止まる歯車
「そうか……。そんなことがあったのか」
「うん」
私はあれから病院を出てまっしぐらに彼のところへ向かった。彼は大概いつもの草原にいるから、どこにいるか探しやすかった。
「何やってんだっ、馬鹿!」
「え…………?」
私は項垂れていた頭を上げる。そして今更ながらに悟った。……ああ、叱られてるんだ。
「いくら気が動転しててもな、交通ルールは守らなきゃならねえんだぞ! 親が庇ってくれなかったらお前は死んでただろうな!」
私は心のどこかで、ほくそ笑んでいたのかもしれない。『他人』が私を怒れるはずがない、と。同情されるだけで怒られることなんて絶対無いと確信していた……。誰かに怒鳴られたいと思っていたにも関わらず、だ。
「ごめん……なさい」
初めて叱られるのが怖いと思った。従順だとよく言われるけど………、誰よりも一番歪んでいたのは私かもしれない。もう少し叱られるのを覚悟して、きゅっと目を瞑ると、ぽんっと頭に手を乗せられた。そっと目を開ける。
「そう怖がるなって。……分かったなら、それで良いんだ。何がいけなかったのかをちゃんと分かっているなら、両親が目覚めたときに謝れば良い。だから、それ以上自分を責めるなよ」
「うん……っ」
私はまた、彼から家族の温かみを感じる。それに安心したのか不覚にも、涙が堪えきれずに頬を伝わった。それを境にして、私は嗚咽し始めた。
そこは、誰もいない草原。人々に忘れ去られた場所。環境破壊が深刻になっているせいで森林は消え、そのせいと言うべきかそのおかげと言うべきか、その草原は他のどこよりも美しかった。……私には美しく見えた。
「まるであの時みたいだな。お前、初めて俺と会ったときもここで泣いてたもんな」
『お兄ちゃんの名前は?』
『俺? 俺は、広田鼎だよ』
了
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