妹の確信
将軍の息子の師弟訓練が無事に終わり、将軍夫人と娘が北方へ帰る。その前日。
王女は静かに、将軍の娘を呼び止めた。
「よろしければ――少し、お茶をご一緒しませんか?」
温室ではない。
貴賓室の横に設えた、小ぶりで落ち着いた茶室。
香り高い茶葉が、やわらかな湯気を立てている。
向かい合って座った将軍の娘は背筋を正しながらも、どこか落ち着かない様子だった。
王女は、微笑みながら問いかける。
「……緊張されてますか?」
その問いに、将軍の娘は一瞬だけ迷い――
そして正直に答えた。
「はい……こんなにお美しい、同い年の方にお会いしたのは、初めてですので……」
そして、少し照れたように続ける。
「まるで……妖精が舞い降りたのかと、思いました」
王女は、わずかに目を瞬かせた。
(――この方は)
内心で、そっと思う。
(私に、あからさまに諂わないのね)
称賛ではある。
だが、媚びではない。
王族だから、王女だから、という計算が感じられなかった。
「……ありがとうございます」
王女は静かに礼を言った。
そして、ゆっくりと話し始める。
「私、定期的に王都のご令嬢たちとお茶会を催しておりますが……特定のどなたかと、こうして二人きり、ということは……今まで、ほとんどありませんの」
ほとんど――ではなく正確には一度もない。
けれど王女は、あえてそう伝えた。
将軍の娘は少し驚いたように目を見開き、王女は視線を茶杯に落としながら続けた。
「私と兄は……かなり、特殊な育ちをしておりまして」
その言葉に、将軍の娘の眉がわずかに動く。
「特殊……?」
王女は、ふっと微笑んだ。
「ええ。王族として、という意味も、もちろんございますが……それだけでは、ございません」
少し、間を置く。
「不器用なところも、多いと思います。特に……兄は」
そこに、ほんのわずかな含みがあった。
「ですから――どうか、これからも……よろしくお願いいたしますね?」
それは王女としての言葉であり、同時に――妹としての、確信だった。
将軍の娘は少し驚いたように瞬きをし、それから、はっきりと頷いた。
「こちらこそ……不束者ではございますが、よろしくお願いいたします」
その返事には、揺らぎがなかった。
だが、ふと――
「……あの、失礼ながら……“特殊な育ち”とは……?」
将軍の娘は、首を傾げる。
「王族でいらっしゃる、ということ以外に……何か……?」
その問いに、王女は答えなかった。
ただ、やわらかく微笑む。
「……それは」
茶室の外で、風が葉を揺らす。
「いずれ……分かることですわ」
将軍の娘は、それ以上追及しなかった。
この王城には、今はまだ語られないことがある。
――独占欲と執着に生きる父と、
それに微笑み一つで渡り合う母――
その中で育った、兄と妹。
将軍の娘がその意味を、本当に理解する日は――
きっと、そう遠くはない。
王女は湯気の立つ茶杯を手に取りながら、確信していた。
(この方なら――大丈夫)
妹として、そして未来を見据える者として。
そう思いながら、王女は静かにお茶を口に運んだ




