表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侵食  作者:
終わりの予感
7/30


 「そういえば、今日は何の日か知ってます?」


 駅に向かって歩いている最中に、唐突に広田友樹が訊いた。人通りが多く混雑している上に雨まで降っているので、声が聞き取り辛くなるだろうと、少しトーンを大きくして訊く。


 「知るか、かーば」


 「言うと思った。ま、別にいいけどね、今日は何も無い日だから」


 「話終了だな。 ……お前、何が言いたかったんだよ?」


 鬱陶しいくらいの、雨。地上にいるもの全てを串刺しにするかのように降ってくる。空は鉛色。あの時の再現のように、薄暗い。暫し、無言が続く。


 「あーーー、靴ン中びしょ濡れじゃねえか、クソ!」

 先に静寂を破ったのは田代加那慧だった。


 「そんなこと言われなくても分かります」


 「冷めてぇなあ、お前。大体よ、お前が訳の分からんことを言うから会話が途切れたんだろ? 黙々と歩くなんてつまんねえじゃねえかよ」


 「同感ですね。だからとりあえず、話を振ってみたんですけど」


 「もっとマシな話を振れ。答えようがないじゃねえか」


 「確かに。靴が濡れた話なんて、ふうんと答えればそれで終わっちゃいますもんね」


 広田友樹はにこりと笑う。


 「何だよ、嫌味か?」


 「まあ、そんなとこ。ちょっとムカついたから仕返し」


 「なんだよ、それ。……あ、そういえばさ」


 「?」


 「お前の兄さん、元気にしてるか?」


 広田友樹には何歳か年の離れた兄がいる。話題に上ったことはあるが、田代加那慧は実際に彼の兄を見たことがない。友樹の兄はイギリスに留学しているのだった。


 「ああうん、元気みたいです。この前手紙が来ましたよ。『元気にしてるか? 死ぬんじゃねえぞ』って。まったく、どこまでが本気でどこまでが冗談なのか分からない人です」


 と言いつつも、広田友樹はくすりと笑う。やはり、仲の良い兄弟だったのだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ