで俺の姿が見えなくなるまでコロハが手を振っていたのは言うまでもないだろう。
ちょっと短いか?・・・まあ、気のせいだろ。
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