1―2 春先メモリー
「は」が1つ多かったのを修正。10/22
「感情はは一切ないぞ」→「感情は一切ないぞ」
次の日。教室に入るやいなや瀬尾が俺を睨んできた。何故睨まれてるなんてことはわからないし、わかりたくもないし、わかったところでどうにもならない。ただ俺の中にいる人生経験という組織の組員達が危険を告げていた。
――危ない、そのまま席に向かったら殺される。
――それはないだろ。
――ないとは言い切れない。いいから逃げろ。
という組員の激しい会議の結果、俺は自分の席に行かずに回れ右で教室を出て行くことにした。
「ニィ?」
ちょっと未梨の仕草に萌えた……じゃなくて! 俺の後ろに未梨がいるんだった。未梨は律儀にも今朝も俺の家の前で待っていた。来なくて良いのに。ちなみに決して俺は一切未梨に萌えたなんて思っていない。無理矢理言わされたんだ。作者の陰謀だ。
「どいてく――」
右肩をもんのすごい力だ掴まれた。誰かなんてのは振り向かなくても想像がつく……が、一応確認のため振り向いておこう。はい、どうみても瀬尾でした。この力はその華奢な体のどっから出てくるのか教えて欲しいもんだね。
にこやかに笑っている瀬尾の背後になにやら阿修羅象が見えた……ような気がする。ス○ンドか? この力はスタ○ドから出ているのか?
「どこ行く気」
「まぁ……ジュースでも買いにですね」
あまりの気迫に敬語になってしまった。これは不可抗力だ。
「奇遇ね。ア・タ・シも丁度ジュース買いに行こうとしたのよ」
絶対嘘だ。発言と顔が一致してない。大体お前はなんだ? 何故そんなに俺に突っ掛かる? 美人っていうのは嬉しいが、俺はツンデレキャラには興味はないぞ。
「ドア前で立っているのは迷惑よ。さっさと行きましょ」
気付いたときにはネクタイを掴まれていた。この後の展開は以下略で、食堂まで連れて来られた。食堂には始めて来たが中々広く綺麗なところで、ちょっとしたファミリーレストランにも見ようとすれば見れる。しかしこんなに綺麗でなところでも朝っぱらから従業員もいない食堂にくる生徒など皆無で、今ここにいるのは俺たちだけっぽい。瀬尾は自販機でジュースや何やら買っている。
「はい」
瀬尾が一本の缶を野茂もびっくり、俺もびっくり、トルネード投方で投げてきた。しかも速い。体感速度150キロで飛んでくる缶を俺は超反応でキャッチした。
「アタシのおごりよ」
「どうも」
何事もない会話に聞こえるが、俺は缶をキャッチしたときに痛めた手の痛みを必死に堪えていた。缶を見るフリをしながら自分の手を確認する。どうやら外傷はないようだ。ちなみに缶はミルクココアだった。妥当なとこツイてきたな。
「なんで俺に絡んでくるんだ?」
当然の疑問だろ? 別に俺は瀬尾を気を悪くするようなことは言ってない。ましてや昨日出会ったばっかりの少女なのだから言えるはずもない。もしかして……俺に一目ぼれか? いやいや、その確立はアイツの態度からしてゴキブリがいない家の存在確率ぐらい低いだろう。
瀬尾は自販機に寄り掛かり缶を開けた。
「昨日アタシを置いて帰ったでしょ」
「待つ理由がない。大体追ってくればいいだろ」
「軽音の奴らに勧誘ばっかくらって追えなかったのよ。あの程度の実力でアタシを勧誘なんて十年早いわ」
虎を素手で倒した人がテレビで自慢しているぐらい自慢げに話しているような気がする。
「それで、なにか話したいことがあるのか?」
痴漢常習犯より遥かに嫌らしい顔で瀬尾は俺に近づいてきた。なんなんだ。
「一応確認だけど……アンタの名前『仁井哉』でいいのよね?」
「そうだな」
「もう一つ確認。アンタって十年前ぐらいに引っ越さなかった?」
「なんで知ってる?」
「最後の確認。アンタは昔超かぁわいい女の子にハーモニカを教えたことがある?」
「……さぁ?」
一本の缶が超高速で、飛んできた……ということに気付いたのはその缶に当たってからである。瀬尾がノーモーションの状態から俺の顔面目掛けて缶を投げてきたのだ。
「イッテェナ!」
もちろん痛かったので痛いというのは人間として常識である。ここで痛いと言わない奴はMかマゾだ。
――突っ込んでいいんだぞ。
「あんたが悪いのよ。バカ」
「意味がわからない。バカな俺にもわかるように説明をしてくれ」
「まだわからないの? 仁井哉? 読者の人たちはきっと前話で気付いてるわよ」
それは黒人に「ニガ」と言うよりも遙かに言ってはいけない台詞だ。諸君忘れてくれ。
「十年前。ある幼稚園にとてもかぁわいい少女がいました」
「なんの話だ」
「その少女は幼稚園のみんなからイジメにあっていました。少女は考えました。自分の存在価値について」
それは随分ませた少女なこった。
「そんな少女のもとにある少年がやってきたのです。その少年はカッコいいとは言えず、お世辞ならギリギリカッコいいと言えるぐらい顔立ちでした。少女は少年を睨みつけました。少年は少女を恐れることなくウザいぐらいの笑顔でこう言いました。僕と遊ぼうよ」
それはそれは随分お節介な少年だな。俺が教育し直してやろうか? 1日500円で。
「いい加減に気付きなさいよ! それともわざと?」
「素だ。話が見えてこない」
「アタシは十年前、仁井哉にハーモニカを教えてもらった」
十年前……って何してたっけ? まだこっちに引っ越す前……ハーモニカ吹いてた記憶しか……あ。あぁ……アイツか。
俺の頭の中でzip形式に圧縮されていた記憶という名のファイルが解凍され始めた。ファイル解凍のパスワードは――
「葉月?」だった。
「ったく……気付くの遅すぎよ。本当にアタシのこと忘れてるのかと思ったじゃない」
どうやらモノホンの葉月らしい。それにしても人間は奥が深い。俺の記憶にある『葉月』は部類分けするなら、確かにかわいいの部類に入る……が、今の『葉月』はまるで別人だ。美少女と言う点では十年前とさほど変わらないのだが、なんというか……風格が出てきたっていうのか? わかりやすく言うとホイミスライムが気付いたら人間になってたような感じだ。
「悪い。ていうか別人だとは思わなかったのか?」
「それはないわ。仁井哉なんて名前がアンタ以外にいるとは思えないし、『仁井哉ならこの学校を選んだ理由』もわかるし、それに…なんというか……あれよ。雰囲気よ。アンタ昔と変わってないからね。雰囲気だけは」
『だけ』を強調された。
「なにが言いたい」
「アンタ雰囲気は変わってないけど性格変わりすぎよ。昔のアンタはもっとねぇー。んーと。そう! 素直だったわ!」
「悪かったな。素直じゃなくて。俺はいつでも、何時でも、例え世界が滅びそうになったときでも、恋愛小説関係の高校生主人公よりかは素直だ。これは自信をもって言えるね」
「そんなのに自信を持たなくていいわよ。フィクションの人物と比べてどうするの? 悲しくならない?」
そう言われるとキツい物がある。言い返せないからな。
「にひひ。けど腐ってもやっぱり仁井哉だわ。本当に久しぶりね」
俺は腐ってない。腐ってるのはお前の性格だ、という言葉が喉まできたが、ワールドカップクロアチア戦の川口ぐらいがんばって抑えた。
「……そうだな」
よく耐えた、俺。そして川口。
「もっと話したいこととか文句を言いたいことがあるけど……そろそろホームルームの時間だわ。戻りましょ」
廊下を歩く葉月の姿ほど威風堂々という言葉が似合う人物はこの学校には存在しないだろう。
それにしても、だ。
――できすぎじゃないか?
何故葉月がここの学校にいる? アイツはもっと遠くの地に住んでいたはずだ。
――引っ越してきたのか?
その考えが一番しっくりくる。親の都合かなにかでやむ得ず引っ越してきた。そして妥当な高校を選び、たまたま俺に出会った。いや、この考えだと……一つおかしい点がある。葉月は『俺がこの学校を選んだ理由もわかる』と言った。俺が選んだ理由――比較的学校から家までの距離が近い、からだ。葉月は俺の家を知っているのか? ……その可能性は極めて低いだろう。俺の家を知っているなら……アイツの性格だ。乗り込んでくるだろう。
じゃあ一体なんなんだ?
――葉月はなにか勘違いをしている?
恐らくそうだろう。俺がこの高校を選んだ理由を葉月は勘違いしている。勘違いしているにしてもなにと勘違いしているのだろうか。
『この学校を選んだ理由もわかる』
理由……この学校を選ぶ理由。普通の奴なら『いい大学に行けそうだから』とかだろう。まさかそんな理由じゃないよな。
色々考えたが、最終的な結論はこうだ。
――あとで葉月に聞こう。
「ったくー。二日目から授業なんて信じられないわ。教育基準法に引っ掛かるわ」
「どんな基準なら引っ掛かるのかね」
授業も終わり昼休みに入った。あのあと教室に戻ってから葉月はマシンガントークが得意なアナウンサー如く、休むことなく一方的に話し掛けられた。その九割ほどは適当に相槌を打っていただけなので会話内容などはほとんど覚えていない。
「まぁいいわ。昼休みなことだし……ねぇ、仁井哉。お弁当持ってきてる?」
「オフコース」
「それは今日は捨てなさい。アタシと食堂行くわよ。もちろんアタシのおごりでよ。一回行ってみたかったのよね」
「俺を誘うな。他の奴を誘え」
「アタシはまだこっちに来たばっかで知り合いがアンタしかいないの」
確かにお前とは知り合いだが、十年前に半年程一緒に遊んだだけだろ。
「その辺の男でも拾え。お前なら誰かはキャッチできる」
ツラはいいんだからな、と心の声で付け足した。
「イヤよ。そんなんだったら一人で行くわ」
「いってらっしゃい」
「そうじゃなくて……! こんなにかぁわぃーかぁわぃー女子高生が食事に誘ってるんだから付き合いなさいよ」
自分でかわいいとか言うと奴は可愛さ半減だな。流石に口には出さなかったけど。
「今日のお弁当は何かな何かなー?」
駅の前でチラシを配っている人の横を通るように葉月を軽くスルーし、カバンからお弁当箱を取り出した。お弁当箱を開けるとより取り緑、今日は俺のストライクゾーンど真ん中。どストライク!! って感じだ。あぁ、お袋。ありがとう。今俺は猛烈に感動してるよ。葉月は大人しく諦めたらしく他の男となにか話している。そうだ、お前は他の男と食堂に行けばいい。じゃ、俺はこのお弁当を……あれ、ない。確かに机の上に置いたような……
「これ良かったら食べていいわよ」
「え? いいんですか?」
「そのかわり十秒以内に食べなさい。いくわよ、よーいドン」
なにやら葉月が気になることを言ってたのに気付なかったのは一生の不覚であり恥だった。そんな俺はもう一回カバンの中をチェックしていた。
「あーれ……」
背中をつんつんと突かれた。もちろん未梨だった。未梨はなにも言わずに指をある方向に向けた。指の先を見ると、そこには男が必死に弁当を食べているなんとも見ていい気分にはなれない光景があった。
「いい食べっぷりだわねー。惚れちゃうかも……」
いや……未梨が指してたのは男じゃない。葉月だ。そして葉月が葉月らしからぬ言動をしている。更に男の食べるペースが上がっている。もしかしてあれが……
「ごちそうさまっす! これは洗って返します!」
「いいから今すぐ返してちょーだい」
葉月は半ば無理矢理男から弁当箱を返してもらっていた。しかもどこかで見たことのある弁当箱の形だ。あれは俺の弁当箱……なのか? いや、本当はあれが俺の弁当箱なんていうのはとっくに気付いていたさ。心のどこかでずっと否定をしていたが、さすがにもう限界だ。
「お前はなにやっとるんだ……」
A4ノートを丸めた物でこのバカを軽くポカッと叩いた。
「アタシはなにもやってないわよ。そこの男子がお腹空いて死にそうって幽霊みたいに嘆いていたのよ。このままじゃ呪われる。けどアタシの手元には食料がない。そんなときアタシの目の前にとてもおいしそうなお弁当が降臨したのよ!」
嘘をつくな。明らかにあの男が困ったような顔してるだろ。
「三流映画以下のストーリーを作るな。聞いてるこっちが恥ずかしくなる。大体俺はホラー系は好きじゃない。ったく……そこまでして食堂に行きたいか」
「アタシも少しは悪かったと思ってるわよ」
嘘つけ。その百パーセント搾りたてと表示されているリンゴジュース並にうさんくさい笑顔はなんだ。
「だからこのお弁当箱はアタシが責任持って洗って返すわ」
「いや、いい、今すぐ返せ。お前に預けたら明日の俺の弁当が無くなるだろ」
「明日も学食でいいじゃないの」
「『明日も』ってのはなんだ。まるでもう今日学食に行くことが決まってるみたいじゃないか」
「え? 行かないの? 三食はキチンと食べないと体力付かないわよ」
なにを60過ぎたばーさんみたいなこと言ってるんだ。
「俺の弁当がないのは誰のせいだ?」
「まったく本当にあの男子迷惑よね」
俺は再びA4ノートを丸め、このどうしようもないバカをちょっと強めに叩いた。
「アタシのせいで! 仁井哉はお昼ご飯が失くなっちゃったわね。アタシと一緒に食堂来るならおごってあげるわよ」
葉月の勝ち誇った顔が実に腹ただしい。計画的犯行の癖になにを言っているんだ。しかし俺の胃袋は少なくとも俺の性格よりかは正直者だ。このままなにも食べなかったら俺は発狂して虎になるだろう。
「あたりまえだ。先に言っとくが俺はかなり食うからな。後悔するなよ」
「にひひっ。上等よ」
今度はネクタイを掴まれなかったが、代わりに手を握られた。心臓がドキドキする……なーんて感情は一切無いぞ。恋愛小説じゃあるまいし。くだらない。
カツ丼、親子丼、カレー、チャーハン、ラーメン、ハンバーガー、サンドイッチ……これをイマクニが歌っているように頭の中で流してみた。親子丼の時点で文字余りが激しかったので考えるのを止めた。ところでテーブルに乗っているこの料理の量はなんでしょうか?
「飲み物なにがいい? ミルクココア?」
「ちょっと待て……この量はなんなんだ?」
ミルクココアを二つ持ってきた葉月は俺の向かい側の席に座った。
「なんなんだって……いっぱい食べるんでしょ? 遠慮はいらないわよ」
素で言っているのなら大した天然だ。大体なんなんだ、この炭水化物中心なラインナップは? 野菜はどこだ、野菜は。四番バッターだけじゃ野球はできないぞ。
「あ! ……もしかしてアタシが後で請求するとでも思ってるの? それなら心配しなくていいわよ。アタシはそこまでセコくないから」
黙っている俺を見て、葉月はなにやら見当違いの心配をしている。
「ちょっと料理の数多くないか?」
「そう? アタシも食べるんだし、平気でしょ」
そう言うと葉月はお皿に乗っているサンドイッチを二個同時に掴み、口の中に突っ込んだ。
なんて食べ方しやがる。女の子らしさが微塵も感じられない。食べ方だけなら飢えたライオン……もしくはそれ以上。
「あんひゃもたえひぁさいお」
コイツは一緒に食事に行きたくないリストに追加だ。
「口に入れながら喋るな。もうちょっと落ち着いて食ったらどうだ。それに味わえ。噛み締めろ。作った人の気持ちを考えろ」
「いやよ」
葉月はあっというまにお皿にあった大量のサンドイッチを跡形も残さず食べてしまった。
「意外とイケるわよ」
この場合のイケるは二つの意味で捕らえられる。
一、 意外と食べられわね。
二、 意外とおいしいわね。
「このハンバーガーも美味しいわ。学食は三ツ星で合格よ」
A、 二でした。
葉月はダブルバーガーならぬトリプルバーガーを食べだした。
見ているこっちが腹一杯になってくる食べっぷりだ……っていうのは妄言だ。見てるだけで腹がいっぱいになるわけがない。むしろ空いてくる。俺は手元から1番近くにあったカツ丼に手を伸ばした。
じゃ、いただきます。
「仁井哉? あんま食べてないわね。お腹空いてたんじゃなかったの?」
葉月はグルメリポーター風に親子丼を俺の目線ちょうどまで上げておいしそうに食べていた。それはわざとか?
「残念ながら俺の胃袋は一般人レベルなんだ」
俺が食べたのは結局カツ丼だけ、それだけでも空腹から満腹にはなった。現役学生さん向けに造られてるだけのことは有って、一つ一つの料理のようがかなり多かった。にもかかわらず! さっきまでこのテーブルに乗っていた料理を葉月は全て平らげてしまったのだ。
「あれでしょ! お腹空き過ぎて却ってお腹一杯になっちゃったみたいな。うんうん。アタシもよくあるわ」
確かにそんなことはよくある。しかし、そんな状態だったらサンドイッチ一つで充分だ。カツ丼など食えん。
「お前はいつもそんなに食べているのか?」
「そんなことないわよ」
と言って葉月は既に空の器と化した丼をドンとテーブルに置いた。
「ちょっと最後の親子丼はいらなかったわね。食べ過ぎちゃったわ」
最後のだけって……実はかなりの大食いなんだな。全部で軽く7000キロカロリーは越えてるぞ。見た目は痩せてるのに……まさか、もしかして内臓脂肪?
「なぁ、お前体重なんキロだ?」
葉月は少し顔が赤くなった。あれ……なにかおかしなこと言ったか?
「……アタシだからいいけど、他の女の子にはそういう事聞いちゃだめよ。えーと……アタシのプロフィールは……157センチ45キロ。スリーサイズは教えないわよ。どうしてもって言うなら………」
「いや、別に聞きたくない」
「ふぅーん。無理しないで素直に『教えてください葉月様』って言ったら教えてあげるわよ」
俺はどんなエロジジイだ。それにお前は少し恥じらいを持て。そうじゃないと俺が恥ずかしくなってくるだろう。
それにしてもあんだけ食べといて45キロ……か、日本の全ての女性が羨ましがる太らない体質か。
「幸せ者だな」
「なんの話?」
「なんでもない。メシも食べたことだし、こっから出るか」
「そうね」
と珍しく同意され、葉月は立ち上がった。
「じゃあ、片付けといてね、アタシ飲み物買ってくるから」
葉月はささっとその場から消えた。一応おごって貰ったという立場なので、しょうがなく俺は食器(ほとんど葉月が食べた奴)をベルトコンベアで回っているところに置いた。ここに乗せれば自動的に洗い場まで運んでくれるというシステムだろう。はてさて、県立高校でこんなシステムを導入して学校の予算は大丈夫なのか? と、しょうもない心配をしながら全部の食器を片付けた。出入り口に向かうと葉月が両手に一本ずつ缶を持って佇んでいた。
「はい、ご苦労様」
と言われて缶を手渡された。今日三本目の……
「好きなのか? ミルクココア?」
「大好きよ」
なにも迷わずに断言しやがった。しかも第3者が聞いたら少し勘違いされそうな言い方で。
「ねぇ? これから暇? 暇よね? 暇に決まってるわよね!」
最後が既に疑問形ではなく、エクスクラメーションマークの時点でどうやら拒否権はなさそうだ。
「暇と言えば暇だな」
「じゃあ、ちょっと付き合って」
めんどい、やだ、と言おうとしたがやめた。この傍若無人の葉月のことだ。断れば今朝のようにネクタイを掴むなり、弁当の時のように俺を行かざる終えない状況を創りだすに決まっている。最悪気絶されられてから連れて行かれるかもな………さすがにそれはないか。多分。
とりあえず………悩みの種はできそうだ……
余談ですが、今、自分はFFXIIをやっています……が、自分は3D酔いが激しいもので30分以上できません。と、いうことで、もし3D酔いの治し方を知っている人がいたら是非是非教えてください(笑)