はい、こちらモンスター取締局 #1
アメリカのニューヨークに本部を置くモンスター取締局は、その名の通り町で暴れるモンスター達を御用にする警察署だ。
「おい、カレン。ドーナツにマスタードとケチャップをかけて食べるのはやめろ。全国の良い子に浸透させる気か」
カレンと呼ばれた男は黒人のデブだ。何の特徴も無く、たんに食べるのが好きでブクブクと太った野郎。無論、取り柄も無く刑事でなければギャングになっていただろう。
「黙れジョセフ。俺がドーナツにマスタードケチャップをかけて食べるの大好きだって知ってるだろ。もしかして、ワザと言ってるのか」
対してジョセフと呼ばれた男は白人で筋肉質のナイスガイである。同じ刑事であっても、ジョセフは女にチヤホヤされるが、肉団子のカレンはデブ専の親父に転がされるだけだ。
「うるせーな。お前の頭に鉛玉をくれてやろうか」
「おうおう、やってみな。その時はケチャップの血を大量に吹いてやるぜ」
「二人共、事件だ」
喧嘩をしている二人に話しかけてきたのは、中年の小柄な署長だ。カレンとジョセフの上司である。
「なんですか署長。俺達喧嘩で忙しいのですが」
めんどくさそうに白人のジョセフが問いかける。
「子供のお遊びはそこまでだ。マンハッタンのハーレムでモンスターの目撃情報だ。至急、現場に急行せよ」
「ウェスト・ハーレムにモンスターですか?」
「そうだ」
「どんなモンスターで?」
「見た目は馬と牛を合成させた化け物だそうだ」
署長は冷静に言っている。
「なんだかしらねーが、要するにイカレた野郎って事でしょう?」
ジョセフがやる気のない返答をした。
「要約するとそうだな」
「よし、それじゃあ俺達に任せてください。一瞬で終わらせてやりますから」
「頼んだぞ」
署長の眼光が光る。
「おい、カレン。せっかくのお食事タイムを邪魔して悪いが、事件発生だぜ」
そう言いながら、ドーナツを取り上げた。
「分かっているよ。でも、もう一口だけ」
「仕事が終わってからにしろ」
「ホットドックが冷え切るって」
署長とジョセフが話している間に、カレンは自販機でホットドックを買っていたのだ。
「バカ野郎が。こんな物食ってる暇ねーだろ」
二人は言い争いをしながらパトカーに乗り、サイレンを鳴らして現場に向かった。現場はウエスト・ハーレムの住宅街。情報によると、婆さんが警察に連絡してきたそうで、二人はまず婆さんの自宅に向かった。
「すいませーん。警察ですが」
扉をノックすると、眼鏡を掛けて腰の低い婆さんが現れた。そして、二人はそろって警察手帳を見せた。
「はいはい。やっと来たのかね」
婆さんの警戒を解かせた事を確認して、二人は懐に警察手帳をしまう。
「この辺りでモンスターが暴れていると連絡があって来たのですが」
最初に人と話すのはジョセフと決まっている。彼のルックスの良さは何かと便利で、人当りも良かった。
「この辺りじゃないよ。家の庭だよ。なんとかしてくれんか」
婆さんがそう言うと、玄関から飛び出して二人を庭に案内した。庭は孫が使っているのであろうバスケットに使うゴールと車庫が置かれていた。一面芝生であり、結構な広さである。
そんな庭の中央でモンスターは寝ていた。確かに牛と馬が合体したような見た目である。顔には螺旋状の角があり、体は真ん丸と太った牛そのもの。
「おいおい、あいつは」
ジョセフは目を細める。
「知ってるのか?」
「ボナコンだよ。ボナコン。主にヨーロッパで目撃されるモンスター。噂じゃ伝説のリヴァイアサンと交尾したってよ」
「マジかよ。お前に似て色男じゃん」
そんな話をしていると、ボナコンが二人に気が付いたのか、モゾモゾと起き上がって二人を睨みつけている。
「グオオオ!」
そして、ボナコンは雄たけびと共に糞を撒き散らし始めた。ボナコンの糞は炎を帯びており、花瓶や窓などの当たった場所から火災が発生する。
「婆ちゃん、火災保険に入ってるか?」
ボナコンの暴れっぷりを見ながら、カレンが聞いた。
「入ってないわよ。そんなことより早く退治しておくれ!」
婆さんは家が燃やされまいと必死になっている。
「ああ、公務執行妨害で逮捕してやるぜ」
ところが、三人の前に糞が飛んできた。カレンとジョセフは婆さんを抱えて跳躍し、糞の攻撃を躱した。
「糞ったれ、逮捕は無理そうだな」
二人は地面に着地し、婆さんを避難させる。
「ということは、射殺するか」
「そうだな。奴も俺達を殺す気でいるし、現場判断で射殺しよう」
「だが、動物保護団体に訴えられるかも?」
「あのな。イカレたモンスターを保護されたら俺達の仕事は無くなるぜ」
ジョセフはホルスターから拳銃を取り出し、ボナコンの額に照準を合わせた。
「グオオオオ!」
さらに糞を飛ばすボナコンに、カレンはポケットからビスケットの袋を取り出し、糞に向かって投げた。ブーメランのように投げられたビスケット袋が糞と相殺され、火花が地面に散った。
「今だ相棒!」
「応よ」
ジョセフは弾丸を飛ばした。弾丸は一直線に進んで行き、ボナコンの額に真紅色の穴を開けた。
「イヤッハー!」
右手を上空に挙げた勝利を確信すると、ボナコンは音を立てて崩れ落ちた。
「アメリカの警官を舐めんじゃねーぞ!」
「ヨーロッパに帰りやがれ!」
二人はボナコンの死体に向かって悪口雑言の限りを尽くす。
「ありがとう、お二人さん」
一部始終を見ていた婆さんが、二人に礼を言った。
「いえいえ、礼には及びません」
「婆さん。死体はここに置いておくから、牛肉パーティを楽しみな」
二人は笑いながら、モンスター取締局に帰って行った。