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温室の兄妹たち

庭園の奥。

硝子張りの温室は、春の光に満ちていた。


淡い花の香りと、葉に落ちる光が――

外界から切り離されたような静けさを作っている。


小卓を挟んで向かい合うのは、王子と王女。

年の近い、兄と妹。

カップからは、かすかに湯気が立ちのぼっていた。


「……まさか、また追い出されたのですか?」


王女が上品に首を傾げる。


「追い出されたっていうか……『邪魔だ』って目で見られただけだけどな」


王子は肩をすくめ、苦笑した。


数日前のこと。

母とお茶をしていただけで、父に視線一つで退出を促された。


「でもまあ、想定内だろ」

「ええ」


王女は、あっさりと頷いた。


「そんなこと。もうとっくの昔に――諦めておりますわ、お兄さま」


あまりにも即答で、王子は思わず吹き出す。


「だよなあ……」


茶器を傾けながら、ぽつりと続けた。


「ただ、俺さ。ちょっと怖いんだよね。あの人の血を引いてるって」

「怖い?」


王女は目を瞬かせる。


「独占欲とか、執着とか―― ああはならないつもりでも、 いざってときに同じこと言い出しそうで」


王女は一瞬考え、くすりと笑った。


「でしたら、大丈夫ですわ」

「なんで?」

「お兄さまは、ちゃんと自覚していらっしゃるもの。お父さまは……自覚の前に、行動なさいますから」

「ひどいな」

「事実です」


二人で声を潜めて笑う。

王子はふと、思い出すように語り始めた。


「この前も、母上が少し疲れた顔をしてただけで、政務を一刻早く切り上げさせてさ……」

「存じておりますわ。そのせいで、宰相閣下が青ざめていらっしゃいましたもの」


「で、結局。二人で庭園を散歩して終わり」


王女は、茶器を両手で包みながら微笑んだ。


「……けれど」

「うん?」

「そういうところは、嫌いではありません」


王子は、少し意外そうに妹を見る。


「まあ、正直……面倒くさい両親だけど」

「はい」

「仲が悪いより、ずっといい」


王女は小さく頷いた。


「王城がちゃんと“家”でいられるのは――お二人のおかげですもの」


その言葉に、王子は何も言えず。

ただただ紅茶を飲んだ。


――二杯目を飲み終えた頃。


「兄上!」


元気な声とともに、温室の扉が開く。


剣術の訓練を終えたばかりの第二王子が、

少し汗を残したまま現れた。


「姉上もいらしたんですね」

「ええ」


王女が席を詰める。


「結果は?」

「勝ちました!」


胸を張るその様子に、王子は笑った。


「じゃあ、ご褒美だな」

「お茶、飲んでもいいですか?」

「もちろん」


三つ目のカップが並ぶ。


温室の中――

兄妹三人で囲む卓は、少しだけ賑やかになった。


外では、城の時間が流れている。

だがここでは。

血の繋がりと、確かな温もりだけがあった。


王子は思う。


――やっぱり、悪くない。

この家族も、この王城も。


紅茶の香りの中で、午後は穏やかに過ぎていった。

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