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ホビーで世界征服を企む悪の親玉が普通に警察に逮捕された

作者: 悠戯
掲載日:2026/05/24


 『ホビー』と『世界征服』。

 一見すると一切の関連がないような言葉ではありますが、かつて幼少の頃にやたら分厚い児童向けマンガ雑誌を読んでいた人間にとっては、むしろニコイチと称しても過言ではない組み合わせに思えるのではないでしょうか。


 悪の組織や科学者が、何故だか子供向け玩具に異常なまでの殺傷力を持たせた上で世界征服を企む。その野望を正義の心を持った少年達に打ち砕かれるまでがワンセットではありますが、広い世の中にはそういった筋書きが定番のストーリーとして語られる分野もあるのです(もっとも実際のところは多々あるホビー漫画の中でも悪役が世界征服を企んでいるパターンは滅多になく、イメージだけが先行しているフシもなくはないのですが、一応は完全に皆無というわけでもありません)。



 まあ、ここまでは単なる前置き。

 此度の本題はここからです。


 惜しくも夢破れた悪役達にも、死んでいなければその後の人生はあるわけで。

 ホビーで世界征服を企てた罪にどのような判決を下すかは裁判所としても悩ましいところでしょうが、銃火器にも匹敵するであろう殺傷能力を有したホビーを製造したり、それによって敵対関係にある人間に危害を及ぼそうとしたのなら無罪放免といかないのはまず確実。

 ましてや相手が小学生くらいの児童ともなれば、悪質性が高いと判断されて刑が重くなる可能性も決して少なくはないでしょう。そんな奴らの弁護をしなければいけない弁護士も大変です。



 今更ですが、ここは警察の取調室。

 子供向けホビーによる世界征服の夢破れた悪の親玉が、ごく当たり前の事として普通に警察に逮捕され、これから刑事による取り調べを受けるところでありました。



 ◆◆◆




「ええと、まずお名前を伺っても?」


 こじんまりとした取調室にいるのは、被疑者以外は刑事が二人と記録係の巡査が一人。二人いる刑事のうち三十代に入った頃かどうかと思われる若いほうが、まずは穏当な疑問を対面の被疑者に投げかけました。



「名前か? ククク、ならば聞かせてやろう。我輩の名はプロフェッサー・デスダーク! 今は虜囚の身に甘んじておるが、いずれ世界の支配者として君臨する者よ!」


「デス……何? もう一度いいですか?」


「プロフェッサー・デスダークだ」


「いや、違いますよね? 財布に入ってた免許証によると田中三郎さん。年齢は今年で五十九歳……で、合ってます?」


「ククク……そうとも言う」



 丈の長い黒マントを纏った田中氏、自称デスダークは国家権力を前にしても臆せず答えました。十代半ばくらいの少年少女ならまだ微笑ましくもありますが、真っ当な人生を歩んでいればそろそろ定年退職も視野に入ってくる年齢の成人男性の発言と考えると、できれば関わりたくない類の異様な迫力がありました。



「ふざけてる……わけじゃなさそうだな、本気で言ってるのか。人によっては痴呆が来てもおかしくない年齢ではあるけど。もしくは精神鑑定の依頼も考えておいたほうが……」


「こらこら、そのあたり考えるのは後でいいだろう。今はまず事件内容についての認識をすり合わせるところから始めよう」



 警察にとっては出鼻を挫かれた形になりますが、二人いる刑事のうち五十代くらいのベテランが若いほうを落ち着かせました。後で精神鑑定なり治療なりが必要になるにせよ、それは彼らが彼らの仕事をキチンと済ませてからのお話でしょう。



「それで田中さん。事前の聞き取りによると職業は科学者とありますが、どこかの会社にお勤めで?」


「ククク、愚問だな。我輩の科学力は世界を制する崇高な目的の為にのみ使われるべきである。秘密裏に建造した秘密研究所で密かに研究に邁進しておったわ」


「それで特に収入を得たりはしていないと? その、ええと……秘密研究所? それを法人として国に登録していたりも、まあ、してないとは思いましたけど。職業は科学者改め無職、と。その研究所を建てる資金や生活費は……ははぁ、親御さんの遺した財産で? そいつは羨ましい限りですな。使い方は正直どうかと思いますが」



 当然といえば当然ですが、世界征服を目的として活動する組織の存在をわざわざ国に報せるはずもありません。数多ある悪の組織の中には表向きのフロント企業としての顔を持っていたりするケースもあるのでしょうが、この田中氏は特にそういう活動はしていなかったようです。



「で、ウチの刑事課の連中がその研究所から押収したオモチャ? いや、オモチャ型の武器か? ええと、なんて言ったかな?」


「ククク、もしや我輩が開発したバトルベーゴマのことを言っておるのかな……?」


「ああ、それそれ。バトルベーゴマ、略してバトベーとか言いましたっけ? いやぁ、なんか小学生に流行ってるらしいですね。デザインは綺麗に塗られてて今風のカッコいい感じになってますけど、まさか令和の時代にベーゴマが流行るとは分かんないもんですねぇ」



 バトルベーゴマ。

 そのコマこそが田中氏が逮捕された原因でした。

 バトベーそのものはネット通販やオモチャ屋で簡単に買えるものですし、それで遊んでいるだけなら変わり者ではあっても無害なおじさんというだけで済んだのでしょうが。



「例の子供達に聞いてウチの刑事が試しに回してみたんですけどね。ベーゴマを回しただけのつもりが強い電気がバチバチ鳴って火花が散るわ、竜巻が起こって木を何本も薙ぎ倒すわ、コマから火が出てボヤになりかけるわ……なんか機械が中に入ってるっぽいですけど頑丈すぎて分解もできないし、何をどう改造すれば子供のオモチャがああなるんです?」


「ククク、それこそが我輩の科学力の賜物よ! 説明をしろと言うならしてやってもよいが、既存の現代科学とは一線を画した超科学の産物ゆえ貴様らに理解できるかは分からんがな?」


「ていうか、こう言っちゃなんだけど、世界征服がやりたいならその科学力でオモチャじゃなくて普通に銃でも爆弾でも作ったほうが良かったんじゃないですかね」


「ククク……無粋!」


「そっすか。銃刀法違反……じゃあないし。これって凶器準備罪とかになるんですかね?」



 これについては一応ホビーに殺傷力を持たせるメリットと言えるかもしれません。


 いくら危険だろうと刃物でも銃火器でもなく、ベースはあくまで子供のオモチャ。こうして志半ばで捕まった時に、あくまで改造オモチャで遊んでいただけと言い張れば重い罪に問うのは難しいでしょう。もっともメリット以上に不合理的な部分が大きすぎるのは否定のしようもありませんが。


 ついでに世界征服までの筋道を考えるとしたら、まず並大抵の兵器以上の威力を持つホビーを大量生産。如何にもな凶器と比べて空港や港のチェックが甘くなるメリットを活かして、小学生のうちから思想教育を施した部下達があちこちの国の政府機関なり原子力発電所なりを一斉に制圧。そうして各国の政府機関を脅迫して、支配権を譲渡させる……みたいな筋書きになるでしょうか。どう考えても現実的ではなさそうですが、まあそれを指摘するのは警察の仕事ではありません。



「ま、まあ法律の解釈については専門家に任せるとしましょう。その凶器はともかく、問題なのはその危険なオモチャで小学生の子供を攻撃しようとしたらしい点ですよ。おまけに自分が改造したバトベーを与えた別の子達とケンカさせたりしたらしいじゃないですか」


「ククク、奴らは我輩の覇道の最大の障害だったゆえな。もっとも、あのケンジの小僧めがバトベーとの絆の力で我輩の作品を打ち破ってくるとは思わなんだが……」


「ああ、そちらの研究所が半壊してたのってマジであの子達がやったんですか。一応、ケンジ君本人も相手の子もそう言ってたけど、絆の力の何をどうすれば爆弾で吹っ飛ばしたみたいな威力になるんです?」


「ククク、全然分からん……我輩の超科学力をも上回る未知のエネルギーとは、実に研究のしがいがあるとは思うがな」



 そもそも田中氏がこうして逮捕されたのも、バトベー同士の激突の余波で生じた爆発音と研究所の倒壊音を聞いた近隣住民に通報されたのが原因です。当初やガス爆発か何かによる事故と思われていましたが、現場に重軽傷を負った小学生の児童が複数人いたことで一気に警察沙汰になってしまったというわけでして。



「アンタが直接殴ったりしたわけじゃないにしろ怪我をしてる子が何人もいるし、意図的にケンカを煽ったりもしてたみたいだし、まあ今すぐ無罪放免ってのは難しいかなぁ。執行猶予が付くかどうかは弁護士さん次第だろうけど」


「ククク……世間はいつもそうだ。天才の偉大さを理解しようともせず、揃いも揃って既存の枠に閉じ籠るばかり。例え囚われの身になろうとも、いつの日にか舞い戻って世界征服の大望を叶えてくれよう!」


「ハイハイ、頑張ってね。じゃあ本人も素直に認めてるし、もういい時間だし、今日の取り調べはこのあたりで。明日もまた話聞くと思うから、田中さんも留置所で弁当食ったら早めに寝ておきなさいよ」



 というわけで、今日のところはこれでお開き。

 田中氏が再び世界征服の道に戻れるか否か、それは未だ不明です。


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― 新着の感想 ―
ホビーでの世界征服、やはり実際やろうとすると困難なようですね。 田中氏にはできれば改心して、真っ当なバトベー道を歩んでもらいたいところです。
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