12・エンカウント
鵺は小太刀になって両手に収まるとボソッと真剣な声を上げた。
「スケルトンですね。」
「あれがスケルトンか・・・」
草むらが揺れて、武器を持った人の骨のようなモノが姿を現した。
「スケルトンは斬撃よりも打撃が効果的だと聞いた事があります。」
「そうか・・・ところで聞いたってどこで聞いたんだ?」
「む・・・僕が嫌がっているのに気付かず、使おうとした不埒者です」
気になったので聞いてみたが、鵺は不機嫌そうに答えた。
「とりあえず、接近戦の練習でもしてみるか」
「・・・ご主人、僕の話聞いてましたか?」
「ん?斬撃はあまり効かないんだろ?」
「わかっているなら、魔法を使った方がいいのでは?」
「ちょっと気になった事があってな・・・」
スケルトンを見たときに思いついた事があるのだ。
スケルトンは中世ヨーロッパの古戦場や大航海時代の幽霊船などに出現することがあったという。死んだのちに肉が腐り落ち、白骨化してなお動き続ける魔物だ。
すでに白骨化しているので、筋肉や腱などもない。
では、なぜ動けるのだろうか?
現代魔術の本にはネクロマンシー(死霊魔術)やマリオネット(傀儡術)など、動作機関が存在しない状態で媒体を操ることが出来ると書いてあった。
おそらくはそれと同じ仕組みだと想像できる。違うところは術者が居るかどうかだけである。
つまり自分の予想が正しければ、その仕組みを利用して筋力の補助や運動に役立てるはずと考えた。
それにはまず魔力がどういう働きをしているかを知る必要があるだろう。
「とりあえず、試してみるか!」
勢いよく地面を蹴ってスケルトンとの間合いを詰めた。
それに合わせるように相手は剣を振り下ろすが、攻撃が来る事はわかっている。
振り下ろしてくる剣を持った右手に合わせるように、自分の左手に持った小太刀を添えるように当てて振り下ろす。
シャオンー・・ドス!
スケルトンの振り下ろした剣と小太刀が独特の音を出したと思ったら、勢いよく地面に深く刺さった。
スケルトンがそれを抜こうと両手で剣を握るが、そのまま止まってしまった。
「・・・ご主人。何をしたんですか?」
鵺は俺が何をしたのか、まったくわからなかったようだ。
「ん?あぁ、護剣の要領で剣を捌いただけだ。」
「ゴケンですか?」
護剣とは相手の斬撃に合わせてこちらの武器を当て、無理のないように剣の軌道を変える武術だ。
スケルトンが全力で振り切ったせいなのか、俺の力も上乗せされた剣は深くまで地面に刺さっていた。
「動かなくなっているようだし、倒しちゃ意味ないよな・・・。」
カチン!カチン!
「え?えぇぇぇ!」
二刀を腰の鞘に納めると鵺が叫びだした。
「な、な、な、」
「ナイニーがまた食べたいのか?」
「違います!なにやってるんですか!?」
「なんだいきなり大きな声出して・・・」
俺は渾身のボケをしたのに普通に返され、鵺は大きな声で訴えてきた。
「そんな大きい声出すなよ」
「大きい声も出ます!ご主人!あのスケルトンはまだ倒してないんですよ!」
「わかってるって」
徐に石を拾うと「よっと」とスケルトンの頭に投げた。
コツ!
「なにやってるんですか!あなたは!」
「うるさいやつだな」
「早く僕を抜いてくださいご主人!死ぬ気ですか!?」
「まぁ見てなって」
そんなやり取りをしていると、スケルトンは剣を地面から抜くのをあきらめてこちらに向かってきた。
早いスピードではないが、早歩き程度の早さだろう。
スケルトンが俺を掴み掛ろうとした瞬間。
鵺が「ひッ!」と小さく悲鳴を上げたが、俺は左手でスケルトンの右手を掴んで、右手は肋骨の間に差し込み、思いっきり背中から打ち付けるように投げた。
ガシャン!
音を立てて背中から打ち付けられたスケルトンは、拍子で首だけ取れていた。
「やばい、やり過ぎたかな・・・」
「・・・ご主人」
「ん?なんだ?」
「・・・なにやったんですか?」
「投げただけだが?」
自分は投げただけだった。柔道の一本背負いの要領だが、スケルトンは体重が軽いので簡単にできたのだ。
「そうですか・・・とりあえず、頭が体に戻る前に頭を割って下さい。」
「割るとどうなるんだ?」
「それでスケルトンは倒せます」
「いや、まだ倒しちゃ困るんだよ」
「・・・ご主人は何がしたいんですか?」
若干、鵺の機嫌が悪くなってきたように感じて来たので、ここらでちゃんと説明しておいた方がいいだろう。これ以上ヘソを曲げられても面倒臭そうだ。
「とりあえず、スケルトンを調べながら説明するから、そんなに怒らないでくれ」
「・・・わかりました」
そうして首が近づいて来ては蹴っ飛ばして体を調べて、また首が近づいたら蹴ってを繰り返しながら、スケルトンが動く仕組みの仮定と応用の方法を鵺に話してやった。
「なるほど、確かにそうなればムキムキマッチョにならなくても、そこらの脳筋さん達に対応できるって事ですね?」
「なんか言葉に刺があるが、そんな感じだ。」
その後、首を5・6回蹴ったあたりで大体の仕組みが分かったので、頭を蹴り潰した。
「ね~、ご主人・・・」
スケルトンを無事倒したところで、鵺が声を掛けてきた。
「ん?今度はなんだ?」
「もうすぐ日が山に隠れそうですけど、ごはんの時間は大丈夫なんですか?」
「あ!やばい!」
そう。いつもゲンチアナ達の夕飯は日没の少し前である。
俺は急いで家に帰り、着いた時にはコロハが泣きそうな顔で玄関の前で立っていた。
「ミツルさん!」
俺の姿を見つけるとコロハが大きな声で名前を呼んで尻尾を振りながら駆け寄ってきた。
「わるいコロハ!遅くなっちまった」
「心配したんですから!本当に・・・本当に・・・心配、したんですから・・・」
俺の姿を見て安心したのかコロハが泣きだしてしまった。
「あっ!ちょっと!泣くなよ!俺がわるかった!わるかったから!な?謝るから泣くなって!」
突然泣いてしまったコロハにどうしていいかわからずに、とりあえず家に戻る事にした。その後、ものすごく長いゲンチアナからの説教を受けたことは言うまでもない。
本当に長かった・・・
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