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城下での一コマ

城下の露店通りは、昼下がりの陽気に包まれていた。


王妃のお忍びに付き合うこと自体が久々で、王子はどこか落ち着かない。


「この辺りの焼き菓子、評判がいいのですよ」


王妃は楽しげにそう言い、屋台の前で足を止めた。

香ばしい甘い匂いに、自然と人が集まっている。


「これを二つください」


王子が代金を出すと、店主は二人を見比べ――

にやりと笑った。


「お!兄ちゃん、デートかい?仲がいいねえ。おまけしとくよ!」


焼き菓子が一つ、追加で紙袋に放り込まれる。


「……」


王子が言葉を失っている横で、王妃はぱっと表情を明るくした。


「まあ。私とあなたが、恋人同士に見られるのですね」


声色は冗談めいているが、どこか本気で嬉しそうだ。


「……やめてください」


王子は低く、切実に言った。


「こんなこと父上に知られたら……一瞬で、息の根を止められます」

「ふふ」


王妃は口元を押さえ、楽しそうに笑った。


「大げさですね」

「いいえ、事実です」


即答だった。


王妃は焼き菓子を受け取り、次は花屋へと足を向ける。

その背中を見送りつつ王子は一瞬、路地の影へ視線を落とした。


「――(テウ)


空気が、わずかに揺れる。


「御前に」


影から、短い応答。


「……さっきの話は。絶対に、陛下には報告するな」

「御意」

(ラン)にも伝えろ」


それ以上の言葉はない。

だがその一言には、王子の心中を理解した気配があった。


王妃が花を眺めながら振り返る。


「何かありましたか?」

「……いえ」


王子は何事もなかったように歩み寄る。


「花、選ばれますか?」

「はい。少しだけ」


並んで歩く二人の姿は、確かに――

城下の誰が見ても、仲の良い男女だった。


王子は内心で、深くため息をつく。


(頼むから……父上の耳には、入るなよ)


影の向こうで、緑守は静かに目を伏せた。


この件は――報告不要。

それが最も平穏な選択だと、よく分かっていたから。

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