私だってやきもちくらい焼くわ。
「私、好きなのよ」
俯いたままにしおらしくそう言えば、
「へーそうなの。お気の毒様」
と素っ気ない返事が返る。
むっとして睨めば、相手は呆れたように肩を竦めた。
「無理だね無理無理」
「そんなに無理無理って言わないでよ! 彼は私に愛してるって言ってくれた!」
そう噛み付けば、ヨナガは形のいい目を細めた。
その視線に訳もなくたじろぐ。
それでも目だけは反らさずにいたら、ため息がが零された。
「そんなの本気でないに決まってる。馬鹿だな、アサシロ」
「私のどこが馬鹿なのよ、ヨナガ」
「その考え方も、気持ちもさ。優しいからって本気で愛されてると思う底の浅さ、本当に辟易する」
「な、あんたね!」
文句を口にする前に、ヨナガはひょいとベンチから下りた。
それから、私を振り返るとふん、と鼻で笑う。
「そのうちに嫌ってほどわかるさ」
「ヨナガーっ!!」
「今のその顔見たら、一発で嫌われるんじゃないのか」
その余裕ある顔に爪をたててやろうかと思った。
でも、どうせ簡単にかわされてしまうから、思うだけで実践したことなんて一度もないけれど。
だから、私は公園から悠々と出ていくヨナガの後ろ姿を、恨めしく見送ることしかできなかった。
でも、いい。
私には大好き彼がいるから。
それだけで十分。
玄関に彼の靴と、知らない赤のハイヒールがあった。
少しだけ、嫌な予感。
その予感はリビングに行くと的中した。
彼と楽しそうに肩を並べて話す一人の女。
それは誰、と思わず体が固まる。
呆然とリビングの入口にいる私に気づいた彼が笑顔を見せた。
「おかえり、アサシロ」
いつもと変わらないその笑顔に返事ができなかった。
頭の中がぐちゃぐちゃで、嵐が来たみたいに心が掻き乱れる。
どうして、どうして、どうして、ここにそんな女がいるの。
女も私に気づいて、目を瞬く。
「え、マサシ。この子は?」
「アサシロ。可愛いだろ?」
「へぇ、はじめまして。アサシロちゃん」
可愛いね――女が近づいてきて、私の頭に手を伸ばしてくる。
はっとして避け、睨みつけた。
女はちょっと困ったように、彼を振り返る。
彼は苦笑して、私を示した。
「こいつ、すぐにやきもち焼くんだ。それに極度の人見知り」
「でも、なら尚更に仲良くしなきゃ」
女が私にこれ以上ないくらいの笑みを向ける。
私はなぜか次の言葉を聞きたくないと思った。
そして、女が私の瞳を覗き込んで手を差し出す。
「わたし、マサシの彼女なの。よろしくね」
私の中で何かが弾けた。
「馬鹿、だから言ったのさ」
ヨナガが言った。
公園のベンチの上で私は丸くなっていた。
「マサシ、彼女がいるなんて一言も言わなかった……。私のこと好きってあんなに言ってくれたのに」
「で、飛び出してきたわけ?」
その女の手を引っかいて――心底馬鹿にしたような口調に私はぽつりと呟く。
「引っかくつもりはなかったのよ。あの時はパニックだったの」
「俺は忠告したけどさ。本気で好きなんて言うもんか」
「きっと好きの意味が違ったんだわ」
「……だろうね」
ふて腐れたようなヨナガに私は力無く体を起こす。
「ヨナガも同じ目にあったのよね」
「知らないさ。……アサシロ」
「え?」
ヨナガが投げた視線を追えば彼がいて、その隣に彼女もいて。
私は微かに戸惑う。
それでも、
「あの女、悪い奴ではなさそうだね」
「たぶんいい人よ」
私はベンチからひょいと下りるとヨナガを振り返る。
「ヨナガ、ありがとう」
「……いいから早く行けば」
「うん」
私はひとつ頷くと、彼の元へ、いや彼と彼女の元へ駆けていった。
「ごめんな。手、痛いだろ?」
「ううん。私がアサシロちゃん困らせたから悪いのよ」
「アサシロも反省してると思うから、許してやってくれ」
「もちろん」
「アサシロのこと嫌いに、なったか?」
「そんなまさか、嫌いになるなんて」
彼女は大袈裟なほどに首を振って否定する。
アサシロは背の高い彼女を見上げた。
彼女もアサシロを見たので目が合う。
彼女は笑った。
笑って言った。
「私、子猫って大好きなのよ?」
友人よりお題。
騙された―!な恋愛話。
騙されていただけたでしょうか?