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思い出すのはあの一瞬の

温室は、いつもの午後だった。


硝子越しの光を浴びて花々は穏やかに色づき、王子と王女は向かい合って座っている。


そして、当然のように話題は――


「ですから、お父さまが……」


王女が淡々と語る。

王子は、紅茶を一口飲みながら頷いた。


「まったく……通常運転だな」


そんな調子で、相変わらず両親による苦労話を一通り吐き出したところで、王女はふとカップを置いた。


「……そういえば」


声色が、少し変わる。


「お兄さまにお願いがございます」


王子は眉を上げた。


「何?」

「今度、私のお茶会にいらしていただけませんか?」

「え?」


王子は思わず周囲を見回した。


「……お茶なら、今してるじゃん」

「いつもの、お父さまとお母さまの愚痴茶会ではございません」

「いや言い方」


王女は、まったく気にした様子もなく続ける。


「私、定期的に貴族令嬢たちとお茶会をしておりますでしょう」

「してるな」

「正直……あの方々とのお茶会は好きではありませんが、王女の務めと思っております」


王子は苦笑した。


「相変わらず、言うね」

「事実ですので」


王女は視線を逸らし、ほんのわずかにため息をついた。


「そのご令嬢たちが……お兄さまに会わせろと」


一瞬、言葉が詰まる。


「……うるさ……いいえ、おっしゃっておられますの」


王子は、その言い直しにはあえて触れないでおいた。


「いや、何で俺?」


即座に返す。


「気の利いたこととか言えないし、正直、荷が重い」


王女は首を横に振った。


「そんなことは一切期待しておりません」

「余計に怖いんだけど」

「されどお兄さまは……やはり、ご令嬢たちの憧れの的ではあります」


王子は顔をしかめた。


「実感ない」


「お兄さまは、もう少しご自分のお顔に興味を持たれたらいかがですか?」

「いや興味も何も……」


王子は、視線を紅茶に落とす。


「自分の顔なんて、父上を思い出すだけだし」


王女は深くため息をついた。


「……まったく」


そして、きっぱりと言う。


「とにかく、一度でいいのでお願いいたします」


王子は黙る。


「お兄さまは自覚がなくとも、その麗しい顔面を一度でも近くで見れたなら、ご令嬢たちも納得されます」

「顔面だけかよ……」

「それに私とて、あの中からお兄さまに相応しいご令嬢がいるとは、露ほども思っておりません」

「……いやマジで、めちゃくちゃ言うじゃん……」


だがその真剣さに、王子は折れた。


「……分かったよ。一回だけだからな」


王女は静かに微笑んだ。


「ありがとうございます」



数日後。王子は見慣れない茶会の席にいた。


周囲には、華やかに着飾った貴族令嬢たち。

視線は、遠慮というものを知らない。


「殿下、本日はお目にかかれて光栄ですわ」

「殿下、そのお話、とても素敵です」

「殿下は剣もお強いと伺っておりますの」


矢継ぎ早に投げかけられる言葉。

距離は近く、声は甘い。


王子は当たり障りのない返事を返しながら、内心で頭を抱えていた。


(……無理)

(父上、これを平然とやってきたのか……?)


そんなときだった。


ふと脳裏に浮かんだのは――

先日、王城で挨拶だけ交わした、将軍の娘の顔。


飾り気のない装い。

緊張しながらも、真っ直ぐにこちらを見ていた青い瞳。


短い言葉だけを交わした、あの一瞬。


(……なんで、今それ思い出すんだよ)


王子は、わずかに視線を伏せた。


令嬢たちの華やかな声の中でなぜか、その静かな面影だけが、やけに鮮明だった。


(……ほんと、参る)


王子は小さく息を吐き、再び微笑みを作った。


けれど心は、もうここにはなかった。

お兄の顔面はスキズのリノさんを想定しています(Kポは詳しくないですが)

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