草原2
――― 七年前。
「っく……、えっく……!」
そこは、誰もいない草原。人々に忘れ去られた場所。環境破壊が深刻になっているせいで森林は消え、そのせいと言うべきかそのおかげと言うべきか、その草原は他のどこよりも美しかった。……彼女には美しく見えた。
「人間なんて……!!」
嗚咽混じりに、彼女は呟く。
「ふーん。お前、人間が嫌いなのか」
唐突に背後から声が聞こえた。驚いて振り返る。
「誰………?」
そこには、黒髪の少年がいた。美月より背が高い。きっと年上だ。
「何で人間が嫌いなんだ? お前も俺も、同じ人間じゃねえか」
「同じじゃないよ。……同じじゃないから嫌なの」
昔は皆仲が良かったのに、どうして仲間はずれをつくらないと気が済まないのだろう。どうして同じ人間を孤立させることに後ろめたさを感じないのだろう。
「そっか。俺と一緒だな」
「え……?」
北山美月は、少年がそれをさらりと言ったことに驚いた。……どうやら自分とは違って、切り捨てなければならないものは即座に切り捨てることができる人のようだ。少し羨ましい。
「こいつがムカつくとか、あいつがどうだとか、くっだらねえ。そんなことするくらいなら、もっと人の役に立つことをしやがれってんだ。……でもよ、そういう冷めた目で周りを見てる奴って嫌われるんだよな。どうせ、お前もそうなんだろ?」
「それは……」
私が皆を冷めた目で見ていた? まさか、そんなわけない……。でも、もしかしたらそうなのかもしれなくて……。
「ははっ。嫌われ者は嫌われ者同士仲良くやろうぜ? お前なら、飽きずに済みそーだ」
その少年は、私の頭をくしゃくしゃと撫でる。そして、優しく微笑みかけてくれた。その笑顔にどきりとする。……カッコイイとか、そういう安い意味でそう思ったわけじゃない。何と言うか……心の底から信用できる家族にやっと会えたって感じだった。
「お前、名前は?」
「……きたやま みづき」
「みづき、か。どんな漢字書くんだ? ……って、まだ分かんねーよな」
美月は首を横に振る。近くにあった小枝を拾ってきて、地面に『美月』と書いた。
「お兄ちゃんの名前は?」
「俺? 俺は―――」