表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

羊の短編集。

私だってやきもちくらい焼くわ。

作者: シュレディンガーの羊
掲載日:2012/09/13




「私、好きなのよ」


俯いたままにしおらしくそう言えば、


「へーそうなの。お気の毒様」


と素っ気ない返事が返る。

むっとして睨めば、相手は呆れたように肩を竦めた。


「無理だね無理無理」

「そんなに無理無理って言わないでよ! 彼は私に愛してるって言ってくれた!」


そう噛み付けば、ヨナガは形のいい目を細めた。

その視線に訳もなくたじろぐ。

それでも目だけは反らさずにいたら、ため息がが零された。


「そんなの本気でないに決まってる。馬鹿だな、アサシロ」

「私のどこが馬鹿なのよ、ヨナガ」

「その考え方も、気持ちもさ。優しいからって本気で愛されてると思う底の浅さ、本当に辟易する」

「な、あんたね!」


文句を口にする前に、ヨナガはひょいとベンチから下りた。

それから、私を振り返るとふん、と鼻で笑う。


「そのうちに嫌ってほどわかるさ」

「ヨナガーっ!!」

「今のその顔見たら、一発で嫌われるんじゃないのか」


その余裕ある顔に爪をたててやろうかと思った。

でも、どうせ簡単にかわされてしまうから、思うだけで実践したことなんて一度もないけれど。

だから、私は公園から悠々と出ていくヨナガの後ろ姿を、恨めしく見送ることしかできなかった。




でも、いい。

私には大好き彼がいるから。

それだけで十分。




玄関に彼の靴と、知らない赤のハイヒールがあった。

少しだけ、嫌な予感。

その予感はリビングに行くと的中した。

彼と楽しそうに肩を並べて話す一人の女。

それは誰、と思わず体が固まる。

呆然とリビングの入口にいる私に気づいた彼が笑顔を見せた。


「おかえり、アサシロ」


いつもと変わらないその笑顔に返事ができなかった。

頭の中がぐちゃぐちゃで、嵐が来たみたいに心が掻き乱れる。

どうして、どうして、どうして、ここにそんな女がいるの。

女も私に気づいて、目を瞬く。


「え、マサシ。この子は?」

「アサシロ。可愛いだろ?」

「へぇ、はじめまして。アサシロちゃん」


可愛いね――女が近づいてきて、私の頭に手を伸ばしてくる。

はっとして避け、睨みつけた。

女はちょっと困ったように、彼を振り返る。

彼は苦笑して、私を示した。


「こいつ、すぐにやきもち焼くんだ。それに極度の人見知り」

「でも、なら尚更に仲良くしなきゃ」


女が私にこれ以上ないくらいの笑みを向ける。

私はなぜか次の言葉を聞きたくないと思った。

そして、女が私の瞳を覗き込んで手を差し出す。


「わたし、マサシの彼女なの。よろしくね」


私の中で何かが弾けた。




「馬鹿、だから言ったのさ」


ヨナガが言った。

公園のベンチの上で私は丸くなっていた。


「マサシ、彼女がいるなんて一言も言わなかった……。私のこと好きってあんなに言ってくれたのに」

「で、飛び出してきたわけ?」


その女の手を引っかいて――心底馬鹿にしたような口調に私はぽつりと呟く。


「引っかくつもりはなかったのよ。あの時はパニックだったの」

「俺は忠告したけどさ。本気で好きなんて言うもんか」

「きっと好きの意味が違ったんだわ」

「……だろうね」


ふて腐れたようなヨナガに私は力無く体を起こす。


「ヨナガも同じ目にあったのよね」

「知らないさ。……アサシロ」

「え?」


ヨナガが投げた視線を追えば彼がいて、その隣に彼女もいて。

私は微かに戸惑う。

それでも、


「あの女、悪い奴ではなさそうだね」

「たぶんいい人よ」


私はベンチからひょいと下りるとヨナガを振り返る。


「ヨナガ、ありがとう」

「……いいから早く行けば」

「うん」


私はひとつ頷くと、彼の元へ、いや彼と彼女の元へ駆けていった。




「ごめんな。手、痛いだろ?」

「ううん。私がアサシロちゃん困らせたから悪いのよ」

「アサシロも反省してると思うから、許してやってくれ」

「もちろん」

「アサシロのこと嫌いに、なったか?」

「そんなまさか、嫌いになるなんて」


彼女は大袈裟なほどに首を振って否定する。

アサシロは背の高い彼女を見上げた。

彼女もアサシロを見たので目が合う。

彼女は笑った。

笑って言った。


「私、子猫って大好きなのよ?」







友人よりお題。

騙された―!な恋愛話。

騙されていただけたでしょうか?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の一文まで騙されたままでした。 子猫ちゃんのヤキモチ可愛いですね!
2017/09/01 14:42 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ