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勇者たちの使命感:次なる異世界(校正版)  作者: 流離の風来坊
正統派の勇者たち

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第48話 アルフォンヌ公爵

 中庭から伯爵邸を広範囲魔法攻撃で吹き飛ばすイメージを持っていたヨシタカは、先行するサトシたちに追いついた。尤も、ハルやミズハやユアイも真っ先に大魔法を打つ気満々であり、武闘大会が終わってすぐのミーティングでも『私が吹き飛ばすからね!』と意気込んでいたのを思い出す。


 しかし、最終の戦闘が執務室だと護衛が何人か居るとしても、こちら側の戦力的には一振りで全員を吹き飛ばせられる。直前までウズウズしていたミズハたちは、出番がなさそうだと、少し、しょんぼりしているようだった。


 ヨシタカは思った。

『お前ら血の気、多過ぎだろ』などと指摘しようものなら血の雨が降りそうなので止めておこう、と。


 先頭を歩くサトシの横に並んだヨシタカは、横目で顔を見ながら会話を始めた。


「なぁサトシ、執務室では王宮のように魔法が使えなくする結界が張られているだろうか? 扉の前に居る近衛兵に武器を預けるというルールは無視するとして、魔法は使えないという前提で考えるべきだろうな」


「うん、魔法を使えなくする目的で結界の張られた執務室に籠っているのだろうね。王宮で国王陛下の”謁見の間”に入る時は、魔法が完全に使えなくなる結界が張られているし、聖剣以外は持って入ることが出来ないからね。弓とか小刀とか扉の守衛である近衛兵に預ける。王族や幹部の高位爵が集まってるから防犯上も大切な処置だよ」


「伯爵邸にも結界は張られているだろうけど、来客を迎える大広間と執務室ぐらいかな」


「まぁ僕らは鍛えているから護衛相手なら肉弾戦でも通用するとは思うけど、問題は魔神だよね。未知数だから」


「ああ。あと黒い空間の魔法についてだけど、最終MTG時に女神様が言ってた通りにするんだろ?」


「もちろん。ヨシタカ君の煽り演技を楽しみにしているよ」


 ・・・・・・・・・・


 お屋敷の最上階の執務室を目指し、階段を上り歩き続けると踊り場まで来た。最後の角を曲がると執務室が見えるという場所であり、そこで一旦メンバーが顔を見合わせる。


 神官エレーネ

「みなさん、もう一度、再確認ですが、諜報員の報告によるとカフェ『森の隠れ家』でアランと打ち合わせたアルフォンヌ公爵が、この先の執務室でお父様と一緒に居る可能性が高いとのことです」


 ヨシタカ

「アルフォンヌ公爵は魔神の地上代行者の確率が高いとのことでしたよね? 女神様」


 女神ハル

「そうよ、すでに魔神の波動をひしひしと感じてるわ。でも直接会わないとハッキリしない。魔神本人かも知れないし、それならラッキーよね」


 ミキオ

「魔神が降臨してるのをラッキーだなんて女神(ハル)しか言わないよな。可愛い顔して大胆だぜ」


 女神ハル

「ムッ……。ミキオ君とはお化粧以外にも少し話をする必要がありそうね」


 侍女ユキシ

「このお屋敷、サトシさんとヨシ兄さんで吹き飛ばして更地にするんじゃなかったのですか?」


 女神ハル

「もしかしたらエレーネちゃんが領主として、これから使うかもしれないし。ねっ」


 神官エレーネ

「もう、ハルさまったら……私は若すぎます。出来ればヨシ兄様が治めて下されば嬉しいのですけれど」


 ヨシタカ

「領主代行かぁ、それは……ニシノハラ侯爵領、爆誕の悪寒」

(異世界に居ると姓を使わないことが多いから名字を忘れかけてたわ、不思議な感覚だな)


 ユアイ

「代官職が列記として王都にいますけど、どうでしょうね。代官に採用したところでアルフォンヌ公爵の息がかかってなければ良いのですけど。妹としてはお兄ちゃんの出世に繋がるのは嬉しいわ」


 ミズハ

「子育てにも良さそうな環境だけど……いつもメイドさんたちが傍に居る教会でも息苦しかったし、まだ二人きりにはなりやすいわね」


 渓流神マナ

「大きなお庭に川を作って欲しいです。岩を沈めて渓流風に……ノンビリと水につかって過ごすの……」


 女神ハル

「いいわね、手ごろな岩を持ち込みましょう。それに座ってお弁当箱を開けるのよ。蝶々が水を求めて、塩分を求めて飛来するの、いいわよ。ポカポカして気持ち良さそう」


 侍女ユキシ

「(こ、こんな敵陣の目前ですら、また話題の脱線が始まったわ……)」


 ・・・・・・・・・・


 サトシ

「よし、行こう。近衛兵たちとの対応は僕に任せて、柔軟に対応するから、必要に応じてその都度指示するね」


 踊り場から通路に出て左に折れると執務室が見えてきた。扉の前に二名の護衛兵が直立して待機していた。二人の護衛兵は疲弊して暗い顔をしていた。


 サトシ

(たぶんだけど、騎士団長らと同じく、どうして不祥事が止められなかったのか? と心の中で伯爵への忠誠と自分の正義感の狭間で揺れ動いていたのだろうか)


 護衛兵

(とうとう死刑宣告である女神の身内である勇者さまが来てしまったか……)


 護衛兵はキッと目を開き真剣な顔つきに戻し、丁重なお辞儀と共に言葉を発した。


 護衛兵A

「勇者サトシさま御一行ですね?」


 サトシ

「はい。領主さまはいらっしゃいますか?」


 護衛兵B

「第二謁見用の大広間にてお待ちしております。ご案内いたします。尚、みなさんがお持ちの武器は携行くださっても構いません。通常では出入り口でお預かりするのですが、今こちらではお預かりしませんので……」


 サトシ

「……わかりました」


 誠実で真剣な顔つきの護衛兵に従い、伯爵執務室の反対側へと歩く。大きな屋敷でもあるため第二とはいえ大広間はかなりのスペースを取っているようで、夜景を見ながら立食パーティをするような造りになっていた。


 ・・・・・・・・・・


 護衛兵が扉をノックして大広間に入ると、地位の高い服を着た五人の大人がいた。男性四人、女性一人だ。エレーネの婚約者アラン、アルフォンヌ公爵、リンドバーグ伯爵夫妻だった。そしてイレギュラーな参加者である第二王子。お付きのメイドや近衛兵は二十人ほどいた。


「来ないで欲しかった、我が娘エレーネよ」


「エレーネ……ごめんなさい……」


「おとうさま、おかあさま……」

(二人とも何か憑き物が落ちたみたいな感じだわ)


 なぜか涙を流す父母を見たエレーネが嫌な予感で戦慄する。扉を護衛兵が閉めた瞬間、広間に黒い空間が現れ、全体を覆った。


 アルフォンヌ公爵

「ふふふ……飛んで火にいる夏の虫とは、このことを言うのだな」


 第二王子が戸惑っている。メイドや王子を護ってきた近衛兵たちと同じで、今の現実をよく理解できていないようだ。それはエレーネの父母も同じであった。ヨシタカが以前観た父母とは違う、精神性が元に戻ったかのような感じ。そしてアルフォンヌ公爵の異様なオーラ。


 ――もし、得体の知れないものが公爵の姿を持ったならば、あんな雰囲気なのかもしれない……。


 だが第二王子が近衛兵たちと違うのは再起動が早かったことだ。何もよく分かっていない顔で、しかしここにいるのはまずいと感じたのか、王子は出入り口に近寄っていき近衛兵たちに攻撃態勢を命じた。しかし動けなかった。


 近づいてくる公爵の姿が、冷たい風のようにヨシタカたちの背筋を撫でた。


「この黒い空間の魔法は魔神である我が直々に施行したもの。破ることが可能とは思わぬことだ」


 ヨシタカはただ立ち尽くし、何度も何度も頭の中で繰り返されるのは予知夢の光景だった。


 やがてアランが近づいてきた。彼は静かにエレーネに寄り添い、彼女の肩に触れるようにその(いや)らしい手を差し伸べる……。


「エレーネ、また抱き合い、愛し合おうじゃないか」


「ッ!!」


 その瞬間、ヨシタカの足は勝手に動いた。片手剣を抜き、アランに切りかかった。しかし容易に躱されてしまう。エレーネはアランの抱擁から逃げることが出来てホッとした顔をした。


 アラン

「私を斬れずに残念だったな、英雄ヨシタカ。ここではお前たちの力は二十分の一に低下している」


 ヨシタカはサトシとミキオに目配せをした。予知夢の黒い空間は十分の一だった。魔神が張ると二十分の一になるという。しかし魔力の性能が向上するのは想定内だったので、驚きはしない。


 ヨシタカ

「二十分の一なら俺たちにとってはいいハンデみたいなものだな」


 アルフォンヌ公爵

「はっはっはっ、強がるでない。この結界は魔力は使えなくなり、戦闘力は二十分の一、解除するには三人の命が必要になる。そう、この中の三人が死なねばならん。但し、ある一定の力量がないものは何人死のうが解除されん。一流と言われる近衛兵のレベルですら二十人死のうが解除はされん」


 サトシ

「なるほど、勇者パーティの三人が死なないといけないのか、それはきついね」


 アルフォンヌ公爵

「何の警戒もせずに大広間に入ってきたのが運の尽き……と己を恥じながら死んでいくがよい」


 サトシ

「僕たちは、うかつだったんだね」


 ヨシタカ

「そうか、それは怖いな」


 ミキオ

「おしっこチビりそうだ」


 アラン

「女性の皆さんは奇麗どころばかりだな。毎晩、楽しませてくれそうだ。ハハッ」


 ミズハ

「それは残念ね、未来永劫ないと思うわ」


 アラン

「おい、随分と余裕だな。でも勝気な女は嫌いじゃないぜ……」

(なんだ、なんだかおかしいぞ)


 黒い空間の魔法の包まれた大広間、絶体絶命の筈がなぜかヨシタカたちには余裕が見られた。それを肌で感じたアランは奇妙な感覚を受ける。しかしその正体は分からず、全体を眺めるも異常さは見受けられなかった。第二王子とメイドや近衛兵は役に立たないほど腰が抜けて座り込んでいる。


 この黒い空間に加え、緊張が張り詰める状態の内部で立っていられるだけでも、人間なら優秀で稀有な戦闘員だというのに、勇者たち一行は平然としており、平気な受け答えをしている。流石だと言えばその一言でお終いだろうが、アランにとっては解せなかった。


 すると女神ハルがヨシタカらに目配せをした。どうやら最後の会議で提案したことが済んだらしい。ただ、女神ハルの目が()わっていた。


 女神ハル

「……うん……おほん……」


 アルフォンヌ公爵

「ん……なんだ、この僅かに漂う神気は」


 女神ハル

「お久しぶりですね、魔神ゼノン。でも少しオイタが過ぎるんじゃないかしら……」


 アラン

「え……」


 アルフォンヌ公爵改め魔神ゼノン

「……」


 女神ハル

「黒の空間魔法は解析を終わらせました。ふむふむ、こうなっていたのですね。私も使えるようになりましたし、勇者パーティの全員も使えるようになりますね。頑張って作った努力は見受けられますけど、ちょっと目的がダメよね、私はこういうのって嫌いだから……」


 魔神ゼノン

「……」


 女神ハル

「えっとね、三人死んだら解除される黒い空間の魔法だけど、ここには聖女ミズハ、神官エレーネ(聖女加護付き)、渓流神マナ、そして私の四人が蘇生魔法(リザレクション)を使えるのよね。また、この黒の空間魔法の解除は、神玉を使用した別の方法でも損失なく出来るのよ。残念ね、魔神ゼノン……」


 魔神ゼノン

「……」


 女神ハル

「そしてね、今の私は百万分の一の神気にして地上に居るのよ。分かるかしら? 魔神ゼノン……」


 魔神ゼノン

「……」


 アラン

「ぜ、ゼノンさま……」


 女神ハル

「魔神ゼノン、申し開きはありまして?」


 魔神ゼノン

「……」


 女神ハル

「今、あなたは大神の地位にありますけど、私との不可侵領域の違反として、大神から上級神へと位を下げます。更に許せないことに婦女子監禁という画策を魔族と共に企てた罪により、上級神より一段低い中級神へも降格します。大神に相応しかった一部の力を封印し、私の配下の一柱として監視します。これからはオイタをしないでくださいね」


 魔神ゼノン

「……」


 アラン

「(どうされたのか? ゼノンさまが追い詰められて焦燥されていらっしゃる)」


 女神ハル

「アランは彼の地上代行者ですよね。魔神の加護を回収します。これからは一般人以下の力しか出せません。魔力(スキル)がなくなり魅了魔法、催眠も当然使えませんから、ちゃんと反省してください。もちろん女神の加護は与えませんから。地道に下働きから始めましょうね」


 アラン

「う……(あ、黒い空間魔法が解除されていないのに力が抜けていく)」


 女神ハル

「じゃ、ヨシくん、神具オリハルコンの神玉を光らせてくれるかしら」


 ヨシタカ

「はい……ではエレーネ、神玉を俺に。そしてマナ、神気を少し分けてくれ」


 神官エレーネ

「はい、ヨシ兄様」


 渓流神マナ

「はい、ヨシタカさま」


 ヨシタカ

「では、みんな、対ショック対閃光防御を」


「オーーーーリィーーーーーハァーーーールゥーーーーコォーーーーーン」


 (まばゆ)い赤い光が神玉から放たれた。その光はヨシタカの精神と感応し合い、どんどん輝きは強まり、黒い空間の魔法を消し去っていく。その光は窓からも外部へと広がり、魔神側で働いていた人々の精神感応をも解除していった。

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