草原
「天国って、あると思う?」
ある日、北山美月は田代加那慧に訊いた。
「さあな。無いんじゃねーの?」
彼の態度は素っ気無かった。美月もそれ以上追究しようとしない。
「じゃあ、どうして人は長生きしたがるのかな」
さあな、と彼は再び同じ言葉を口にした。
「人それぞれだと思うが……今までの人生に悔いがあるんだろ、そいつらは」
じゃあ、と美月も言う。
「悔いが無い人って、早く死にたいって思うのかな」
「それも人それぞれだろ。悔いがあってもなくても死ぬ時は死ぬし、生きる時は生きる。しぶと~く生き残ってる奴らは寿命が長いか精神面が強いかのどっちかだ。悔いが無くても死にたいって思う奴は、社会的弱者に部類されるな」
「社会的弱者かぁ……。難しい言葉使うね、カナくんは。……う~ん、やっぱりカナくんといるとホッとする」
「何だよ、ホッとするって。安心できる人って言えば、俺より友樹なんじゃないのか? やっぱ幼馴染だし」
美月は苦笑する。そして、加那慧にしか聞こえないような小さな声でぼそりと呟いた。「うーん……。トモくんは優しいけど、たまに酷いこと言うから辛いよ」
それから美月は立ち上がった。少し離れたところにいた友樹を見つけ、声をかける。
「トモくん、もう帰らない? 今から帰らないと門限に遅れちゃうよ?」
そうして三人は草原を後にするのだった―――。