だいすきです、の伝え方
第二王子の誕生日会が終わった夜。
王城はようやく、落ち着きを取り戻していた。
賑やかな笑い声も、楽団の音も、今はもう遠い。
寝室には、柔らかな灯りだけが残っている。
「無事に終わって、よかったです」
王妃は、ほっとしたように微笑んだ。
「……そうだな」
魔王は短く応じながらも、どこか考え込んでいる様子だった。
王妃は気づき、首を傾げる。
「それにしても……警備が少し、過剰ではありませんでしたか?」
「足りぬくらいだ」
即答だった。
「もう、陛下は……」
呆れたように笑いながら、王妃は寝台の縁に腰を下ろす。
その横に、魔王も座った。
しばし、沈黙。
だがそれは、居心地の悪いものではない。
「……第二王子の」
ふいに、魔王が口を開く。
「言い方が、似ていた」
「え?」
「“だいすきです”」
王妃は一瞬、瞬きをした。
「お前の言い方に、よく似ていた」
王妃の頬が、ほのかに染まる。
「……まあ」
視線を落とした、その様子を、魔王は逃さない。
「覚えておらぬか。昔――お前が、酒に酔ったとき」
王妃は、ぴたりと動きを止めた。
「余に……“だいすきです”と」
顔が、さらに赤くなる。
「……まだ、覚えていらっしゃるのですか」
小さな声だった。
「当然だ――忘れるはずがない」
魔王は低く、はっきりと言う。
「この胸に刻み、一生忘れぬ」
王妃は耐えきれず俯いた。
「もう……お忘れになってください……」
その言葉に、魔王は静かに息を吐く。
そして腕を伸ばし、王妃を抱き寄せた。
「こうも言っていたな」
王妃の耳元で、囁く。
「“へいかのおよめさんになれて、うれしいの”」
「……っ」
王妃は魔王の胸に顔を埋め、肩がわずかに震えた。
「今も――」
魔王の声は、驚くほど優しい。
「その気持ちは、今も変わらぬか」
少しの間。
やがて、王妃は小さく――けれど確かに頷いた。
「……もちろんです……」
魔王は、そっと王妃の顎に指をかける。
顔を上げさせ、目を合わせる。
言葉は、もう要らなかった。
くちびるが、静かに触れる。
深くもなく、急ぐでもない、
確かめ合うような口づけ。
遠くで、第二王子が寝息を立てている。
誕生日にはしゃいだ愛し子は、もう夢の中だ。
魔王は王妃の額にもう一度、軽く口づけた。
「……穏やかな夜だな」
王妃は、微笑む。
「はい」
灯りは揺れ、二人の影が、静かに重なった。
今夜もまた。
変わらぬ想いが、そっと確かめられる夜だった。




