終わりの始まり2
「そこにいる奴」
少年は床に転がっている、既に冷たくなってしまった物体を指した。
「誰だ?」
広田友樹は返事をしなかった。する気力もなかった。少年は冷ややかな目線を広田友樹に向ける。
「お前が殺したのか?」
「―――違う」
なんとか搾り出した言葉を自分が発したとは思えないくらい、声が枯れていた。驚いて喉を押さえる。何故だか少し湿っていた。広田友樹は、そこで初めて自分が泣いていたのだということに気づいた。
「お前こそ、誰だよ」
「俺か? 俺は俺。それ以外の何者でもない。……強いて言うなら、北山美月の深層心理が俺を創った」
「どういう意味だ」
「北山美月がいなければ俺は存在しない。そいつが死んだら俺は消えるはずだった。だが北山美月はそれを強く拒んだ。死は恐ろしくない。だが、『自分』が消滅することは恐い。……北山美月は、表面上、そんなことは思っていなかった。けれど心の奥底では『自分』が消えてしまうのを恐れていた。北山美月のその心が俺を創り、俺を具現化させた」
「美月は自殺したのか……?」
「さあな。俺の知ったことじゃない」
「そんなわけねえだろ!!」
広田友樹は激昂した。信じられない信じられない、信じられない!! 彼女が死ぬなんて、信じたくない!! これは何かの間違いだ、悪夢だ!!
「勘違いするな。俺は北山美月の深層心理が生み出した、この世の異物でしかない」
少年は窓辺へ歩いて行った。雨は先程より激しく降り始めている。
「……ただ、これだけは覚えている。近くにいる奴らはロクでもない奴らばっかりだった。彼女は次第に心のバランスを崩していった。優しさを求めていた。お前に助けを求めていた」
彼は広田友樹を睨む。
「ささやかな願いだったのに、信じてたのに、それは叶わなかった。それから急速に、あいつはボロボロになっていった。俺を創らなければならないほど、ボロボロだった」