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2―2 にゅーふぇいす

 ゴールデンウィーク一日前の一限目の授業は……体育。体育は比較的楽な授業だが、一限目となれば話は別だ。朝に超弱い俺がしょっぱなの授業から体を動かすということはサハラ砂漠のど真ん中でキムチ鍋を食べるぐらいつらいことだ。苦行なんての勘弁。この時間割について俺は教育委員会に訴えたいと思っている。どうかな?

「なにくだらないこと言ってんのよ」

 体育着姿の葉月が言ってきた。俺が教室に入ったときは葉月は既に体育着姿で、いつでも戦闘態勢OKみたいな状態だった。いつも葉月は俺たちより早く来ているが、はたしてコイツはどれぐらい早く家を出ているんだろうか。

「ところで葉月。お前の体育着のサイズおかしくないか?」

 葉月が着ている半袖のシャツが不自然にデカい。シャツがふともも辺りまで延びていて短パンが大分隠れている。変な奴が見たら興奮しそうだな。

「一着だけ大きめの買っといたのよ。いつ背が伸びるかなんてわからないもんね」

「大きくなってから着ればいいだろ」

「他の体育着は洗濯中なのよ。今はこれしかないから、しょうがなく着てるの」

 事情はわかった。だが、今からその体育着のサイズに合うスタイルになるのは、人智を超えた突然変異でもしない限り無理な話だ。あと何センチ身長伸ばす気だよ。それと何故このくそ寒い中お前はジャージを着ないんだ。

「気合の入れ方が違うのよ。ほら、あんたもしっかりしなさいよ」

 そんな精神論じゃ、今時の小学生でも通用しないぞ。

「俺は朝に弱いんだよ」

「そんなの体動かせばいいことでしょ」

「そうだぜ。仁井哉」

 いきなり俺の机に座ってきたのは斉藤。しかも体育着姿で。いつ着替えたんだよ。

「体を動かせ、そうすればいつのまにか体がポカポカだ」

 帰宅部の癖に体育会系の発言をするな。

「わかったから、どけ」

 俺は斉藤の背中をぺちぺち叩き机の上から退かした。

「で、今日の体育はなにすんだ?」

「今日はな、ソ――」

「今日はソフトボールよ!」

 斉藤の言葉を掻き消し、葉月が言ってきた。

 基本的にウチの学校の体育は2クラス同時進行でやる。なのでウチのクラスの場合は一組と一緒にやることになる。そして男女混合だ。ついこの前までの体育はスポーツテストというものをやっていた。握力、持久力、腹筋、50メートル走、etc、など、無駄に細かく計測され、A+〜E−形式の評価で判定される。やる気のない俺は全部テキトーにやっていたら、ものの見事、判定はE−。文句のつけようのない最低ランクだ。忌々しいことに斉藤はB+の判定だった。なにより俺を除く生徒を驚かせたのは……葉月の判定がA+だったっていうことだ。俺はなんとなく予想できてたが、それでもちょっとは驚いた。ちなみに男子の平均はB、女子の平均はD+。高校創立して女子でこの評価をもらった人は葉月が初めてらしい。このスポーツテストで葉月の名前は学校中に一人歩きするようになった。葉月の名を知らない奴が、この学校にいるとしたら、そいつは不登校の奴らぐらいだ。音楽推薦とスポーツ推薦を間違えたんじゃないのかと疑うね。

 そして俺の身内もう一人。未梨だが……。

 ………

 ……

 …



 スポーツテストの日。

 俺は予め未梨に言っておいたことがある。

「いいか、絶対目立つなよ。50メートル走は9秒台で走れ」

「うん」

「間違っても握力100とかは出すなよ。せいぜい30までだ」

「うん」

「おーけー?」

「うん」



 …

 ……

 ………

 というわけで未梨のスポーツテストの判定はC−。伏線と言えば聞こえがいいだろう。




 まぁ、ソフトボールで良かった。マラソンとかの走る系統の種目だったら今頃俺は教室で睡眠授業を受けていたことだろう。担当教師なし、単位0、授業参加人数0〜2人の。今頃だって誰かは寝ているんじゃないか?

 そんなわけで今現在は斉藤と仲良く?キャッチボール中だ。斉藤は投げるたびに「うおりゃ」とか「喰らえ」とか「スカイフォーク」とか、漫画オタクを疑うような発言をしている。しかもボールがよく俺の頭上を越える。いわゆる暴投だ。その度に俺は走らされることになる。これではあんまりマラソンと変わらないような気もするが、考えると憂鬱になるのでなにも考えないことにした。

 一方、しょぼくれた俺たちの隣でバシバシとグローブの芯に上手く入いらないと鳴らない音を立てながらキャッチボールをしている奴らがいる。周りの奴らもちらちらとそいつらを見ている。言うまでもなく一人目は葉月だ。

「えいやぁ!」

 コイツはいちいち投げるたび気合入れる派か。

 葉月は腰の回転力を限界まで使う、トルネード投法で『相方』に向かってものすんごい球を投げている。

 しかし葉月の常人では考えられない身体能力の良さはこの一ヶ月で知れ渡っているはずなので今更誰も驚かないはずだ。なら何故葉月たちが注目を浴びているのか? 答えは簡単だ。

「……」

 葉月の『相方』が『未梨』だからだ。今まで目立ったところがなかった未梨が、葉月の140キロ(推定)のボールをいつもの無表情でなんなく捌いている。これには担任もとい体育教師永田も驚いている。しかし投げ返すときは葉月にギリギリ届くか届かないぐらいのふにゃーんとしたボールで返している。そこが返って眼鏡っ娘好きの心をくすぐるのかもしれない。

 葉月は別に未梨の捕球センスには驚いてはなさそうだ。バカだからな、捕れて当たり前、とか思っているんじゃないのか?

「もっと強く投げていいわよ!」

 葉月の言動に未梨は投げるモーションを中断して、なぜか俺の方を見てきた。

「……」

 無言メッセージ。これは俺にしかわからない未梨語。わかってしまう自分が哀しい。つまり、未梨の言いたいことは「強く投げていいの?」だ。

「今の力配分で充分だ」

 俺はぼそぼそと真横にいる未梨に聞こえるように言った。ゆっくり頷いた未梨は、葉月に向かい、

「これが限界」と、言った。

 キャッチボールをしばらくしていると、ウチの永田が集合をかけてきた。まだ四月末だというのに、夏を疑わせるタンクトップに短パンと、見ているこっちが寒くなってきそうなコーディネートだ。

「男子は大体いいんだが、女子があんまりできていないな」

 一応言っておくが、キャッチボールの話だからな。

「というわけでテキトーに男女ペアでやってくれ」

 難しい要求をあっさり言ってくれるな。こういうのは教師が決めるべきだ。そうじゃないと俺の身が持ちそうにないからな。

 こんなときに俺が組む相手といったら、かなり絞り込まれる。葉月、未梨………これ以上思い浮かばん。これは明らかな女子メンバー不足じゃないのか?

「仁井哉! アタシとキャッチボールするわよ!」

 今日の葉月は当比社50%増しでテンションが高い。ただでさえ殺人的なボールなのに、いつもの5割増しの葉月の球を受け止めてみろ。1球ごとに俺の手にはアザが刻まれることだろう。授業終了後の俺は119に電話を掛けてるに違いないね。未梨は未梨で無表情でこちらを凝視している。あれは「俺と一緒にキャッチボールをしたい」という未梨の精一杯の意思表示だ。多分。

「瀬尾は椿とそのまま続けてくれ! お前らはなにも問題ないからな!」

 まさにそれは永田神の救いの言葉だった。

 永田さん。俺の中ではあなたのかっこよさは今キムタクを越えましたよ。

「残念だなぁ」

 と、残念そうなそぶりをしてみる。

「……まぁいいわ。また今度しましょ」

 残念だな。葉月。今度なんてものは二度と来ない、いや、来させない。と言ったものの相棒候補の二人が消えてしまったな。さて、どうしようか。テキトーに顔のわかるクラスメイトを誘うのが妥当なところだろうか。

 右、前、左、と見渡すと、男女を問わず、まだかなりの人数が余っていたが、斉藤はきっちりパートナーを見つけていた。さすが自称ナンパ師と言うだけのことはある。俺はもう一回周囲を見渡すと、すぐ隣の女子と眼が会った。確か……斉藤にプロフィールを教えてもらった女子だな、名前は知らんけど。女子は顔を軽く赤らめて視線を反らされた。その仕草がなんとも言えぬ可愛さがあった。

 この娘でいいか……。 そう思い、声を掛けようとしたとき、

「仁井哉さん。ウチと組まないかいっ?」

 と、テンションの高い声を発しながら、見覚えのない女子がどこからともなく湧き出てきた。少なくともクラスメイトではないことは確かだ。セミロングの髪に垂れめがちな眼。こんなに可愛い娘をクラスで見逃すわけがない。俺の名前を名前を呼んだ、ってことは少なくともあっちは俺のことを知っているってことだよな?

「だめかいっ?」

 ぐぐーっと彼女の顔が急接近してきた。だめもなにも……断る気などさらさらない。というわけで、すまんな、俺が誘おうとした女子。

「いや……いいよ」

「ありがとっさんっ!」

 更に彼女の顔が近づいてきたので、俺は少しのけ反るような体勢になった。それに気付いたのか、彼女はすぐさま俺との距離を5メートルほど開けてくれた。

「仁井哉さん。ボールは持ってるん?」

「あぁ」

「じゃっ、ウチのはいらないね!」

 いちいちテンションの高い人だ。葉月とは別の意味で。

「ばっちこーい!」

 と、さりげなく急かしているので、俺は彼女に向かって限りなく捕りやすいスピード、コースに投げた。ボールはふわふわと上空を舞っている。彼女は上空にあるボールを見つめているだけで直立不動状態だ。上にグローブを構えていれば捕れるというのにも関わらず……彼女はグローブをしている左手を構えずに、なにも身につけていない右手を天に翳している。

 まさか素手で捕るつもりじゃないよな?

 彼女はまるで動く気配がなくただ右手を天に翳していた。俺によって投げだされたボールは位置エネルギーを運動エネルギーに変換しつつスピードをつけて彼女の頭上に向かって一直線に落ちる。彼女は肝心なグローブを装着している左手を背後に回している。

「なにっや――」

 ってんだよ、と言うところだった。

 ボールはきっちりと彼女のグローブに納まっている。

 ボールが彼女の右手に当たる瞬間、彼女一歩前進し、あらかじめ背後に回しておいた左手でボールをキャッチした。簡単に言えば背面キャッチ。この人も葉月や未梨と同じ扱いでいいんじゃないのか?

「びびったかいっ?」

 男を魅了する小悪魔のような顔で言ってきた。

 正直なところ俺は少し魅了された。

「少しな」

「少しかぁ。ざんねんっ!」

 なにが残念なのだろうか。

「いっくよー!」

 アンダスローか、と思わせといて、彼女は腕は一回転させて投げてきた。

 ソフトボール投げ?

 彼女の手先から離れたボールは葉月ほどまで、とはいかないが、予想以上に速い。だが見えないことはないスピードだ。

 ぱすん。

 小気味よい音を起てて俺のグローブ内に納まった。

「おぉ。さすが仁井哉さん。運動神経いいねっ」

「それほどじゃない」

 キャッチボールをしながら俺は、彼女が誰なのかということを必死に模索していた。全然わからん。

「ところで仁井哉さん。ウチのこと覚えてるん?」

「すまん。わからん」

「やっぱりかぁ。ウチは一日たりとも仁井哉さんのこと忘れたことないのになぁー」

 忘れられないぐらい俺はすごいことをやったのか?

「ウチも仁井哉さんと一緒の青中出身なのになぁ」

 青中出身……? 彼女を見ながら中学三年間の記憶を検索する。該当するデータ0件。

「名前は?」

龍円寺りゅうえんじうららでっすっ!」

 龍円寺うらら?

「偽名?」

「失礼ですな。本名だよん」

 龍円寺うらら……まるでどこかのお嬢様みたいの名前だな。名前だけでも聞いたら三年は忘れそうにないぐらい特徴的だな。しかも可愛いし、忘れる要素がない。

「まったく思いだせん」

「うん。だってウチ、仁井哉さんに自己紹介した覚えないもんもんっ」

 じゃあ、わかるわけないだろ。

「龍円寺さんはなんで俺のことを知っているんだ?」

 同級生なのに「さん」付けしてをしてしまった。

「なんていったってぇ……ウチは仁井哉さんにLOVEだからっ!!」

「なんだってぇ!」

 何故か俺より早く斉藤が反応した。

 ……そんな大声で宣言する必要ないだろ。もっとさ、こういうもんは放課後の二人きりの教室とかで言うもんじゃないのか? ていうかみんなの視線が痛い。

 俺は俺で動揺しまくりだ。一分間の心迫数は90回を突破してるだろう。

「ごめんごめん。冗談だよんっ!」

「なんだ。冗談か」

 おい、斉藤。それは俺の台詞だ。

「びびったかいっ?」

「かなり」

「かなりぃー。入りましたっ!」

 こんなテンションの高い人なら忘れそうになさそうだけど。

「まだウチのことわからないん?」

「あぁ」

「ひどいですなぁ。ウチと交わったあの夜の約束覚えてないん?」

「あ、あの夜の約束!?」

 またしても斉藤が反応したが、斉藤以外の住人は既に反応していない。

 この人は自分でそんなこと言って恥ずかしくないのだろうか。逆セクハラ?

「そんな約束は誰ともしとらん」

「またまたぁ。仁井哉さんも隅に置けないなぁ」

 龍円寺さんのテンションは急成長を遂げた右肩上がりの会社の売り上げぐらい上昇し続け、衰える気配がない。

 俺は本当に龍円寺さんと会ったことがあるのだろうか? ここまで元気な人だったら夢にまで出てきそうなもんだがな。もしかして、3年もの間、ずっと俺に片思いとか? いや、ねえな。別に部活やってたわけでもないし、体育祭などのイベント行事だって、やる気のない一般生徒に過ぎなかったはずだ。はたして中学の女子何人が俺のことを覚えているもんか。30人いれば健闘したほうだろう。

「仁井哉さん! ボールボール!」

 考え込んでいたら、俺は手のひらにあるボールを見つめていた。

「悪い」

 サイドスローで龍円寺さんに投げ返した。

「いまエッチなこと考えてたのかなっ?」

「考えとらん」

「またまたぁ。仁井哉さんの顔がすんごいニヤけてたよん。ウチのこと見て興奮しちゃったっ?」

 第三者が聞いたら、勘違いしそうな言い方はやめてくれ。

「いい加減キミの正体教えてくれないか?」

「龍円寺うららでっすっ! うららちゃんって呼んでねっ」

「……真面目に」

「偽名じゃないよぉ」

「俺はいつ、龍円寺さんとあったことがある?」

「だからぁ、あの夜――」

「それはもういい」

「当ててくださいっ。当てたらほっぺにチューぐらいしてあげるよんっ」

 おいしい話だが、丁重に遠慮しとこう。まだ俺はブラックリストに載りたくないからな。

「わからん」

「しょうがないなぁ。じゃあヒント1! いぇーい! ぱちぱち!」

 1って言うんだから2、3もあるのだろうか?

 龍円寺さんは「ふふーん♪」と鼻歌でリズムを取りながら左手に装着中のグローブを外し、手首に付けてある髪留めゴムを取り外して、セミロングの髪を後頭部にまとめあげた。

「どう? 似合う? 似合う?」

 そう言って出来上がった髪形は、ポニーテール。

 くそ似合っていると思うが、それがなんのヒントになるのだろうか。

「これがウチの中学時代の髪型だよっ」

 ポニーテールなんて髪型は結構いるもんだろ。ヒントにならん。

「ヒント2は?」

「ヒント2いっちゃうの? そしたらほっぺにチューがおでこにチューになっちゃうよん?」

 むしろレベル上がっていないか?

「ウチはみりりんの親友だよっ」

「みりりんって誰だ?」

「みりっちだよぉ」

「誰?」

「仁井哉さんにぶにぶぅ。椿未梨ちゃんだよぉ」

「未梨の? 親友?」

「いえーす、いえーす!」

 未梨の親友……? 中学三年間でアイツが俺以外と会話していたのは………。

 ………

 ……

 …



 中学時代、と言ってもまだ卒業してから半年も経っていないけどな。

 未梨とクラスが一緒だったのは3年のみ。それ以外は違う。

 3年の時、昼休みになると必ずウチのクラスに来る女子がいた。その女子は妙に高いテンションで未梨と一緒に昼メシを食べていた。未梨も満更でもない様子で(といっても無表情だが)楽しそうにお弁当を食べていた。

 その女子とは一回だけ話したことがある、ような気がする。

 そう、あれは……高校が決まってからの次の週のことだ。昼休みに荒木(*プロローグ2参考)とメシを食べていたとき、

「キミが仁井哉さんかいっ?」

 突然、ポニーテール少女に話し掛けられた。

「そうだけど?」

 おでこが当たりそうなぐらい彼女の顔が近づいてきた。

「なに?」

「あ、気にしないでっ!」

 気になるって。

 なにかを観察するような目つきで俺はひたすら見られていた。超近距離で。彼女の息遣いが聞こえてくるどころが、息が俺の顔に当たるのがわかる。このままじゃ俺がどうにかなりそうだ。

「うんうん、合格だねっ」

 意味不明な言葉を残し、彼女はクラスを出て行った。

 この後に荒木に尋問されたことは言うまでもない。

 …

 ……

 ………



「……中3のとき俺に意味不明に『合格』って言った人か?」

「ふぁいなるあんさーかいっ?」

「ファイナ――」

「正解っ!」

 早いよ。

「仁井哉さんあいかわらずボケボケだねっ」

 あいかわらずと言われるほど会話をした覚えはないんだがな。

「ところで俺のなにが合格なんだ?」

「ひみちゅだよん」

「……秘密ね。そうかい」

「まっ! 以後お見知りをっ!」

「……あぁ。よろしく」

 そこで俺はあることに気がついた。

 とても強い視線を感じる。しかも殺気と悪意の両方を感じる。殺気がする方向に恐る恐る振向いてみた。

 また、葉月か……。

「あれれ。瀬尾さんにすごい見られてるねぇ」

 見られてるなんて甘いレベルじゃない。あれは眼力で俺のことを殺す気だ。

「やっぱり仁井哉さんの競争率は高いですなぁ」

 いや、定員割れですよ。




「おーい。集合だ!」

 またしても永田に集合を掛けれらる。その時、俺はグラウンドの極めて端で龍円寺さんとキャッチボールをしていた。50メートルほど離れた場所には葉月がいて、ひたすら睨まれており、俺は普通にキャッチボールさえやらしてもらえなかった。

 だから俺は永田の集合に助けられた気がした。

「なんとなく女子もできるようになってきたな」

 校舎に付いている大時計は授業終了の時間を指していた。

「十分間休憩したら、次は試合するか」

 その言葉に俺は絶望した。言われて気付いたが、今日は一時限目と二時限目の連続体育というおぞましい日だった。くそ、この日程を造った奴は誰だ。

 というわけで、二時限目突入。

 試合をする、といっても所詮は授業でのソフトボールだ。たかだかレベルが知れている。

 チームの決め方は単純明快。永田お手製のクジで決めるのだ。クジにはAからDの4種類のアルファベットが書き込まれており、Aチーム、Bチーム、Cチーム、Dチームと分かれる。Aチーム対Bチーム、Cチーム対Dチーム。そんだけ。

 俺のクジにはA、と書いてあった。

「仁井哉、見せなさい」

 さっきまで俺にほんまもんのガンをつけていた葉月に容赦なくクジを奪い取られた。どうやら今は怒ってはなさそうだ。……ってなんで俺がコイツの顔色を伺わなくてはならないんだ。

「あれ、一緒じゃない」

 と、言う葉月はどこか、にやついて、

「アタシと同じチームになったからには敗北は許されないわよ」

 なにをたかが授業のソフトボールに気合を入れているんだ。そんなにやりたかったらソフト部にでも入部しろ。お前なら即レギュラーだろうよ。

 そんなことを思いつつ、俺はAチームの面子を見渡した。俺はクジにインチキにあったことを疑ったね。

「仁井哉と一緒かよ。足ひっぱんじゃねぇぞ」

 一人目。お調子野郎、斉藤。お前こそ足引っ張んじゃねえよ。

「わぉっ。仁井哉さんも一緒かいっ!」

 二人目、ムードメーカー、龍円寺さん。できればその元気を俺に分けてほしい。

「……」

 三人目。三点リーダーのエース、未梨。龍円寺さんに背中をポンポン叩かれてる。

「やぁ仁井哉くん。久しぶりだな」

 四人目。……誰だっけコイツ? どこかで見たことあるハンサム野郎だな。

「誰だ? お前?」

「僕を忘れたのか?」

「完璧に」

「僕はキミのことを一日たりとも忘れたことがない」

 そんなさわやかな笑顔で、男に言われたくない台詞ナンバー1を言うな。鳥肌が起ってくるだろ。俺にはソッチ系の趣味はない。他を当たってくれ。

「僕もソッチ系の趣味はないんですけど」

「嘘をつくな」

「ホントだ。キミは忘れているようだから、教えます」

 誰も教えてくれなど頼んでない。

「キミに初めて会ったのは……入学式の日の放課後」

 入学式の日のことは葉月に拉致られたことしか覚えがない。そういえばあの時は、葉月が葉月だということを知らなかったんだな。あれからもう一ヶ月か……早いもんだ。

「僕を無視するな!」

 無視するもなにも最初から聞く気などない。勝手に喋ってろ。

「えーっと。吉田だっけ?」

「田村だ! カスってもないじゃないか!」

 田村? あぁ、ナンパ野郎か。

「そうか。すまん」

 愚痴っている田村を無視して、五人目。なんとなくイタイ女、葉月。

「人数が少ないわね」

 6人目、俺。

 以上。補欠以前にメンバーが足りていない。

「ま、使えない奴がいるより、いないほうがいいわ」

 あいかわらず葉月は毒舌。お前の使える基準はなんなんだ?

 明らかなメンバー不足のため、緊急で担任永田が入ることになった。そんな永田は葉月ほどまでじゃないが、やる気に満ち溢れていて、

「やるからには勝つ気で行くんだ!」

 熱いですね。俺にはついていけませんよ。

 試合開始、の前に決めることがあった。ポジションと打順だ。

「アタシは三番、ショートで」

 意外にも地味なところを選んできたのは葉月。お前なら四番、ピッチャーとか言うかと思ったけどな。そこらへんを聞いてみると、

「ソフトボールのピッチャーって下投げでしょ? アタシには無理よ。それにピッチャーなら適任者がいるじゃない」

「適任者? 誰だ?」

「斉藤」

「斉藤?」

 まさに予想外の人物だった。

 永田を含む6人の目が斉藤に移動する。斉藤も「俺?」という顔だ。

「な、なんで俺なんだよ?」

「アンタの名前は斉藤でしょ?」

 あ、なるほど。「斉藤祐樹」、ね。本人とは字は違うけれど、口で言えば誰もわからん。

「斉藤。俺もお前でいいと思う」

「まさか……お前ら名前で決めてないか? 大体あれは野球だろ?」

「野球もソフトボールも大して変わんないわよ」

 あれ? さっきお前は下投げだから自分じゃできないとか言ってなかったか?

「打たれたらどうなるかわかってる? 殺すわよ?」

 という葉月の脅迫染みた一喝により、斉藤は6番、ピッチャーに決まった。

「ねぇ仁井哉。どこがいい?」

「どこでもいい」

 こうしてウチのチームのオーダーが決まったので紹介したいと思う。

 一番、キャッチャー、永田。二番、セカンド、龍円寺さん。三番、ショート、葉月。四番、サード、未梨。五番、ファースト、田村。六番、ピッチャー、斉藤。七番、外野全部、俺。

 いや、おい、こら、まて、この野郎、なんだこれは。



 勝てる気がしねえ。

続きますよ。


ここで重大発表ですが、なんと私は大学に合格してしまいました! 正直そんな重大じゃないですね(笑。

ということでまたしても余談をします(笑。キャラクターをつくるとき、私は「歌」を参考にして、そのキャラをつくっています。ホントどうでもいいですよね(笑

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