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2―1 ふらすとれーしょん

 入学してから軽く二週間ほどが過ぎた。その間なにも無かった、と、言えば嘘になるが、報告するほどの事件は無く俺は至って平和に暮らしていたのさ。架空請求もこなかったし、ヤクザさんに拉致られることもなかったし、ましてや首にナイフを当てられることもなかった。この二週間で葉月に振り回されるのも慣れてきたし、クラスにだってそこそこ溶け込めてきた。まさに順調と言う奴だ。しかし二週間も経ったというのにも関わらず未だクラスに馴染めていない奴が二名ほどいる。

 一人目――は言う必要もないか。葉月だ。葉月は相変わらずのツンツンぶりで、「アタシには近寄るなオーラ」が滲み出ている。あの日の葉月と女子クラスメイトの会話は一ヶ月は忘れられそうにない。そう、あの日は確か……入学して一週間の朝のホームルーム前のことだ。俺と未梨がクラスに入ると葉月と女子クラスメイトが二人きりで話をしていたんだ。

「ねぇねぇ、瀬尾さんって音楽推薦で来たの?」

「だったらなんなの?」

 俺は別段会話内容を盗み聞きしようとはせずに、自分の席まで向かった。俺の存在に気付いた葉月は相変わらずの嫌らしい笑みを浮かべ、朝の挨拶をしてきた。

「おはよっ」

「よぉ」

「あ、仁井哉くん。椿さん。おはよう」

 名も知らぬ女子クラスメイトは俺の名前を呼んで挨拶をしてくれた。なんだか申し訳ない気分になる。

「あぁ。おはよう」

「……」

 この三点リーダーは言うまでもなく未梨だ。

 特に葉月の会話に興味があったわけでもないが、教室という空間の中には俺、未梨、葉月、女子クラスメイトの四人しかいないうえに俺の席は葉月の真後ろだ。聞きたくなくても勝手に耳に入ってくる。女子クラスメイトに対して葉月は腕と足を組みながらお前は何様だ? と言いたくなるような態度でイライラを隠しきれておらず――いや、もともと隠すつもりなんてないのか。

「あたしさぁ……音楽推薦で落ちちゃった人なんだよ」

「だから?」

「なんだか瀬尾さんのこと尊敬しちゃうな。すごいよね。百倍の倍率の中で合格しちゃうんだもん」

 尊敬する人を完璧に間違えてるよ。

「どうも」

「瀬尾さんってなんの楽器で推薦受けたの?」

「アンタには関係ない」

 突き放す、というより突き刺すような言葉。女子クラスメイトは少し戸惑ったような表情になったが、すぐに元の表情に戻った。

「……あたしはねぇ――」

「どうでもいい。アタシは忙しいからあんまり話しかけないで」

「ぁ……うん、ごめん」

 さすがに今のはキツかったらしい。女子クラスメイトは苦笑して俺の方を見てきた。なにが言いたいんだろうか。答えはその日の昼休みにわかった。

 その日の昼休み、葉月が学食に行っている時のことだ。葉月に話しかけ見事玉砕した女子クラスメイトに話し掛けられた。

「瀬尾さんって変わった娘だね。どうやったらそんなに仲良くなれるの?」

「仲良くなりたいのか? あんな奴と」

「そういうわけじゃないけど……このままだと瀬尾さんが仲間外れになっちゃいそうな気がして……なんだかかわいそう」

 まず葉月に哀れみの感情をもつことを間違えてる。

「もしそうなったとしてもそれはあいつのせいだ。ほっとけばいい」

「……うん。もしそうなっても瀬尾さんにはあなたがいるもんね。いいなぁ。瀬尾さん。あたしも優しい彼氏さんがほしいよ」

 俺はこの件についてずっと勘違いされたまんまだ。何人かの野次馬どもには釈明はしたが、クラスの大部分には勘違いされたままだ。まぁ無理もないけど。この学校で葉月が俺以外にまともに会話をしている光景をみたことないからな。それにしてもこの件については俺の元にしか聞きにこないとはどういうことだ。

「何度も言ったが俺と葉月は――」

 弁解する余地もなく彼女は仲良しグループの中に戻っていった。……都合のいい人だ。




 そして二人目は――想像道理の人物。未梨だ。未梨が一人でいることは俺にとっては見慣れた光景なので今更どうこうしようとは思わない。むしろ未梨がみんなと仲良くワイワイやっていたらそれこそ俺は未梨が危ない薬をやっているのを全力で疑うだろう。しかしそんな光景に見慣れているのは俺だけであって俺以外のクラスメイトはどうにかしてクラスに馴染ませようとする。無駄だと思うけど。

 ある日の昼休み。

「椿さぁん。なーに読んでんのぉ?」

「聖書」

「……あははっ。聖書かぁ。椿さん。神様とか信じてる人?」

「別に」

「あたしも結構本読んだりするよ」

「……」

「恋愛小説とか読んだりする?」

「………」

「よかったら貸してあげようか?」

「…………」

「……」

 最終的には沈黙が訪れるんだ。難儀なもんだ。

 そしてやはり俺の基に相談が来るんだ。いい加減やめてほしいね。

「椿さん。人見知りが激しいのかな?」

 人見知りもなにもあいつは元からああゆう性格なんだ。ほっといてやれ。それにあいつは基本的に4バイト以上の発言をしない。

「ところで仁井哉くんってどっちが本命なの? 瀬尾さん? 椿さん?」

 ところで過ぎるだろ。それに予め聞くつもりのような言い回しっぽい。

「二人とも断じて違う」

「優柔不断な態度だと二人とも逃げられちゃうよ」

 まるで聞いてねえ。

「早いとこどっちかに決めてあげなよぉ。お互い傷つくだけだよ」

 どいつもこいつも……他人の不幸がそんなにいいか。



 まったく。なんでもかんでも俺に任せないでほしいね。バカと無口は無駄に刺激するより放っておけばいいんだよ。そのほうがクラスの風紀が安定するってもんだ。葉月は勝手にツンツンしてればいいし、未梨は黙って本を読んでればいい。放任主義万歳。のはずだったんだが、どうやら俺は貴重な人間らしい。葉月と未梨とまともに話せる人材はこのクラスじゃ俺だけらしいからな。通常状態の未梨は野生のカマキリぐらい人畜無害なのでいいとして、問題は葉月だ。葉月は頻繁にトラブルを起こし、その起こしたトラブルもろもろは全て俺にまでトバッチリが飛んでくる。クラス替えはまだかな?

 別に俺はいつも葉月や未梨と一緒にいるわけじゃない。比較的高校生らしい高校生活を送っているつもりだ。未梨と行動を共にしているのは登下校だけだし、葉月と話をするのだって大体が授業中や授業と授業の間の10分休みだ。昼休みになると葉月は決まって学食に向かう。葉月は学食に行く前に俺に「今日はお弁当?」と確認してくるだけで、無理やり連れて行こうとはしなくなった。そしてその昼休みこそが唯一俺の心休まるときである。昼休みになると葉月がいなくなったことで俺のまん前席が空くことになる。そこに来る奴がいる。体育の授業中に比較的に利害が一致し仲良くなった斉藤である。斉藤は俺と向かい合うように座り、一緒に弁当を食べている。別に俺は一人でも構わないんだがな。

「お前、本当に瀬尾葉月と付きあってないのか?」

「何回も言っただろ。俺とあいつはそういう関係ではない」

 斉藤は俺の弁当に箸を差し出してきたが、俺はそれを取っ払う。

「ちぇ、少しぐらいいいじゃねえか」

「そこまで俺の心は成長していない」

 しぶしぶ斉藤はタコさんウィンナーを口の中に放り込んだ。

「瀬尾って音楽推薦で来たんだろ?」

「そうらしいな」

「あいつこの学年の中で一番期待されているらしいぜ」

「誰が期待してるって?」

「校長」

「それは随分期待されてるこった」

 そういえば……葉月の演奏はプロレベルとかどうとか……俺には関係のないことか。

「教師たちからは期待の新星とか言われてんだぜ」

「そういう情報はどこから手に入れてるんだ?」

「おっと。それは言えないぜ。けどなにか知りたいことがあったら俺に聞きな。どんな情報でも格安で教えてやるよ」

 金取るきか。どうせ金払う価値がない情報しかないだろ。

「ふふ。俺を舐めるなよ……ぉぃ」

 突然斉藤は小声になり手招きをしてきた。しかも挙動不審。

「斉藤様の情報網はな……気になるあの娘のスリーサイズまでわかるんだぜ」

「……ふぅん」

 この時自分の表情がどうなっていたかはわからない。きっと軽蔑の眼差しを斉藤に向けていたんだろうな。

「マジだ。そうだな……あいつ見ろよ」

 斉藤が顔と眼をちょいっと動かして、ある方向に目配せした。ちらっとそちらの方向を見るといかにも生真面目そうな女子一人が勉学に励んでいた。そういえば次は英語の小テストだっけ?

「身長161センチ、体重51キロ、スリーサイズは上から82、55、82、だ」

「斉藤」

「おうよ」

「そんな情報はどうでもいい」

「なっ……」

 と言って斉藤は口を半開きのまま固まった。オーバーリアクション過ぎる。

「そうか……お前にはそんな情報は必要ないってか。彼女さんとイチャイチャしたい放題だもんな」

「だから葉月は――」

「瀬尾じゃないのはよくわかってる。いいよなぁ。ニィニィは」

「……イヤミか」

「俺にはお前の発言がイヤミに聞こえるぜ。一学年の女子ランキング上位二人と仲がいいんだからな」

 斉藤は俺に聞こえるぐらいの小声で喋っている。それもそうだ。俺の後ろには未梨が健在だからな。たとえ未梨に聞かれたところで未梨がなにかアクションを取るとは思えないが、一応斉藤なりに気を使っているのだろう。それにしてもそのランキングは一体どうやって集計しているのだろうか。是非俺も拝見したいものだ。




 そしてまた2週間が過ぎた。今日もバカみたいに早い時間から登校だ。もはや俺のストラップ的の存在になっている未梨は、俺の半歩後ろという定ポジションでいつものように読書に没頭中だ。

「よう、仁井哉と椿」

 背後から誰かに呼ばれたような気がする。低血圧気味の俺には振り向く力など無いし、反応してやる力もない。未梨も無反応だし、気のせいと言うことにしておこう。

「おいおい。無視はねえぜ」

 俺の視界に斉藤が入り込んだ。

「なんだ……お前か。なにか用か……?」 

「友達に向かってそりゃあねえだろ」

「そうか……。すまん」

「どうした!? 元気ないな!? 気合入れようぜ!」

 俺は低血圧で朝に弱いんだよ。なんだよお前のウザったいぐらい高いテンションは?

「お前こそどうしたんだ? いつもは遅刻ギリギリの癖に。なんか良いことでもあったか?」

「良いことなんてのは明日から起こる予定だ。なんて言ったって明日からは全国民が待ちに待ったゴールデンウィークの日だぜ? まさか忘れてたのか?」

 ……ゴールデンウィーク。もうそんな時期か。完璧に忘れてた。

「それで、だ。仁井哉。ゴールデンウィークの予定はなにかあるのか?」

「ずっと寝てるな」

「よし、ヒマだな。じゃあ……そうだな。明後日11時に駅前集合だ」

「……勝手に決めるな」

「まぁそう言うな。きっとお前も喜ぶだろう場所に連れてってやるから」

 と、半ば強制的に約束を取り付けられた。まぁ一日ぐらいはいいか。

 斉藤は自分のゴールデンウィークのスケジュールを勝手に語りだした。一日目はクラスの連中と都会へナンパしに行くらしい。俺も誘われたが、もちろん断った。二日目は俺を拉致してどこかに行くらしく、三日目は……もう聞くになれないな。

「ニィ」

 ブレザーの裾をくいくいと引っ張られる。

「なんだ?」

 と言って、振り返ると……珍しい。未梨が携帯を覗きこんでいるじゃないか。右手に携帯、左手は俺のブレザーの裾。さっきまで未梨が読んでいた本は不自然な形でブレザーのポケットから食み出していた。

「明日、出かける」

 未梨は携帯を凝視したまま言ってきた。

「……ん? それで?」

 視線が携帯からゆっくり俺に代わっていく。

「ニィ、わたしと出かける」

「……なぜ?」

「………だめ?」

 無表情のままの疑問形はやめてほしい。返って不気味だ。

「人差し指を顔の前まで持ってきて、首を80度ぐらいの状態で今の台詞を言ってくれたら個人的には嬉しい」

 我ながら意味不明なことを言ってしまった。未梨は携帯をブレザーのポケットにしまい込み、右手人差し指を顔の前にやり、首を80度ぐらいの状態に傾けた。

「だめ?」

 無表情無感情。モナリザの絵でももう少し表情に変化があるな。ま……いいか。未梨から初めてのお誘いだ。どうせヒマだし……付きあってやってもいいか。

「いいけどな……そのかわり……『変な抗争』に巻き込まれるのは勘弁だからな」

「絶対に平気」

 眼鏡の反射のせいかもしれないが、少しだけ未梨の目つきが変わったような気がした。

 斉藤が気分良く先導しているなか、俺は携帯のカレンダーを覗きこんだ。今年のゴールデンウィーク五月一日から五日までの五連休。よし、三日間は寝れる。




 っと、その前に今日の授業を乗り切らないとな。


すごい余談ですが、10月から11月にかけて私が買った本は12冊。財布のシーズンも冬に替わりつつあります(笑。

そして昨日も一冊買いました。ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪で有名?なライトノベルです。意外にもおもしろかったのでコメディー好きにはお勧めしますよ(笑

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