終わりの始まり3
時は少し前。場所は、心地良い風が吹く草原。『彼』が初めて見たのは、その風景だった。
「天国って、あると思う?」
ある日、北山美月は『彼』に訊いた。
「さあな。無いんじゃねーの?」
『彼』の態度は素っ気無かった。美月の表情が少し翳る。
「私のこと、嫌いになっちゃった?」
『彼』は慌てて否定する。
「そんなわけないだろ。俺はお前がいないと生きていけねえんだから」
「……生きれるよ。もし私がいなくなったとしても、私が望めばカナくんは生きることができるよ」
「はん。俺だけ生き残ってたってしょうがないだろ。俺はお前以外の人間が大嫌いだ」
「人間は嫌い………か。私もそうかもしれない。こんなにつまらない世界なのに、どうして人は長生きしたがるのかな」
さあな、と『彼』は再び同じ言葉を口にした。
「人それぞれだと思うが……今までの人生に悔いがあるんだろ、そいつらは」
じゃあ、と美月も言う。
「悔いが無い人って、早く死にたいって思うのかな」
「それも人それぞれだろ。悔いがあってもなくても死ぬ時は死ぬし、生きる時は生きる。しぶと~く生き残ってる奴らは寿命が長いか精神面が強いかのどっちかだ。悔いが無くても死にたいって思う奴は、社会的弱者に部類されるな」
「社会的弱者かぁ……。難しい言葉使うね、カナくんは。……う~ん、やっぱりカナくんといるとホッとする」
「何だよ、ホッとするって。安心できる人って言えば、俺より友樹なんじゃないのか? やっぱ幼馴染だし」
美月は苦笑する。そして、『彼』にしか聞こえないような小さな声でぼそりと呟いた。「うーん……。トモくんは優しいけど、たまに酷いこと言うから辛いよ」
それから美月は立ち上がった。少し離れたところにいた友樹を見つけ、声をかける。
「トモくん、もう帰らない? 今から帰らないと門限に遅れちゃうよ?」
広田友樹には『彼』の姿が見えないし、声も聞こえない。美月にしか見ることも話すこともできないのだ。
広田友樹には彼女の心が解らない。
広『田』友樹の『代』わりに願いを『かなえ』る。だから彼の名前は―――。
色々ややこしくてすみません。
飽きずにここまで読んでくれた皆様、ありがとうございます!