不思議な出来事
ビミョーなところで章が変わってしまいました……。
「じゃあ、まずは横になってくれ」
ここは高尾診療所。言われた通り、田代加那慧はベッドに横になる。医薬品のにおいが鼻にツンときた。
「目を閉じて肩の力を抜くんだ。……うん、それで良い」
高尾の声がだんだん遠くなる。意識が薄れ、やがて………。
4
―――ここは、どこだ?
このまか不思議な空間は暗くて寒くて、そして何より怖かった。
何の音も聞こえない。誰もいない。
何もない世界。……それが一番恐いのか、そうでないのかは分からなかった。けれど、これだけは言える。誰もいないことが、俺を不安にさせる。五感が使えないことが俺を焦らせる。
真の恐怖というのは、『見た目が怖い』とか『針に触ると痛いだろうから怖い』とか、そういうものじゃない。もっともっと底にうずくまっている、闇の中の闇………『無』だ。
「こんにちは、カナくん」
ばっと振り返る。ただただ真っ黒だった空間は消え失せ、草原になっている。ここは………あの草原だ。
「久しぶりだね。元気だった?」
その言葉に感情が含まれていなかった。けれど………目の前で俺の名を呼ぶ、あの人は。
まさか、そんなはずがない! いやでも……ここがどこか分からない以上、ありえないことだって起きてしまう可能性があるのだ。嘘だ、間違いだと思いながらも俺はその名を呼んでしまう。
「美月………?」
だが、俺が知っている美月よりも、その女は大人びて見える。本当に……いや、こいつは一体何者なんだ?
女はにこりと微笑んだ。
「そうだよ、私は北山美月。……私の人間としての人生はあの日に終わってしまったけれど、魂は生きている。器がなくなったくらいで、魂は消滅しない。カナくんが思っているみたいに、簡単に死んだりなんかしないの。……私は今、魂だけの存在。この姿が本当の年齢と違っても気にしないで。器を持たない魂を、無理矢理人間の形に整えているだけだから。……器は絶えず年をとっていくけれど、魂は穢れない限り年をとらないし消滅しない」
魂が穢れるのは、その魂が罪を犯したという理由だけではない。ひねくれた思考を持っただけでも穢れるのだ。
一体、なぜ彼女はここまで不貞腐れてしまったのだろう。
「教えてくれ。お前はあの日、何を思って学校に登校したんだ。そして、あそこで何があった?」
北山美月―――いや、女の視線は険しかった。北山美月の面影があるのはほんの少しで、他はまるで別人のように見える。
「私は自殺しようなんて思っていなかった。……私はあの日、あの男に殺された」
「あの男? あの男って……誰だよ?!」
女は妖しく微笑んだ。それを音で表すなら、『にやり』か『にたり』のどちらかだ。……以前の美月なら、こんな笑い方はしなかった。