表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侵食  作者:
狂気
9/30

終わりの始まり


                      3


 いなかった。ずっと存在しなかった。だがある時初めて存在する。初めて、彼の目に映る。


 その日は雨が降っていた。


 広田友樹は傘を閉じる。そしていつも通り、職員室に鍵を取りに行ったが、鍵は既に持ち去られていた。教室に向かう。扉はほんの数センチ開いていた。その先の部屋に、彼女がいた。


 空は鉛色。教室の中はとても暗いのに、電気がついていない。誰もいないのかと思いきや、人影が見えた。


 彼女は、『居た』。彼女はどこも見ていなかった。顔を埋めていた。それは一見すると、寝ているかのように見えた―――。


 広田友樹は声をかける。だが反応がない。教卓の後ろにある時計を見る。七時十分だった。もうすぐ皆もやってくるだろう。このまま寝られていては、困る。きっと彼女は皆にからかわれてしまうだろうから。それがあまりにも気の毒で。彼女の肩を揺さぶった。彼女は思っていたより小柄だった。


 ガタン、と彼女がバランスを崩して床に倒れる。まるで壊れた人形みたいだった。大丈夫? と声をかけようとして、はたと気づいた。彼女の目はくわっと見開かれていて、どこか遠くを見ている。それだけじゃない。揺さぶったときも、氷と同じくらいの体温をしていた。


 二度と動かない。二度と微笑みかけてくれない。


 「美月………」


 まだ何も伝えてなかったのに……。


 広田友樹はその場に立ち尽くしていた。一歩も動くことができなかった。


 教室は静寂に包まれていた。聞こえるのは時計の秒針が動く音と、外で降っている霧雨の音だけ。だがそれも、今の広田友樹には聞こえていなかった。


 「俺、こんなつもりじゃ……。本当はお前が………」


 言葉を切る。俺には、この続きを言う資格なんて無いんだ。


 カタリ、と教室内で音がした。広田友樹は我に返って振り返る。端整な顔立ちをした少年が、一番後ろにある誰かの机に軽く腰をかけていた。見覚えの無い顔だった。


 少年は立ち上がり、広田友樹を見据える。広田友樹と同じくらい、もしくは少し高いくらいの身長だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ