第4話 町宿
いつも通り朝早くに起きたヨシタカたちは、ようやく商用の馬車が休息場に入ってきたのを見つけたので金貨一枚で交渉し次の町まで便乗させて貰えることになった。運転手である御者によると乗合馬車より小さい辻馬車での所要時間は6時間といったところだという。
客室というほどではないがクッションの置かれたシートに自分では歩かない居心地の良さが快適さを伝え、心底ほっとしただろうエレーネはぐっすりと寝始めた。今まで彼女は口には出さなかったが笑顔はヨシタカと話す時だけで、独りになるといつも泣いていた。彼女にとって長い間の世話係であったメイドや護衛の騎士たちが全滅した心的ショックは計り知れない程だろう。亡くなった人たちがどんな性格だったのか、家族はいたのか、エレーネとどれだけ親しかったかは彼女は口に出さない。
出来ればシートに横にならせてあげたいところだが、狭さゆえヨシタカの肩に頭を預けて眠っている。眠っているなら好いだろうと頭を撫でてあげている。逆方向へ倒れたり振動で姿勢を崩さないように支えてあげたりして久しぶりのお兄ちゃん役割が出来て嬉しかったりするヨシタカ。
馬車はお尻や背中が痛くなるので、ヨシタカはコッソリと付与魔法でお尻の強化などしてあげて、更には馬にもコッソリと自動回復と身体強化付与をかけているので御者には分からないようにスピードがアップしている。バレると雇われかねないので「いつもより調子が良いなぁ」程度に配慮してある。
さて町に着いたら宿に1~2泊し、エレーネの親御さんたちの住むところへ辻馬車または乗合馬車があればそれで、なければ馬車を買い取ったり貸し切ったりで行く予定である。旅は道連れ、ヨシタカはエレーネに対してそこまではお世話をしてあげようと思っていた。彼女の護衛と共にメイドさんたちも亡くなられているのでヨシタカも証言した方が良いといった判断だ。
やがて町が見えてきた。小さな町だが宿や食堂、銭湯などの商用施設はある規模だ。ようやく奇麗なシーツに包まって睡眠がとれるぞと二人は喜んだ。エレーネは寝言で「お母さま、お母さま……」と呟いていたので、思えば親しくなったとはいえ数日の間柄、そりゃむさ苦しい男性が一緒だと心底からは安心できなかった事だろう。
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「おはようございます、ヨシくん様」
「やぁ、よく眠っていたね。疲れはとれたかい?」
「おかげさまで頭もスッキリです」と笑顔で返事をくれる。
「町に到着したよ。もう門を抜けて町の中、すぐに宿に到着するから」
「わ~助かったんだ……でも私だけ……ごめんなさい、みんな……」
「そこは、ありがとうと言ってあげた方がいいぞ」
「はい、みんな有難うございました」ペコリと頭を下げる。
「今日はちゃんとしたご飯が食べれるぞ。宿の食事は旨いそうだ」
「私はヨシくん様料理の方が好きです。喉乾いてないですか?」
「ありがとう、頂くよ」
いつものエレーネ水筒からコップでゆっくりと飲み干す。いい香りがする。香草を追加して淹れたのがいい仕事をしている。
宿をとったヨシタカたち二人。部屋は二部屋で中級の少し立派なレベルである。彼は食事をしながらエレーネと今後のプランを立てる為、出発までにやるべきことをピックアップしていた。
・まずは風呂。
・冒険者ギルドでカードの更新。
・入手困難な地図の入手
・商用ギルドで乗合・辻馬車、または貸し切りの手配。
・エレーネの親御さんへの早馬か伝書鳩による魔狼攻撃の速達。
・エレーネの希望で何かあれば。買い物。
こんなところである。
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ヨシタカの護衛と報告は、エレーネの親、リンドバーグ伯爵家までのお付き合いだという話を食事を摂りながら説明し、やるべきことは明日か明後日には終わらせて、この街を出発しようと決められた。エレーネは自分の意見を言わず素直に頷くだけだったが、目は常に涙をためているように見えた。
「はい。承知致しました……」
「永遠のお別れという訳じゃないんだ、妹のユアイにも会わせたいしな。」
「あ、あの、わたし、ヨシくん様から頂いてばかりで恩をお返ししていません!」
「そんなこと気にするなよ。何か返したいのなら妹と仲良くして欲しい」
「……わ、わかりました」
食事でのMTGが終わり、上手く行けば明日には出発できるぞと早目にお風呂へ入り、各自の部屋でゆっくりすることになった。ヨシタカがベットの上に寝転び、いつも通りミズハやユアイは今どうしているかな?という思いにふけっていた。
その頃、部屋へ戻ったエレーネは一人考えていた。
(わたし、今夜クレリックとして失格なことをするかもしれません。お許しください我が女神様……でも、私には、ヨシくん様にお返しできる物がありません。でも感謝の気持ちをお伝えしたい、何か貰って頂きたいのです、そ、それなら……)




