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勇者たちの使命感:次なる異世界  作者: 流離の風来坊
正統派の勇者たち

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第47話 宣戦布告と騎士団長

★次回、切りよく最終話にするつもりです。まだ原稿は完成していないところで焦るのですが、完結しましたら、当分、お休みをいただきます。再開する場合は近況ノートにアナウンスいたします。

 領主のお屋敷は、来たるべき戦争に備えて補強や罠が仕掛けられていた。堅牢な砦と化したリンドバーグ伯爵家は異様な雰囲気に包まれていた。


 今、サトシらは少人数であり、やや高い丘に陣地を構えていた。川を挟んで対峙するサトシらと領主の騎士団や兵士たち、横断している川には領主屋敷へ通じる橋があり、そこをサトシらが突破したら、屋敷までは正門を経て内部に入れる。


 サトシらの陣地からは敵陣が見下ろせる。リンドバーグ伯爵の兵隊は続々と集まって数を増やしつつあり、橋を渡るのを防ぐ密集隊形を完成させつつあった。


 密集隊形を相手が取ればとるほど、広域攻撃魔法が節約できるためサトシらにとっては合理的だった。また敵側にも魔法使いが多数おり、結界バリアを至る所で張りサトシらからの不意打ち攻撃に備え、攻撃魔法や相殺魔法の打ち合わせが各部隊で盛んにおこなわれていた。


 現在、闇夜の深夜であり、焚火をして座り込むサトシ、ミキオ、ヨシタカが監視を兼ねて佇んでいた。女性陣はテントで眠っているようだ。朝日が昇れば戦闘開始である。パチパチと焚火の音がしている。


 サトシ

「前世では、こういう焚火は魔王戦の二日前だったよね……」


 ミキオ

「ヨシタカがミズハにフラれた日だったな。懐かしいな」


 ヨシタカ

「まさか人間相手に戦うことになるとは。どうでもいいがミズハの件は忘れろよ(ソレより何故フラれた日にちまで知ってるんだよ)」


 悪霊の町エルソン、最強の村ジャッキで同じように焚火をして、このメンバーで火を囲んだ。ミズハがサトシと婚約したという衝撃告白を突きつけて来たため、ヨシタカは失恋の余りの衝撃で、走って防御壁まで行き涙に暮れた。


 その件の記憶が鮮やかに蘇ってヨシタカは感じ入っていた。サトシたちは自分の身を犠牲にしてヨシタカを救うという計画を、ヨシタカにだけ悟らせないようにしていた嘘告白の一環だった。


 魔王戦後のエルソンの噴水広場には、サトシら勇者パーティの銅像が立っている。当時はヨシタカしか生き残っておらず、銅像が建設された誉れをみんなは知らなかったが、今なら皆で観に行ける。リンドバーグ領の問題が解決したら観光ぐらいしてもいいだろうと思う。


 あの勇者パーティの銅像は、聖女ミズハの浄化魔法で敵を一蹴する任務だったため、美しいミズハが中心に立ち周囲をサトシらが護っているという、ちょっと変わったシチュエーションの銅像になっていた。


 ヨシタカ

「なぁ、そういえばさ、今回は俺を救うためにとかで何らかの策略はしてないだろうな? 絶対にするなよ、自己犠牲みたいな、そんなこと」


 サトシ

「ヨシタカ君、あの時は悪かったって。今回は、そうだなぁ……ミキオ君、何か一言」


 ミキオ

「オレに話を振るなよ。焚火だけを見つめ続ければ幸せだろ。揺らめく炎はどうしてこうも心を穏やかにさせるんだろうな」


 ヨシタカ

「おいおい、不自然に何かあるような雰囲気にするなよ。今回は女神様が俺達のパーティに同行してる段階で何の不安もないだろ」


 ミキオ

「魔神を倒す簡単なお仕事を終えて、日本に戻って恋人を作ろうぜ、なぁサトシ」


 サトシ

「そうだね、今度こそ大観覧車は僕とハルちゃんの愛の世界で満たしたい」


 ミキオ

「俺は新しい出会いに期待だな。大人しくて、素直で、小っちゃくて、顔は二の次で、一生懸命、毎日を頑張ってる子が良い」


 ヨシタカ

「庇護欲が満たされるタイプだな。ミキオは恋人になってくれるなら誰でも好い、みたいな感じだと思っていたが、面白いな。そしてサトシはまず告白する勇気を持たなきゃ。勇者の癖にヘタレだもんな」


 サトシ

「ヨシタカ君、キミが言うのかい!? ハルちゃんに好かれているキミがソレを言うのかい? 羨ましい」


 ヨシタカ

「あ、そういえばサトシ、ミカジューの話をミズハに話したろ? 村の湖で大変だったんだぞ、誤魔化すの。誤魔化せなかったのだけど……でも怒られなかった(遠い目)」


 サトシ

「あ……そういえば、そうだった。ミズハさんに話したなぁ、ミカジューのお代わりが欲しいってヨシタカ君が嘆いていたって」


 ミキオ

「へぇ、ミズハが怒らなかったのか? じゃぁヨシタカは、ミズハジューを絞ったり飲んだりしたのか?」


 ヨシタカ

「……ダメだった……いつものように邪魔が入ってさ……」


 ミキオ

「ユアイちゃんの?」


 ヨシタカ

「違う、湖の女神ミユちゃんという邪魔が入ってさ、出張から帰った昨晩に報告したろ?」


 ミキオ

「ユアイちゃんの邪魔攻撃じゃなく、新しい湖女神様が邪魔してくるとは、つくづくキスすら叶えられない運命を背負っているなぁ。もう少し神に愛されるよう真面目に過ごしたらどうだ?」


 ヨシタカ

「いや、俺のヘタレとか日常生活の乱れとか関係なくって、というよりハルちゃんの運命操作かも知れないな」


 サトシ

「いっそのこと、ユアイちゃんならユアジューも叶えてくれない? 僕が言うと何だか変だけど、ユアイちゃんは可愛いしアリと思うけど」


 ヨシタカ

「妹だぞ、ばか」


 サトシ

「冗談だよ」


 ヨシタカ

「サトシがモテないのは、そういうとこだぞ?」


 ミキオ

「うんうん、オレたちはいつの時代でも、どこの世界へ行っても変わらねーな」


 明日は戦闘開始。しかもアサシンがいつ狙ってくるかもしれない場所で、被標的の目印である焚火をし、監視中でありながら雑談に(ひた)る三人だった。ミキオが言う通り、このメンバーはいつまでも変わらないんだと思われる。


 サトシ

「どうせ、僕たちの会話はどこかで聞かれているんだから、そんなに緊張しても仕方がないからね」


 ヨシタカ

「ミカジューの会話は聞かれたところで誰も分からないだろうから……」


 ミキオ

「愛飲者がいるかもしれないぞ」


「「言うな」」


 ・・・・・・・・・・


【朝日が昇る】


 サトシはたった一人で歩いて石造りの橋へ向かう。その橋では対岸から騎士団の団長らしき男が仁王立ちをして待機しており、サトシに戦闘の意志があるかどうかを聞くために近寄ってきた。部下ではなく本人がわざわざ出向くという事から、騎士道の精神は悪徳領とはいえ堅持されているようだ。彼の後ろでは幹部級の強そうな男たちが従っている。


 サトシ

「騎士団長さんかな? なるべく血を流したくない。ここで引いてはくれないだろうか?」


 騎士団長

「我が騎士団に撤退の文字はない。お前たちこそ人数が少ないが、宣戦布告とはどういう風の吹き回しだ? 死刑にしてくださいと言うのと同義だぞ? 今ならまだ間に合う、何もせずに帰れ」


 サトシ

「突然攻め込むより、集まってもらった方が都合が良くてね。騎士団長さん、貴方の名前は?」


 騎士団長ユーリ

「俺の名はユーリ・リンドバーグだ。伯爵とは親戚で地位は子爵だ」


 サトシ

「自己紹介、恐縮の至り。僕の名はサトシ。貴方たちの兵に引いて貰えないなら、これが相手になるよ」


 サトシは腰の愛剣を抜き、天に向かって軽く振り上げる。


「エクスカリバーっ!」


 どっかーーーーーーん ゴロゴロゴロ……


 すると衝撃波が一面に広がっていった。雷が近くで鳴ったかのような衝撃音。

 橋の向こう側を眺めると、兵隊たちは全員腰を抜かしていた。立っているのは騎士団長と幹部たち少人数だけであった。


 騎士団長ユーリ

「こ、これは、聖剣エクスカリバー、いにしえの勇者サトシさまの愛剣……、まさか本物なのか、そ、そんな馬鹿な……」


 サトシ

「ああ、僕は以前、勇者と呼ばれていた。この愛剣は聖剣エクスカリバー。分かってくれるかな?」


 騎士団長ユーリ

「……(女神ハル様の紋章の入った聖剣、扱えるのは本物の勇者のみ、絵画の勇者サトシ様と同じ容姿だ、やはり間違いないのか)」


 サトシ

「少し時間を与えます。幹部たちと協議して結果を持ち寄って来て欲しい」


 騎士団長ユーリ

「……(まさか我々は、女神ハル様の逆鱗に触れているのか? リンドバーグ領なんて吹き飛ぶぞ……)」


 サトシ

「それじゃ、また一時間後にこの橋で」


 騎士団長ユーリ

「お待ちください。聖剣エクスカリバーを知らぬ騎士はいません。それを扱われていらっしゃるのなら本物の勇者サトシさま以外おられません。確かお触れでは伯爵位でもあられた筈」


(サトシさまはリンドバーグ伯爵様と同格、オレの子爵としての一存では、とても無碍(むげ)には扱えない、どうすれば……戦闘を始めるわけにはいかん、それ以前に、勇者サトシさまなら全員で向かって行っても勝てない……)


 サトシ

「騎士団長ユーリさん、少し話をしたいけど都合は良いかな? どうしてこうなっているかの状況説明と、こちらのメンバーも紹介したい」


 騎士団長ユーリ

「はっ! 承知いたしました。我らの司令テントへお越しください。今いる幹部が同席し、お話を伺いたく存じます」


 何という事か、まるで海が割れるように、腰を抜かした後で立ち直った兵士たちが割れて道を作っていく。ここで初めてハル達がテントから歩いて橋まで近づき、聖騎士ミキオ、聖付与師ヨシタカを前衛に、女神ハル、聖女ミズハ、渓流神マナら女性陣が中衛、殿(しんがり)を大魔導士ユアイや侍女ユキシ、神官エレーネが続く。


 騎士団長ユーリ

「あ、あれ、エレーネ様じゃないですか? どうして勇者サトシ様らと一緒におられるのでしょうか?」


 神官エレーネ

「騎士団長ユーリさん、お久しぶりですね。リンドバーグ領の異変はご存じのはず。そして貴方も心を痛めている筈、私達に協力してください。詳しくは勇者サトシさまたちが、これからご説明申し上げます」


 騎士団長ユーリ

「はっ、承知いたしました。エレーネ様」


 ユーリの中で焦りが加速していた。問題意識の高かったエレーネが同行している勇者パーティ、これは間違いなく天罰級の沙汰がある可能性が高いと考えられた。不祥事が確実であるならリンドバーグ家の現領主は陛下により解任され、お家取り潰し、または伯爵にエレーナが就任し、改革を進めるのか。


 ただユーリ個人の考えでは、不穏な伯爵領の改革のチャンスだと期待し始めていた。


 ・・・・・・・・・・


 騎士団長ユーリ

「なんと! 領民の女性たちが二百五十人以上も監禁されていると……、しかも我々も立ち入ることが出来ない西の別荘とは……。た、確かに領民の女性らが失踪したという訴えの報告が、たくさん騎士団にも寄せられていました。他領へ連れ去られていると予測して調査はしていたのですが、まさか領主さまが自領の領民に手を出していたなどと、信じられない愚かな行為です」


 サトシ

「はい、それにつきましては女性たちの安全確保は諜報員らがしてあります。この後で全員を王都へ転送します。転送は女神ハル様が行い、そして万が一、別の監禁場所やお手洗いなどで不在していた女性らは、僕が転送を行います。王都では国王陛下のご指示のもと、既に受け入れの準備が整っています」


 騎士団長ユーリ

「め、女神ハル様……までも、いらっしゃるのでしょうか? お言葉ですが、領主さまが婦女監禁などと信じられない愚行です。確かに領主さまはご乱心なされていらっしゃるとの噂は尽きません。領民の生活も苦しくなりました。国王陛下までも協力されていらっしゃるとは……。我々は何をすればよろしいでしょうか? よろしければご命令を頂戴いただければ幸甚です」


 サトシ

「まずは執事やメイド、庭師、調理師、鋳造の担当者らを中庭に集めて下さい。屋敷の中で働く人たちを、なるべく外に出したいのです。その後は、僕らに任せて下さい。あと西の別荘に解禁されている領の婦女子二百五十人を解放しますので、中庭に連れて来るのに協力してください」


 騎士団長ユーリ

「はっ! ご命令通りに」


 サトシ

「あと、リンドバーグ伯爵が出てきた場合、ここにいるヨシタカ君が侯爵位を国王から賜っているので、彼をお呼びください。命令を下し、伯爵を黙らせることが公的にも可能です。尚、リンドバーグ伯爵側に味方した場合は女神ハル様の天罰が下りますので、御覚悟の上、行動されたしと、お触れを出し、末端の騎士や兵士に至るまで徹底ください」


 騎士団長ユーリ

「はっ! 全力で取り組み、速やかに解決するよう関係各所へ通達いたします」


 ヨシタカ

「えっと、ご紹介にあずかりました聖付与師ヨシタカと申します」


 騎士団長ユーリ

「英雄ヨシタカさま……。お初にお目にかかり光栄でございます」


 ヨシタカ

「はい、よろしくお願いいたします。色々と後始末も多いので伯爵領内は、戦後、騎士団長であられるユーリさんが要になります。監禁の女性らを監視している護衛たちは、戦闘時になるべく生かしてくださるとありがたいです。裁判時の証人にしますので。難しい場合はその限りではありません。味方の人命優先で、くれぐれもお願いします」


 騎士団長ユーリ

「ハハッ! 畏まりました」


「おい、お前たち! 監禁された女性らを西の別荘から解放、領主館のメイドはじめ調理スタッフも全員、中庭に集めろ! 勇者サトシさま、侯爵ヨシタカさまによる命令だ。王命の代行であられるため、リンドバーグ伯爵さまの指示、命令より優先される! 急げっ! 小部隊で展開! 早急にご婦人たちの安全を確保しろ!」


「「はっ! 御意」」


 騎士、兵士たちは直ちに散開し、小部隊にて分散し婦女子の安全確保に動き、また館内のスタッフを中庭に集め始めた。リンドバーグ伯爵は宣戦布告ゆえに幹部を護衛に自室に立てこもっており、この騒ぎからは一線を引いていた為、スムーズに事が運んだ。


 ヨシタカは、中庭に集ったスタッフらへ暫く待機するように指示を飛ばし、監視を騎士団長に率いるように頼み、サトシらは領主邸の執務室へ向かった。遅れてヨシタカもサトシらを追う。領主らが(こも)っている執務室の場所は、騎士団長ユーリから聞き出していた。抜かりはなかった。


 ・・・・・・・・・・


 サトシはパーティメンバー全員に目配せをし、無言で頷いた。返答としてミキオたちも頷き返す。どこで魔神が降臨するのか、すでに降臨しているのか、地上代行者のアルフォンヌ公爵は執務室に居るのか、黒い空間の魔法が従来であれば対処できるが、魔神自身が使用する場合は桁外れな威力を発揮するやもしれない。


 さすがのヨシタカも緊張していた。

 ミキオは目が合うと『余裕だぜ』と微笑んでくれた。いざという時、頼もしい。

 サトシは勇者らしく相変わらずのリーダーシップを発揮していた。


 聖女ミズハと妹の大魔導士ユアイ、アサシンの侍女ユキシ、神官エレーネ、そして渓流神マナ。この世界の守護神である女神ハル。


 オーバーキルの火力を誇るが油断はできない。一人でも死ぬようなことがあってはならないとヨシタカは肝に銘じた。

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