狂気4
狂気に踊らされているようでいて、そうでもない。彼は、こちらを惑わせるような鋭い言葉を投げかける。
「……俺は、それが分からなかった。今でも、美月はまだ死んでいなくて、どこか違う場所にいるだけのような気がするし、本当に死んでしまったのかもしれないと思うときもある。もしかして、加那慧が彼女の深層心理が具現化したっていうことも…………狂った俺が勝手に創り出した妄想かもしれない」
広田友樹は自虐気味に言った。田代加那慧が何か言おうとした、その時。高尾が二人の会話をストップさせる。「ここで話をするにはお互い都合が悪いだろうと言っている。二人とも、一度頭を冷やしてから僕の病院へ来なさい。あそこなら誰にも聞かれずに話をすることができるだろう?」
そして、にこりと笑う。屈託の無い微笑みだった。
「……いくら依頼だからと言って、むやみやたらと尋問してはいけないことになっているからね。話の内容をもっと詳しく聞かせてもらってからじゃないと、決行することはできない」
広田友樹は悔しそうに俯いた。……あと、一歩のところだったのに。
「それとも、だ。これ以上不毛な会話を続けたくないのなら、すぐ終わらせる良い方法が一つある」
「何ですか、それは」
納得いかない方法だったら容赦はしない、というイラ立ちが広田友樹の瞳に映る。
「―――俺が、『いなくなってしまったもう一人のカナくんを呼び戻す』んだ」
高尾は、ユウレイと呼ばれる類のものを見ることができ、会話をすることもできる。もちろん、死者を呼び戻すことも可能だ。……この能力があるからこそ、彼は無罪人尋問官にスカウトされた。……一度も口外しなかったのに、なぜ政府の人間が彼を能力者だと分かったのかは不明だ。
とにかく、尋問をするよりは遥かに効率の良い方法だ。高尾の能力を使い、いなくなってしまった猫……つまり、もう一人の田代加那慧が現れれば、広田友樹の言っていることは正しいと証明される―――。