表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/28

プロローグ2 未梨編

修正しました。10/13


一部の「…」が「・・・」だったので「…」にしました。

 あなたの特技はなんですか? 人生一度は聞かれると思われる台詞だ。俺が初めてそれを聞かれた…ではなく、書いたのは小学校一年生に配られた自己紹介カードだった。


『あなたの特技はなんですか?』


EX 俺はなんて書いたでしょう?




A 『人助け』


 次にそれを聞かれた改め書いたのは中学校一年生で配られた自己紹介カードだ。


EX 俺は(以下略)




A 『空中に飛んでいる蚊を素手で捕まえられる』


 そして今、またしても俺は特技について書かなくてはならない。しかし今度はふざけていられない。なぜならば今回は自己紹介カードなどというレベルではない。貴重な昼休みを使っているということだけでレベルが3桁ほど違う。俺が今書いている物は高校の志望理由書である。特技は人助けです、なんて書いてみろ。面接で具体的な内容聞かれても俺はなんにも答えられないぞ。それはまだしも、特技は空中で飛んでいる蚊を捕まえられます…これなど問題外だ。たとえ成績が中学トップであろうと門前払いだろう。ましてや成績が中の下の俺なんて殺されてもおかしくない。

「なぁ、俺の特技ってなんだと思う?」

 前の席に座っているクラスメイト、荒木に聞いてみた。

「ん? お前の特技? 腕立て伏せ?」

「俺はお前の前で一度たりとも腕立て伏せをした覚えはない」

「冗談だ冗談だ。そう目頭たてるな」

「……」

「おい。目頭のとこ突っ込めよ。マジで俺が間違えたみたいだろ」

 言い直して良かったな。俺の評価が落ちなくてすんだぞ。

「そんなお前のボケはどうでもいい。真面目に答えろ」

「まぁまぁ。それよりお前どこの高校だよ?」

「緑山高校だ」

 緑山、緑山…と荒木は呟いている。

「あれ…。緑山ってかなりレベル高いよな?」

 そうなのだ。俺が行こうとしている高校はかなりレベルが高いのだ。何故そこを選んだというと…近いからだ。ぶっちゃけ高校選びの基準なんて家からの距離だろ。しかし志望理由書にはそんな適当なことは書けないので、そこはうまく誤魔化してある。

「高いな」

「ふーん。がんばってるんだな。まぁがんばれや」

「応援の言葉より、俺の特技を教えてほしい」

「俺に聞くよりあそこにいる彼女さんに聞けよ。きっといい答えが返ってくるぜ」

 荒木は指を窓際最高方の席で静かーに読書をしている女の子に向けた。

「あのなぁ…アイツは…」

 荒木は俺の肩をポンポンと叩いた。

「言わなくてもわかってる…付き合ってるんだろう? そうだよな? そうなのか? この野郎!」

 なぜそうなる。なぜ少しキレ気味。なぜ顔を近づける。

「断じて違う」

 そして顔を離せ。気色悪い。

「嘘つけぇ! 俺は知ってるんだ! お前が彼女と…椿さんといつも一緒に登校してきてるのを! この幸せ者!」

 荒木は微妙に半泣き状態だ。

「その情報はみんな知ってるって」

「それだけじゃねぇよぉ! 帰りだって二人仲良くラヴラヴなオーラだしながら帰っているのを!」

 そんな危ないオーラなど出さない。ていうか出せない。出したくない。

「単に家が近いだけだ」

「くぅ〜! 羨ましいね! 家の近くにあんな美少女が居て…それでそれでいつも一緒に登下校…それでそれで……」

 荒木は放送禁止用語をペラペラと喋りだした。

「勝手な妄想をするな。大体あんな無口な女のどこがいいんだ?」

「…こういう奴いるよな。どこがいいって! 全部だよ! 全部! 顔だけでもランクAAAだ! それに最近つけた眼鏡! あれいいよなぁ。俺さぁ…眼鏡っ娘って…まじで好きなんだよぉ。なんか萌えるよなぁ」

 いきなりなに危ないこと語りだしているんだ。バカだ。こいつは救いようのないバカだ。

「俺はー椿さんがーお前以外にーまともに話してるのをー見たことがーないー」

 荒木は何かの歌のようで歌じゃない、わけのわからない呪文を唱えるように言いながら、ゆっくりと教室を出て行った。…結局まともな答は返ってきてないな。と思い悩んだところ、やはりアイツしか聞く奴がいなかった。俺は窓際最後方席に一人佇んでいる女の子のところに行き、その前の席に座った。

「なぁ、未梨」

 この根暗美少女の名前は「椿 未梨」。確かに顔だけならいいかも知れないが、性格はいいとは言えん。一番の問題はコイツの家柄だ。詳しくはまた後で話そう。

 未梨は本を閉じ、こちらを見てきた。

「なに」

 なにひとつ声に感情がこもっていない。こんな無感情少女のどこがいいのか俺に教えてくれ。荒木。それにコイツと関わるということは命懸けだぞ。まじで。

「俺の特技ってなんだと思う?」






 未梨に初めて出会ったのは十年前。こっちに引っ越してからだ。俺はこっちに引っ越してきてからは毎日が退屈だった。なぜならハーモニカが吹けなかったからだ。小学校にハーモニカを持っていったときのこと、先生に没収されかけた。理由は『そういう決まりなの』だった。くそ喰らえだ。

 俺の家の周辺は住宅街、目の前には高級マンションまである。なので家でハーモニカを吹くとオフクロに近所迷惑だから辞めろと言われてた。

 最終手段は公園だった。しかし公園までは歩いて1時間というかなりの距離があった。いや、距離自体はそこまでないのだろうが、公園がある場所は山であり、家からの道のりは7割ほど坂道である。そんな立地条件の公園でも人はかなりいるものだ。なぜならその公園から見える景色は俺の住んでいる街を見渡せた。俺はそこの公園に行きハーモニカを演奏していた。最初は子どもよりも子どもと一緒に来ているオバさんに人気があった。「小さいのにすごいわね」「ウチの息子にもなにか楽器やらせようかしら?」 なーんて言ってたのは最初だけ、しばらくするとオバさんの態度は180度変わっていた。「あの子ったらいつもいつもうるさいわね」「いい加減にしてくれないかしら」わざと俺に聞こえるような声で話していた。なんともわかりやすい嫌がらせだ。それだけならまだしも公園で遊んでいる子どもたちは俺にちょっかい出してくるようになってきた。最終的にはハーモニカを吹くと石が飛んでくるようにまでなった。流石に石が飛んでくる中でハーモニカをやるほど俺はバカではない。それならみんながいない時間帯に行けばいい。俺はそれから毎日学校が終わったあとに公園に向かい、人がいない時間帯を探した。


月×、火×、水×、木×、金△、土×、日×


 毎週金曜日。いつも公園で遊んでいる主力メンバーがいない。飽くまで俺の予想だが恐らく主力メンバーのリーダー格が毎週金曜がなにか用事があり、自然に他のメンバーも集まらなくなったのだろう。それでもちらほらと数人はいた。しかしそいつらも5時過ぎにはいなくなる。親が厳しいのだろう。ウチは放置家庭だから行き先さえ伝えて警察に捕まらない程度なら何時になってもいいと言われている。なので毎週金曜日の5時以降は俺の独壇場だ・・・と思っていたが一人だけイレギュラーの存在がいた。その人は女の子で歳は・・・恐らく俺と同い年だろう。髪は長く、ノースリーブのワンピースを着ていた。それが未梨だった。

 未梨は毎週金曜、みんなが消えたあとにやってくる。その女の子はいつもタイヤの遊具の場所に座りながら本を読んでいた。そして今日もタイヤの場所で一人寂しく(そういう風に見えた)佇んでいた。

 一人ぐらい平気だろうと思いつつも、タイヤから大分離れたベンチに座りで、ハーモニカを吹き始めた。音を出してみて俺は驚いた。誰もいないだけあって音の響きがハンパなく大きかった。その音に驚いたのかどうかはわからないが、未梨は読んでいた本を閉じてこちらをじーっと見ている。未梨はタイヤから立ち上がり長い髪をなびかせながらこちらに向かってきた。未梨は無表情なのでなにを考えているかわからなかった。

「聴かして」

 かなり小さい声だったがはっきり聞こえた。聴かしてって…

「吹いてもいいの?」

 未梨は黙って頷き、俺の隣に座った。女の子はまるでライオンが獲物を狙いを定めているようにじーっとこちらを見ている。そこまで見られると緊張するものが有ったが、俺は気にしないことにした。

「じゃ、吹くね」

 こうしてハーモニカを演奏するのは、こちらに来てから初めてだった。やはり音がかなり響く…がその分いつもより上手く出来ているような気がする。まぁそれは気のせいだろ。俺はいつでもどこでも同じようにしか演奏できないからな。

 一通り演奏すると女の子はパチパチと小さく拍手してくれた。

「じょうず」

 今思うと、この時演奏した曲は偶然にも初めて葉月に聞かした曲と同じだった。これを運命というには少し押しが足らない。

「ありがと…」

「もっと聴かして」

 この時、初めて未梨を不思議な女の子だと思った。アンコールをしている割りには顔は無表情、発する声は感情が含まれてなく全部棒読みだ。しかし未梨の瞳は真っ直ぐこちらを見ている。聴きたいと思う気持ちは本当っぽかった。アンコールに答えないわけにはいかない。俺はハーモニカに口を付けた。



 どのぐらい吹いただろうか…? あれからアンコール責めで、もうぶっ通しで2時間は過ぎたと思う。ていうか過ぎてた。公園にある大時計を見たら7時過ぎだ。もう…酸欠状態だ…。

「もう一回」

 既に公園は闇に包まれていた。外灯の光が無ければなんにも見えないだろう。

「ごめん…ちょっと…休憩させて…」

「うん」

 未梨はまだこちらをじーっと見ていた。俺を見たってなにもでないぞ。それにしても・・・ここまで熱心に聴いてくれる人は初めてだ。

「聴いてくれるのは嬉しいけど、家の人とか心配してるかもよ?」

「平気」

 平気と言うんだから平気なんだろう。それ以上は無理に聞くものじゃない。しかしこの頃の俺はおかまいなしだった。

「ここら辺に住んでるの?」

 未梨は首を右、左とゆっくり動かした。

「家、遠い」

「わざわざここじゃなくても、もっと近い公園とかないの?」

「ない」

「毎週金曜の5時過ぎぐらいに来ているよね? 誰もいないのに…なにしにきてるの?」

「読書」

「読書なら家でできると思うけど、ここじゃないとダメなの?」

「ここ静か、景色、綺麗」

 喋り方がまるでなにかの詩みたいだ。

「僕のハーモニカはうるさいけど……」

「私、好き」

 ハーモニカって、ちゃんと主語を言わないと変な奴は勘違いするな。

 大時計を見ると8時を過ぎていた。お腹も空いたことだし帰ることにした。

「ごめん…そろそろ僕は帰るね」

 未梨は俺をじーっと見ることをやめ、閉じていた本を開け読み始めた。

「さよなら」

 俺はベンチから立ち上がり、帰ろうと公園を出ようとしたが…未梨のことが心配になり再びベンチに戻った。なぜ心配になったって? さぁ? 当時の俺に聞いてみないとわからないな。夜の公園に幼女一人、ロリ○ンがいたら襲われるから? しかしベンチには未梨の姿はなかった。帰ったのだろうと思い、俺も帰ろうとすると…『くしゅん』というなんともかわいらしい『くしゃみ?』が聞こえた。『くしゃみ?』が聞こえた方向に振り向くと、未梨は片手で鼻を摩り、タイヤに座りこみながら空いてるもう片方の手で本を読んでいた。近づくと未梨は俺の足音に気付いたのか、一瞬こちらを見たがすぐに視線を本に戻した。俺は未梨が座っている隣のタイヤに腰を掛けた。

何時いつまでここにいるの?」

「適当」

 未梨は視線を本から1ミリたりとも動かさなかさず答えた。

「なら…キミが帰るまで僕もいるよ。迷惑かな?」

「別に」



 未梨が本を読んでいる間、俺はなにをしていたかというと…ただ空を眺めていた。星空が綺麗だったが…正直つまらなかった記憶しかない。ハーモニカを吹こうとも考えたが、夜の8時過ぎにプープー音を出すのは流石に近所迷惑だろう。静かなので、ページをめくる音がはっきりと聞こえた。ぺら…ぺら…と、大体30秒に1ページってとこか? 暇のあまりについ数えてしまった。

 空を眺め、星の数を数えていると…未梨の顔がぬぅっと現れた。

「私、帰宅。あなた、帰宅?」

 未梨の長い髪が顔に当たってくすぐったかった。俺は空を見るのを止め、タイヤから立ち上がった。未梨は身長に合っていない大きい微妙なセンスのリュックサックをしょっていた。恐らく本やらなにやら入ってるのだろう。

「うん。僕も帰るよ」

「そう」

 未梨は出入り口とは逆の方向に歩き出した。その理由はすぐにわかった。しばらくすると未梨は自転車に乗って戻ってきた。駐輪場に留めといたのを取りに行ってたのだ。俺の目の前で自転車から降りた。

「乗って」

 未梨は自転車の後ろ側に指をさした。後ろに乗れということなんだろうが、座るところなどなかった。それ以前に自転車に俺を乗せたところでどうするというのか。

「乗ってって…」

「あなたの言いたいことはわかる。平気。あなたの家、私の家、近い。平気。方向、一緒」

 俺は頭をフル回転させて未梨の言葉を理解しようとした。

「キミの家と僕の家が近いの?」

 5秒後に理解。

「うん」

 誰かと勘違いしているんじゃないか? なんていう考えはなかった…っと言ったら嘘だ。

「誰かと勘違いしてない?」

「私の家、あなたの家の前にあるマンション」

 確かに…家の前にはマンションがある。しかも超高級マンション。もし本当なら…お嬢様だ。

 未梨は自転車に乗り、目でなにかを訴えてきた。乗れと言うことかな?

「どこに乗ればいいの?」

「そこ、足掛けて。私に捕まって」

 今度はとてもわかりやすい説明だった。指示通りに自転車の後輪の出っ張り部分に足を掛け、未梨の肩に捕まったら…なんとも厳しい体勢になった。

「出発」

 もし違う方向に行ったら降りればいいことだ。安心して行こう。



 一度自転車が走りだせば厳しい体制も苦じゃなくなり、なかなかいいものだと思った。夜風がかなり気持ちよかったり、なんて言ったって速い。見たことのある景色が凄いスピードで流れていく。ちなみに俺はこの時初めて自転車というものに乗った。なので今まで歩いて、公園まで来ていた自分がバカらしく思えていった。

「自転車って速いね!」

 俺の問いに未梨が口を動かしたのは見えたが、風の音がうるさいためになにも聞こえなかった。自転車で走っている間は会話が成立しないという方程式が確立した…と思ったが、後に未梨以外の奴なら会話が成立することが発覚した。声が小さいんだよ。



「到着」

 きっちりと俺の家の前で自転車を留めてくれた。俺は自転車から降り、未梨にお礼をした。

「ありがとう。おかげで速く家についたよ」

「別に」

「あのマンションに住んでるの?」

 俺は家の前にある楽に20階は越えているマンションに指を指した。未梨はコクンと頷いた。はい、お嬢様確定。

「っていうことは…僕と学校一緒だよね? 良かったら来週から一緒に行かない?」

 なんでこんなこと言ってしまったのだろうか。どうせ女の子が美少女で家も近いし…友達になってもまぁ…悪いことはないだろう、とでも思ったのだろう。その考えが甘かった。時が戻るのであれば、この時の俺を殴って気絶させ、なんにもなかったことにしたいぐらいだ。

「わかった。さよなら」

 本当にわかっているのかと言いたくなるような表情で未梨は高級マンションに向かった。



 未梨と一緒に学校に行く約束をしたのはいいものの、詳しい事柄をまったく決めずに分かれてしまったということに気付いたのは当日の朝である。どうしようと考えつつも、まぁ大したことじゃないな、みたいなことも思ったりしてるけど、やっぱ気になるみたいな気持ちだった。そうだ! 迷うことはない。マンションに直接行けばいいんだ、けどああいう高級マンションは入るのだけでカードとか必要そうだなぁ…。結局もやもやした気持ちのまま玄関を開けた。開けてビックリ…はしなかったが、そこには未梨がいた。未梨は昨日と同じような本を読んでいた。

「…おはよう」

 未梨のファッションは昨日と違ってラフな格好だった。大人が着るようなキャミソールにショートパンツ。そこまではいいんだがリュックサックは昨日と同じ、身長に合っていない大きいリュックサックだった。正直似合ってないぞ。

「…あ」

 まるで、たった今俺の存在に気付いたような反応だった。

「じゃ、行こうか」




 俺たちの出会いはこんな感じに始まった。

 神よ。いまからでも遅くはない。時間を巻き戻してくれ。と毎日祈る俺がいた。






 十年経った今も未梨は相変わらず無口で根暗な奴だ。そして、今こうして無事に生活できている俺は意外とすごいのかもしれない。そして今、俺は未梨が俺の特技について答えてくれるのを待っていた。

「ハーモニカ」

 未梨は1分後ぐらいに答えてくれた。

「ハーモニカ…ね。わかった。ありがとな」

 俺は自分の席にスタスタ戻り、志望理由書にミミズ文字でサッと特技を書いた。


特技 腕立て伏せ、と

今回はちょっと縦書き用っぽく書いてみました。良かったら縦書きで見てみてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ