狂気3
「どこ行くんですか、加那慧」
「帰るに決まってんだろ。さっきから不愉快だ。……俺は、俺。他の誰でもないって言っただろ? 前の俺が誰であろうと、俺には関係ねえ。……北山美月は『死んだ』。それ以外の結果はねえんだよ。死んだ奴は生き返らない。それはどう足掻こうと、変わらない」
「カナちゃん………。あは……、あははっ! アハハ、本気でそれ言ってるの? 生き返るんだよ、美月は」
広田友樹は田代加那慧をギロリと睨みつける。その瞳には、狂気が映っていた。田代鼎は思わず立ち止まる。
「生きている猫が消えれば、死んでいる猫が存在するのは当たり前のこと。どうしてそれが分からないのかな、カナちゃんは」
「それは、箱の中を見ていなければの話だろ。……本当はお前だって、蓋を開いてしまえば残るのは真実だけだって、分かってるだろう?」
「嘘だよ。そんなの、嘘に決まっているんです。蓋を開けば残るのは真実。ええ、確かにそうですとも。……でも、それだけじゃない。真実の中には、『虚実』が存在していたという『事実』があるんだ。だから、美月が死んでいるという真実の中には、生きているかもしれないという可能性、つまり『虚実』が存在していたという『事実』がある。……普通、真実には可能性が含まれない。なぜならそれは、確固たる事実しか含まれていないからだ。けれど、彼女が生きているかもしれないという虚実が存在する事実が、果たして可能性が含まれない真実として扱われるのだろうか」