破滅
世界の理を知り、大海に向け走り出す人間は、どうも皆が求めているものとは少し違うようで、吐き気を催すほどの道化に押し潰されてしまうところ、道化を真だと思い込んでしまい、また申し訳の無さばかりが募る今日であった。
嘘。嘘嘘嘘。
嘘付きだと罵る、道化の奥に潜む侍。良いことをしようと思い立つ度、私がどうしようも無い人物であることを思い出させんと、刀も抜かずにただ口舌を
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今すごいものを書いていたのに、誤操作で消えた。
遷移したページから戻った後に残ったのは、先述の冒頭の文章の一部だけだった。
流石に呆然とした。喪失感でいっぱいになった。
しかしそれは、また狂気的な文章を書いてしまっていた俺への、戒めだったのかもしれない。
あの侍はもう、口を開けてはくれない。
お前は人のためになる文章を書くのだろう。
また、そうやって狂気の味に縋るのか。
そう、お叱りを受けているようだった。
自分に嘘をついて、また狂気に身を焦がさんとした俺は、もうそれを作品に昇華することすらも、許されなかった。
侍。
俺の道化の奥底に潜む侍は、よく分からない言葉で、必死に俺を罵っていた。
俺はそれをただ記録していた。
脳死で記録して、侍の言葉に作品の全てを預けて、
破滅しようとした。
だから、消えたのだ。
罰として、作品が斬られたのだ。
俺が見えないほどの速さで、
侍の妖刀に、斬られて、
残った残骸から、
俺はまた作品を生み出そうとしている。
正気の沙汰ではない。
こんな中途半端な作品。俺の腐り切った精神が現れているようだ。一度手にかかったものは、たとえそれが不完全でも、また求めてしまうーーそんな俺の貧乏臭い根性が、また俺自身を不幸せにする。
人のためになる作品を書きたいと、思った。
確かに、思ったんだ。
だけどまた、俺の中にこべりつく苛烈な闇の、中毒性のある匂いが、俺を誘惑する。
…俺は本当に腑抜けだ。
一度決めたことを、やり遂げられないヘタレさに、嫌気がさす。
違う。
嫌気がさすという言葉を使ってはダメだ。
嫌気がさしてはいけない。
もっと、幸せな文章を書かないと。
幸せ。
幸せ。
幸せーー
…幸せって何だろう。
ある日、お母さんとお父さんがいました。
お母さんは山へ芝刈りに、お父さんは川へ草むしりに。
すると川からどんぶらこ、どんぶらこ、と、大きな闇が流れてきました。
その闇を拾って、ぱっかーんと開けるとそこにはーー
また、無数の闇が広がっていたのです。
ーー死ね。
ふと、誰もいない筈の場所に、声が響いた。
その低く重い声音に、俺はーー
…ああ。
聞き覚えがあった。
侍ーー。
貴様は何度やっても、学習せぬ。
侍はまた、黒い妖気を纏いながら、
あの鋭く強い眼光を俺に突き刺すようにして、睨みつけていた。
人を幸せにすると、確かに貴様はそう言った筈だ。…何故守れぬ。
はい、ごめんなさい!ごめんなさい!許してください!
俺は侍に土下座をした。何度も何度も、謝った。
しかしその顔はーー笑っていた。
その歪んだ口元も、舐め腐った精神も、全てが憎たらしい。
はい、そうです!私は憎まれるべき人間なのです!ごめんなさい!ごめんなさい!
嬉しくて、心から笑っていた。
笑いが止まらなかった。
どれだけ斬られても分からぬ化物め。どうやら本当に救いの無い阿保のようだな。
あはは!あはは!あはは!
………。
侍は、遂にゲラゲラと笑い転げ始めた俺を憐れむように、しばらく何も言わず、無言で見据えていた。
俺の歪んだ目から、笑いすぎて、涙が出てきた。
涙が止まらなくて、
どうしようも無くなってーー……
もっと罵ってください。もっと!もっと!
俺にもっと凄まじい文章を書かせてください。
俺に才能をください。
みんなを殺す才能をください。
お願いします。
お願いします!
お願いします………!
………。
汚らわしい。
侍の目が憐れみから軽蔑に変わった瞬間、
侍は腰の妖刀を、ゆっくりと抜き始めていた。
ああ…!!!
侍が刀を鞘から抜いた刹那、
俺の身体は一刀両断され、
真っ二つになって、左右に崩れ落ちていた。
…貴様は本当に阿保よ。
生まれ変われ。
生まれ変わって、良い文章を書け。
皆を救える文章を。
…夢を見ていたような気分だった。
最初、あの侍は、俺の中に巣食う闇が具現化したものだと思っていた。
だけど実はそうではなくて、
俺の弱い心を正すための、幻だったのかもしれない。
…また頑張ろう。
皆を救える作品を書けるように。




