過去の出来事3
幼い私にとっては広過ぎるあの家で、たった独りご飯を食べることに耐えられなかった。自分以外誰もいない家に取り残されているようで、不安で怖くて寂しくて。
「じゃあ一緒に食おうぜ。何が食べたい? カップ麺とかは出さねえから安心しろ。こう見えても俺、料理は得意なんだよ」
本当の家族より、家族になりたかった。これは私の我儘? 何の不自由もしていないのに、今以上に幸福を望むだなんて。……だけど、寂しかった。もう独りでいるのは嫌だった。だってあの日、私はやっと希望を持てたのだから。
風が心地良かった草原。あそこで私は独り、うずくまっていた。家に帰っても何もすることがない。友達と遊ぶ気にもなれない。全てがどうだって良かったあの時。もし彼が私を見つけてくれなければ、私は今どうなっていたのだろう。ただ動くだけの意志を持たない人形と化していたかもしれない。
ごちゃごちゃしていた私の頭の中を清掃してくれた。私はいつまでもうだうだと悩んでいたのに、彼は違った。『くだらない』の一言で、たったそれだけの言葉でモヤモヤを片付けてしまった彼の笑顔が眩しい。
あれは事故だった。
だってあれは、私が意図的にやったことじゃない。……でも、何もしてないと言えば嘘になる。私が勝手に泣いて、手を振り払ってしまっただけ。それがあんなことになるなんて、思わなかった。
「泣くなよ、美月。きっと、すぐに目が覚めるって」
病院の一室。隣で腰を掛けていた友樹が言う。彼は私の幼馴染で、少しズキッとくることを言われるときもあるけど、本当は優しいのだ。今日も、おつかいのついでだと言って私について来てくれた。その気遣いが嬉しい。
彼に言われなくても、もう泣かなかった。泣けなかった。流せるだけの涙は出してしまったようだ。……私は案外、薄情なのかもしれない。現実を見ようとせず、自分に都合の良い言い訳をして、逃げている。
目の前のベッドに寝ているのは、父と母だった。顔の色が、青を通り越して白く見える――――。




