語られる過去
君が離れて行ってしまうのが分かったから。
「なあ、お前最近どこ行ってんだよ? いつ遊びに行ってもいないじゃんか」
七年前の夏。俺たちは八歳で、その時の俺はガキだった。いつ遊びに行っても留守にしている美月に腹を立てていた。
「と、トモくんが来てくれた時は、たまたまお使いに行っていたんじゃないかな?」
美月はおどおどしながら言う。……幾らなんでも、それが嘘だと言うことに気づかないわけがない。 彼女が離れて行ってしまうのが分かったから、引き留めたかったのだろう。それなのに………その方法が、彼女を傷つけてしまうということに当時の俺は気づかなかった。
「ふうん。じゃあお前は、お使いに行った後、一人で遊んでるんだ。友達がいないから」
「い、いるよ! 美月にだって、友達はいるよ!?」
「じゃあそいつを連れて来いよ。そしたら信じてやる」
「う、うん。分かった、連れてくるね!」
どうせ嘘なんだ。そう言って、家に帰ってしまうつもりなんだろうと思っていた。……俺は、君を信じることができなかった。
「―――くん!」
彼女は嬉しそうに、そいつのところへ駆け寄った。見た感じ、そいつは中学生だった気がする。
「トモくん、この人が美月の友達! あ、この子はトモくんだよ! 広田友樹くん! 幼馴染の子なの!」
「なるほど、友樹だから『トモくん』か。素晴らしいネーミングセンスだな、美月」
「あー!! 今美月のことバカにしたでしょ?!」
「さあ、どうだろうなー? ……まあ、そんな美月は置いとくとして。これからよろしくな、トモくん!」
彼女は俺のことを『友達』として見てくれていなかった。『幼馴染』として、仲良くしていただけだった。それがはっきりと分かったんだ、その時に。……それが悔しくて、悲しくて。俺は今まで何をしていたんだろうと思った。嫌なことばかり言えば、誰も好意なんて抱いてくれやしない。照れ隠しで言ったことだったとしても、それが相手に伝わっていなければ、ただの嫌味と同じなんだ。
…………その時には殺意なんてなかったし、人を殺すなんて考えたこともなかった。あの日までは―――。