狂気2
「それは………」
「言えねえだろ、ざまーみろ。お前はな、最初っから分かってた当たり前なことを忘れてんだよ」
田代加那慧は広田友樹が何を思っているのか瞳を見て分かった。普段と同じように見えるが、今の広田友樹は、なぜ話を信じてくれないのかと怒りが奥底で煮えたぎっている。
「……じゃあ。今から君の記憶を思いださせてあげるよ」
広田友樹は近くにあった店に入って行く。
「ここは?」
「行き着けの喫茶店。どうもカナちゃんは俺の話を信じていないみたいだから、今から俺の叔父さんに会ってもらうよ。叔父さんは能力者なんだ。どうせこうなると思ってたから、ここで待ってもらっていた」
「能力者って……あれか? 人の心が分かるとか、そういう普通の人間にはできないことができる奴……」
広田友樹は頷いた。そして、すたすたと奥の席へ歩いていく。
「こんにちは、高尾さん」
「やあ、トモくん。友達を連れてきたんだね? もしかして、その子が」
「うん。前話してた子」
「初めまして、こんにちは。……カナくんだね?」
「え? あっ、はい……。田代加那慧です」
これが友樹の叔父さん……。友樹と少し似ている気がする。……じゃなくて! なんだか話がおかしな方へ向かっている気がするぞ……。
「トモくんに聞いていると思うけど、一応自己紹介しておくよ。僕は高尾文彦。心療内科の病院を経営している」
「ちなみに、それは表向きのことだよ。確かに心療内科もしてるけど、本職は無罪人尋問官なんだ」
「無罪人尋問官って言うのは、警察とは無関係の職業で、罪のない人間の真実を暴く人間のことだ。今から話すことは口外しないでくれよ」
高尾は田代加那慧の全てを見透かすような瞳で彼を見据えた。
「……この職業は、日本国憲法に違反している。なぜなら、無罪の人間のことを尋問するのはプライバシーの侵害であり、個人として尊重していないからだ」
「嘘だ! そんな職業あるわけない。……たとえその職が本当にあったのだとしても、だ。なぜ警察は動かない?」
「警察に職質されないのは、政府が警察に圧力をかけているから。それだけだよ」
広田友樹がさらりと言う。
「叔父さんは生まれつき能力者だから、この職に極秘にスカウトされたんだ。五歳のときにね」
「まあ、そんな訳だ。トモくんが君を尋問することを依頼してきたからね、僕は仕事をこなさなくちゃならない。……さっそくだけど、場所を移そうか。ここじゃ都合が悪いだろう?」
「何だよ、勝手に話を進めるな。本人の拒否権は無しなのかよ」
田代加那慧は不機嫌そうに立ち上がった。