廻る歯車2
「だけど俺には彼女の心を開かせることなんて無理だった。……気づいた時には、もう遅かった。ならどうすれば良いのか。そこで思いついたんだ。そいつを殺せば良いって。……でも、たった一度しか会ったことがないからね、顔を覚えていなかったんだ。まったく、とんだ馬鹿がいたもんです」
広田友樹は、やれやれと言うように肩を竦めた。
「……そんな物騒なことをするのは止めようって思ったときもありました」
……心の支えが『完全』になくなってしまったら、彼女は明るい笑顔を浮かべることが二度とできなくなってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。彼女を守りたかった。
けれど、そんな彼女に段々虫酸が走って……。
「殺したのか」
「ああ。……言い訳はしないよ、これが真実なんだから」
「何でそれを俺に言おうと思ったんだ? 放っておけば、忘れられっぱなしのことだっただろうが」
そのとき初めて広田友樹の瞳に怯えの色が映った。
「美月が言うんだ。『お前を許さない』って、あの日からずっと。今日だって…………今だって!!!」
許さない。あんたなんか、許さない。私はあの人が帰ってくるのを待っていた、ただそれだけ。あんたに殺されるために生きていたわけじゃない!!!
「……だろうな」
ぎょっとする。田代加那慧はいつの間にか、手に鉈を持っていた。
「カナ……ちゃん?」
「誰だよ、それ」
田代加那慧は訝しげに広田友樹を見る。広田友樹は、呆然とするしかなかった。だが、田代加那慧はそれを許さない。鉈を持ったまま、彼に近づく。彼は思わず後ずさった。
「お前はあの時、嘘をついた。俺の質問に対し、『違う』と答えた。何故あの時は『違う』と答え、今になって『そうだ』と言うのか、俺には理解できない」
そして、田代加那慧は鉈を振り上げた―――――――。