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100・旅立ち

すっっっっごい、お久しぶりです!

前話が2017年の7月って、約一年半前って事ですね。本当に申し訳ないです。

さて、なかなか執筆出来ませんでしたが少しずつ再開したいと思います!

本当に長い間お待たせ致しました!

話的にはバールの街から出発。そして新しい仲間と王都騒動編的の始まりです。

自分でもストーリーを思い出すのが大変でした。

更新は遅いですが、生暖かい目で見て下さい。

今後とも宜しくお願いします。

俺とラークは竜車に乗って街の外へと来ていた。今、ラークと竜車で街の外に来ているのは理由があった。


「右に曲がりたい時はこっちの綱をこう引いて下さい」

「こ、こうですか?」

「そう、そうです。中々いいですよ。それから、止まりたい時は両方の綱を引きます。その時にオルニスに声を掛けてやると止まり易くなります」

「なんて声を掛ければいいんですか?」

「なんでもいいですが、掛け声は統一した方がいいですね。しかし『止まれ』などの言葉は別の者が言った際にオルニスが混乱するので、別の何かがいいでしょう」

「わかりました・・・。どーどーどー」


馬を止める様な掛け声で手綱を引くと、少し抵抗しながらではあるが、竜車を止める事が出来た。

ラークと一緒に街の外に来ていたのは、竜車の御者をする上で、竜車を引くオルニス(最高時速80km程で走る恐竜の様な動物)の扱いを教えて貰う為だった。

そもそも前世を含めて馬も乗った事が無い俺には、どうやって扱えばいいか全くわからなかった。そこで、ラークに教えて貰う事にしたのだ。

行商をしているカームに聞けばよかったかもしれないが、カームも俺達と一緒に王都へ行く為の準備をしていたので、ラークにお願いする事にした。


それともう一つ、やる事があってここまで来ていた。


「じゃあ、この辺で作ってしまいますね」


そう言って俺は竜車から降りて、コロハの剣を作る時に出たアルミを地面に置き、目を閉じて地面とアルミに魔力を込めた。

しばらく集中した後に目を開けると、目の前に80個近くの白磁器の甕が出来上がっていた。


「はじめて作るところを拝見しましたが・・・本当に特殊魔法と言うのは不可思議なモノですね」


声に振り返るとラークが御者台で目を丸くして驚いていた。


「俺にしてみれば、この世界そのものが不可思議ですがね」

「その世界の住人から見ても、ミツル殿は十分不可思議ですよ」


俺が肩を竦めながら言うと、ラークから呆れた様に言われてしまった。

その後、甕にルーンを定着させれば、冷凍保存が出来る甕の完成だ。


竜車にすべての甕を積んで、その後も少しオルニスの扱いを練習しながらラークの店に向かう際中、先ほど話していたミスリルについて聞いた。


「俺の世界ではミスリルは空想上の金属と言われています」

「そうでしたか、ミツル殿の世界には無い金属でしたか」

「熱が通り難い他には、なにか特徴みたいのってあるんですか?」

「えぇ、あります。ミスリルは外的要因に強いのが特徴で、衝撃や熱に強く、熱が通り難い代わりに魔力の流れは容易に通す事が出来ます。

衝撃等に強いので普通の武器の鍛錬方法である、叩いて形成する事は出来ません。

通常ミスリルの形成は、1週間程熱してから魔力を通して形成します。

ほかにも魔力に同調して属性を付与させる事も出来ますが、魔力の使い方や量を間違えると効果を引き出す事が出来ないと聞いた事があります。」

「いろいろな事が出来るんですね」

「獣人の中にもミスリルを形成出来る者は居ますが、やはり鍛冶に置いてはドワーフの右に出る者は居ないでしょう」


ファンタジー的な金属があるのだから、やはりと言うべきか、鍛冶に関して有名なドワーフの名前が出て来た。


「あ、やっぱり居るんですね。ドワーフも」

「ドワーフはご存知でしたか。」

「伝説上の種族としてですけどね。」

「この世界にはちゃんと居ます。ただ、この国では非常に数が少ないのでドワーフが作った武器は殆んど出回りません。東の方にある国では数も多いみたいですね」


それを聞いて少し旅の楽しみも増えて来たところで、丁度ラークの店へと到着した。

店の裏に竜車を止めてオルニスを小屋に入れた所で、丁度みんなが帰って来た。

みんなの買って来た服などは、昨日の夜の内に作って渡して置いたそれぞれの魔法袋に入れて貰っているので、買い足した物を異空間収納BOXへ仕舞うだけなので、すぐに作業は終わる。その後、作った甕の代金をラークから貰った後でカーム達とも合流して夕飯を取る事にした。

ラークやミーナ達とは別れる前の夕飯になるのだが、いつも通りの明るい食事だった。



翌朝、長く居たバールを発つ時が来た。

何も無くなった部屋を出る前に一度見渡すと少し寂しい気持ちになり、色々と思い出してしまった。


俺と鵺がバールに来てからお世話になっていた宿。

思い出せばカーム達と一緒に訪れて、カーム達が行商に出発した後も宿を移動するのも面倒だと思って泊まり続けていたからだ。

そこからシンティラが来て、その時の従業員のイザックの対応が良かった事もあってそのまま拠点として泊まる様になった。

その後、フェンリルが来て、エレアが来て、コロハが来て、そしてフーカが来た。

今ではカーム達も帰って来た。気づけば俺の周りは随分と賑やかになっていた。

そうした思い出に対して、少し感傷に浸りながらも部屋を後にした。


一階のフロントへ行くと既に全員集まっており、そこには少し寂しそうな顔をしたイザックの姿もあった。


「イザックさん。色々と良くして下さって、本当にありがとうございました。」

「いえいえ。こちらこそ長い間ご利用頂き、本当にありがとうございました。またバールの街に来られた際は、是非とも寄って下さい。お待ちしています。ミツルさん、そして皆さんもお元気で」

「イザックさんも、元気で」


何かと良くしてくれた(すずめ)族の従業員のイザックとも強めの握手をして、お世話になったお礼と寂しいながらも別れを告げて俺たちはラークの店へと向かった。


早朝に竜車を取りに行き、そこでカーム達と合流した。ケイトにも召喚令が出ているので、カーム達も一緒に王都へ向かう為だ。


「では、ラークさん。大変お世話になりました」

「それはこちらのセリフです。ミーナを薬師にして頂いて、しかも多量の甕の追加までして頂いて、なんとお礼を申し上げたらいいのやら」

「昨日も言った様に、またこの街に戻って来るような事があれば、その時はまたお世話になりますので、その前金ですよ」

「前金にしては多すぎますよ。この前金に見合う事と言うのは、考えるだけでも恐ろしくなります」


ラークに渡した甕の代金の内、半分は貰って居なかった。それはラークが金貨400枚と言う大金を用意出来なかったと言う訳では無く、非常に世話になった気持でもあった。


「無茶な事を言ったりしませんよ」

「ミツル殿の常識は規格外ですからね・・・冗談はともかく、何かお困りの事がありましたら手紙でも結構ですので、仰って頂ければ出来る事はさせて頂きます」

「ありがとうございます」


冗談も交えながらラークと別れの挨拶と固い握手を交わした。

思えば、俺が魔術師である事を最初から知りながらも、ラークの態度はこんな感じだった気がする。

厳密には、少し最初とは変わっているかもしてないが、どこか飄々とした感じは最初のままだった。


「み、みなさん!ヒック!ありがとうございました!わ、わたし!ヒック!わたし!」

「ミーナさん、そんなに泣かないで下さい」


ラークとの挨拶を済ませて女性陣の方を見ると、ミーナが号泣していた。


「コロハさんや!ヒック!ミツルさんに!ほ、本当に!ヒック!本当に感謝!ヒック!しても、仕切れなくて!それに!シンティラさんやエレアさん!ヒック!フーカさんも!優しくして!下さって!ヒック!どうお礼を言ったら!」

「み、ミーナちゃん!わ、私も!仲良くしてくれて嬉しかったよ!」


どうやら泣いているのはミーナだけでは無く、シンティラも相当泣いている様だ。

コロハやエレア、フーカは泣きはしない様だが、泣いている2者を寂しく、そして温かい目で見守る様に見ていた。

その様子に、俺も何か言った方がいいだろうと思って、女性陣の方へ向かった。

俺がラークから離れると、交代するかのようにカームがラークに近付いて声を掛けた。


「ラークさん」

「どうした、カーム。お前まで暗い顔しやがって」

「俺達も王都に向かうが、もしかしたら戻って来れねぇかもしれねぇ」

「・・・ミツル殿次第と言ったところか」


カームが戻れない可能性を口にすると、ラークもそれを予想していたようだった。


「あぁ、間違いなく人間であるミツルさんを国は囲いたがるだろう。しかも、情勢が情勢だ」

「・・・・・・カームも気付いていたか」

「そりゃ、俺だって行商だ。ミツルさんと一緒にこの街へ来た時、商団は塩と胡椒を持って来なかった。そして、今回の相場だ。商団が来た後、麦や米の相場はしばらく下がるのが普通だ。だが、下がり方に歯止めが掛かっている。そして、塩と胡椒の値段に関しては若干だが上がっている。行商なら気付いて当然だ」

「こっちはこっちで、東からの物流が途絶えがちだ。特に穀物と塩だ」

「こりゃ、間違いないな」

「あぁ。直ぐじゃないが、この国はどうやら戦争を始めるつもりらしいな」

「そうなると、この国は何が何でもミツルさんを引き止めに掛かるだろう。だが、ミツルさんがこの国に留まる事はない」

「で?カームもそれについて行くのか?」

「ケイトはミツルさんと一緒に召喚された。一緒に逃げるのが一番だろうよ!そこで俺達だけ残るとなれば、俺達はケイトに対しての人質になりかねん」

「確かにそうだろうな・・・。ふ~、やはりお前にこれを渡して置いた方が良さそうだな」


ラークがため息を吐くと、懐から一通の手紙を取り出してカームへ差し出した。


「これは?」

「俺の勘違いという事もある。カームに渡して置こうか悩んでいたが、お前との話で渡して置く事にした。逃げるなら北の港『エラバルド』に行け。この紹介状があれば、スノフィエラまでの船に乗れる」

「ラークさん!」


ラークが差し出したのは北に大きく広がる国『スノフィエラ』への渡航紹介状だった。

勿論、そこに逃げる際にはお尋ね者になっている可能性もあるので、非正規船の物だ。


「ラークさん!感謝する!」

「気にするな。せめてもの餞別とミツル殿への感謝の気持ちだ。

確かに二日で用意するのは骨が折れたが、それでもミツル殿から貰った甕の代金や今までの儲けを手数料として考えたら些細な事だ」


カームがラークに深く頭を下げると、ラークは気にしなくていいと、手を振り微笑みながら返していた。

その笑みには『その紹介状が必要になる事が無ければいい』という気持ちと『恐らくそれは回避できないだろう』という予想。それと少しばかり『ミツル殿であれば、そんな物が無くてもなんとかしてしまうのでは?』という考えが入り混じっていたが、それを知る者はラーク本人だけだった。



ミーナとシンティラが大泣きしてしまったが、なんとか宥めて無事にラーク商会を出発する事が出来た。


「なんだか寂しいですね」


御者台で街の東門へ竜車をゆっくりしたスピードで向かわせていると、御者台の背もたれに止まっていた鵺が呟いて来た。


「そうだな・・・。ここでシンティラとエレア、フーカと出会ったんだからな。思い出は沢山ある」

「そうですね。それにギコさんとの戦いも結構面白かったですよね。そういえば、最初ご主人は一般の依頼を出す方だと間違われていましたね」

「あぁ、そういえばそうだったな。そんな事も・・・ん?」


鵺と街に来て最初の頃の話をしていると、東門に人だかりが出来ているのが目に入った。


「どうしたんだ?」

「お!やっと来たか!」


俺と鵺が首を傾げていると、その人だかりからギコがこちらに手を振って来た。

ギコの声に荷台に乗っていたみんなも気が付いて顔を出して来た。


「あれ?ギコさん。それに皆さんもどうしたんですか?こんな朝早く」


ギコが近づいて来たので竜車を止めて聞くと、なぜかため息を吐かれてしまった。


「お前らの見送りに決まってんだろ」

「え?でも、なんでこんなに沢山?」


この街では数えられる程度の者としか関わってない筈だが、そこには100近くの獣人が居た。


「この者たちはお前さんが出発すると聞いて、自主的に集まった者たちだ」


人だかりから、ブルホンが声を掛けて来た。その声を切っ掛けに、人だかりから色々な声が上がって来た。


『おう!俺たちの街を救った英雄だ!見送って当然だ!』『俺の母ちゃん、コロハさんに助けて貰ったんだ!本当にありがとう!』『俺はエレア姉さんの魔法で助けて貰った!』『私もフーカお姉様みたいに強い女性になります!』『ミツルさんみたいな冒険者に絶対なるっす!』『シンティラちゃんかわいいよ~』『ケイトさんみたいな魔法使いに絶対なります!』『エレア姉さん!元気で!』『この街だけじゃねぇ!この国の英雄だ!』


集まった者からは俺たちに寄せらる声がドンドン飛んで来て、俺は驚きと戸惑いに固まっていた。

なんか変なのも混ざっているが、そこは気にしないでおこう・・・シンティラに手を出したら容赦はしないが。

荷台に居る面々も恥ずかしさを感じているのか、みんなで困った様な笑みを浮かべていた。


「皆お前さん達に感謝しておる。ミツル、お前さんはこの街の英雄だ。世界から恐れられた存在だが、その力は間違いなくこの街を救った。だから、お前さん達の旅立ちを見送りに来たのだ」


その光景を見ていると、少し胸が熱くなって来てしまった。

ハッキリ言って見た事も無い顔も居るが、それでも俺たちの旅立ちに涙を目に浮かばせて笑顔で手を振ってくれていた。それだけで、俺も少し胸と目頭が熱くなって来てしまった。


「ミツル様!皆さん!」

「アイリ」


呼ばれた声に目を向けると、涙を流したアイリが居た。

アイリの声に再度全員が顔を出した。


「ミツル様には命を救って頂き、そして特訓もして頂いて強くして下さり、本当に感謝しきれません!コロハさんとフーカさんも!特訓に付き合って頂き、本当にありがとうございました!」

「アイリさん、こちらこそお世話になりました」

「わたくしは何もしてませんわ。強くなったのは、アイリさんが頑張ったおかげですわ。これからも頑張って下さいね」


アイリからの感謝と別れの言葉に、コロハとフーカが寂しそうな笑みを浮かべながらも別れの言葉を送っていた。


「俺がアイリを助ける事が出来たのは運が良かったからだし、特訓もフーカが言った様にアイリが頑張ったから強くなれた」

「それでも、助けて頂いた事には変わりありません!本当にありがとうございます!」

「俺からも礼を言うぜ、本当にありがとう」


勢いよく頭を下げて来たアイリに続いて、なぜかギコが礼を言ってきた。


「ん?なんでギコさんが?」

「お前らのお蔭で俺も少しは強くなった。それにお前がアイリを助けなければ、俺とアイリが出会う事は無かった」

「まあ、そうだろうけど・・・・・あぁ~」


ギコの言葉を聞いてもよくわからなかったが、ギコとアイリが手を繋いでいる様子を見て、すぐに納得した。

繋いだ手は指を絡ませた状態、所謂『恋人繋ぎ』という奴だった。


「そういう事ですか。まぁ、よかったと言っておきますよ」

「本当にありがとうな」

「どういたしまして・・・でいいのかな?」


改めてギコから言われた言葉に、俺は気恥ずかしさが混じった苦笑いを返す事しか出来なかったが、それに対してギコも恥ずかしさを誤魔化すような笑みを返して来た。


「なにかあったら手紙でも寄越してくれ。俺じゃあ、ミツルにとって大した力にもなれないだろうが、それでも助けに駆け付けるぜ」

「わたしも!ミツル様の為ならば、すぐに駆け付けます!」

「ありがとう。そうじゃなくても、手紙は出しますよ」

「さぁ!あまり長く話してもしょうがねぇ!元気でな!」


ちょっとしんみりしてしまったのに耐え切れなくなったのか、ギコが大きな声で最後の言葉を言ってきた。

俺はギコへのお礼と集まった者たちに向かって、大きな声で別れの言葉を贈る事にした。


「あぁ!ありがとう!この街はいい街だ!俺たちは旅立つが!また来た時はよろしく!」

「さぁ!英雄の旅立ちだ!道を開けろ!」


俺が挨拶を終えると、ブルホンが声を張り上げて人だかりを真っ二つに割った。

なんだか物語の中で出て来る勇者の旅立ちの様になっていた。そんな盛大な見送りで出来た道を俺達は進み、全員で手を振りながら街に別れを告げた。




街を出てから4日が経ち、順調に王都への道のりを進んでいた。

たまにゴブリンやカードックという体長2mほどの犬などに襲われる事もあったが、何の問題も無く対処して進む事が出来ていた。

それどころか、結構対処に余裕があったので、それぞれ単独で交代して戦闘を行っていた。

そうやって個々の戦闘力を確かめてみたが、やはり一番心配なのはコロハだった。


コロハの戦い方の基本は、2剣を使って行う近接戦闘だ。

土魔法(サト・マギカ)も徐々に使える様なって来たが、戦闘に組み込むのはまだまだ先になりそうだった。


俺とコロハが使っている土魔法は、ファンタジー小説やアニメで見るような使い勝手のいいモノではないと言うのも組み込む難易度を上げている一つの原因でもある。


この世界の魔法は質量保存の法則が原則となっている。あくまで原則なので、召喚魔法や闇魔法などの例外も中には存在するが、水・火・風・土・電気・治癒の魔法は全て物理学・化学・生物学の基本から発動している。

つまり何が言いたいかというと、何も無いところから土は生み出せないという事だ。

さらに地面には土があるが、『土』と一言に言っても『土』という物質がある訳ではないので、『土』に含まれている多数の物質を認識して操作する必要がある。同時に複数の事をするというのは中々に集中力を使うのだ。

そういった操作を戦闘しながらなので、非常に難易度が高い。


そういった所からなるべくコロハに、土魔法を使った対多数戦の練習をして貰いながら進んでいた。




「今日はここら辺で休みましょうか」


少し開けたところを見つけたので、後ろから付いて来ているカームたちに声を掛けて竜車を止めた。


「じゃあ俺と鵺は何か獲物を探してくるから、みんなはテントの準備をしておいてくれ」

「わかりましたわ」

「コロハはテントが立ったら、ちゃんと休めよ」

「はい」

「鵺は空から何か居ないか探してくれ」

「はーい!」


他のメンバーに比べて戦闘が多かったコロハには休む様に伝え、それぞれに指示を出したあと、俺と鵺は夕飯の獲物を探す為に森へ入って行った。



「ご主じーん!あっちに牛みたいのが居ましたよ~!」

「よし!狩るぞ!」


しばらくすると空から獲物を探していた鵺が降りてきて報告して来た。

見失わないように探知魔法(ソナー)を使いながら、なるべく足音を立てないように、すばやくそちらの方へ向かって行った。


大分ロクだった頃の技術を取戻し、こういった狩りの際は暗殺術の走り方が非常に役に立っている。

木の葉や草が地面にあるところを、風で鳴る木々の音に合わせて移動して行くと黒い物体が見えて来た。


「お!居たな。鵺、2刀」

「はい!」


しばらく木々の間を抜けて行くと、大きな角を6本持った牛のような物が見えて来たので、鵺に言って2刀になってもらった。

最近は、みんなと模擬戦をする時以外で近接戦闘をする事が少なかったので、久しぶりに鵺を振るう事にした。


「フッ!」

ガキン!

「硬って!」


不意打ちを狙って首を叩き切ろうとしたが、直前で気付かれてしまい、角で防御されてしまった。


「これなら、どうだ!」


今度は疾風刃(ガレ・ラミナ)を纏わせて角に切り掛かると、今度は綺麗に切り落とす事が出来た。


「ブオァァァ!」

「あ、この野郎!逃げるな!」


角を切られた牛は命の危険を感じたのか、その大きな体に似合わない機敏な動きで森の中へと逃げて行った。

こっちとしても保存していた肉が少なくなっていたので、勿論逃がすつもりは勿論無い。

加速魔法(アクセラート)全開で追いかける事にした。


しばらく追い掛けていると、滝が流れて居るところに追い詰める事が出来た。


「これで最後だ!」

「ブオァァァ!」


すばやく脇を通り過ぎ、すれ違いざまに太刀に変えていた鵺を牛の心臓に突き刺して倒した。


「意外とすばしっこかったな」

「でも、それに付いて行くご主人も相当早いですよ」


俺の呟いた感想に鵺が楽しそうに言って来た。


「さて。肉も手に入ったし、戻ろうか」

「そうですね。僕、もうお腹空きましたよ~」

「お前はいつも空いているだろ」

「そんな事ありませんよ~。僕は腹ペコキャラじゃありません!」

「はいはい・・・ん?」


鵺といつものようにやり取りをしながら、加速魔法(アクセラート)を掛けながら牛を持ち上げて帰ろうとした時だった。俺の目に、地面に落ちている濃紺のカバンが映った。


「なんでこんな物がここに?」


こんな山奥にカバンが落ちているのも不思議ではあるが、誰かが襲われてここまで逃げてきた可能性もある。

しかし俺がこのカバンに驚いているのは、そういった色々な状況を考えた上で驚いていた。


(どうして、こんな物がここに?そもそも、このカバンがこの世界に有る筈がない。いや、可能性が無い訳でもないが、それでもこんなところでこれを見つけるなんて・・・)

「ご主人、なんですか?それ」


俺から戸惑いながらそのカバンを持ち上げると、鵺が俺の肩に止まって聞いて来た。

俺の持っていたカバンは濃紺の化学繊維で出来たカバンで、そこには可愛らしいアクセサリーが付いていた。

この世界に存在しない物。


「これは・・・学生鞄だ」


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