第41話 伯爵領に到着
次回更新でお休みを頂こうと思っています。
宜しくお願いいたします。
エレーネ
「来たわね……。早く平和な領地に戻したい……」
ヨシタカ
「あれから、まだそんなに期間が経っていないのに懐かしいな」
エレーネ
「ヨシお兄様……。あの時は不義理ばかりで申し訳ありませんでした(グスン」
ヨシタカ
「謝りすぎだよ、エレーネ。今こうやって又一緒に居れるんだ。兄を頼ってくれな」
王都にあるホテルをチェックアウトし、サトシの空間転移魔法でリンドバーグ伯爵領まで来た女神と旧勇者パーティ御一行。
サトシが過去にリンドバーグ領を訪問したことがあったため、馬車での移動で野宿などせずに済み、まるで観光に来たみたいにスムーズだった。
ヨシタカ
「しかし近くに空間転移したなぁ。危なかった」
サトシ
「ごめん、以前の記憶が貴族パーティに呼ばれた時だったから、転移の場所が領主邸の側になってしまったよ。下手したら門の中に出てしまったかも、ハハ」
ミキオ
「笑ってる場合ちゃうだろ。ここでも住人はまだしもリンドバーグ関係者に観られたらマズいぞ」
エレーネ
「まずは早く宿を探して移動しましょ」
空間転移魔法ゆえ、直接、リンドバーグ伯爵家の領主邸前に着いてしまったので、まずは宿屋へ入ろうという事になった。
周辺は寂れており、行き交う道もレンガが所々割れていたり、散歩したりしている住人もまばらで、伯爵領の運営が上手く回っていないことが伺えた。
ヨシタカ
「以前は、お金のある伯爵領という評判だったのに、随分と落ちぶれたもんだな」
エレーネ
「お父様の変貌により、領民の平穏な生活がなくなりましたから」
通常、伯爵との面会には”先ぶれ”を早馬か伝書鳩、冒険者ギルドなどを仲介して行うが、領民の女の子たちが軟禁ないし監禁されているというリンドバーグ伯爵家長女エレーネの情報により、敵対姿勢を貫くという考えから”先ぶれ”は省くことになった。
宣戦布告については、卑怯な女性監禁を確認した時点で行う予定である。
エレーネ
「ここに居るだけで嫌な”気”を感じますね。人々が監禁されてるなら近くだと思うのですが」
ミキオ
「拘束されている女性の世話をしないといけないからな。食料とか運び込まなきゃいかんからさ」
ヨシタカ
「監禁場所の絞り込みも、先に潜伏している諜報員達からの連絡待ちだね」
先に女性たちの監禁場所を絞るという事で、ユアイらによって予め先に潜入させてあった宮廷騎士団の諜報員と会って最新の情報共有と打ち合わせをしたいという趣旨もあり宿屋を取った。
さすがに人数が多いので、分散して宿泊することにして、集合とMTGだけは一番大きなホテルのロビーにした。
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【リンドバーグ領・ホテルロビー】
まずは異変の中心にあると思われる、現勇者たちと行動を共にしたミズハの事情聴取から始まった。
ミズハは口をもぐもぐするだけで何も話そうとはしなかった。全員が急かすことをせず、ミズハが話をはじめやすいように待つことを徹底していた。
静寂を破ったのは女神ハルだった。ミズハが話し出しやすいよう恋バナで助け舟を出した。
女神ハル
「どうして大好きなヨシくんを裏切ったの? 甘えたかったはずでしょ」
ミズハ
「……」
ハルの発言は、残念ながら全然、助け舟になっていなかった。寧ろ恋心を抉るというレベルだった。さすが恋愛経験のない乙女といえよう。
サトシ
「いいんだよ、失恋なんて若い頃は経験を積むみたいなものだしさ、気にしない、気にしない」
ミズハ
「……」
ミキオ
「黙ってても時間はゆっくりはないぞ、ミズハ。こうしている間にもリンドバーグ伯爵領で女の子の監禁がある以上、苦しむ女性が一杯いるはずだ。都合の悪いことを話したって、オレたちはお前を責めないぞ。だから心が移ろいだ裏事情を話してくれ」
ヨシタカ
「……ミズハ、声が出ないのか?」
(何だろう? 浮気を問い詰めるような感じで好いのかな。何か違うような)
ミズハ
「……」プルプルと顔を横に振る
女神ハル
「現勇者パーティに接近したのは、たぶん国王と教皇からの極秘の命令よね? ミズハちん」
ミズハ
「!!!」
女神ハル
「親友として助言するなら、ヨシくんは私が恋人として貰うわ」
ミズハ
(ブチッ)
ヨシタカ
「!」
ミズハ
「だ、ダメよっ! まだヨシタカ君とは恋人同士だから、まだ私と別れてないから」
女神ハル
「あら? 別件だと会話できるの? うん、これは契約魔法で色んな制限が掛かってるのね」
ミズハ
(……)首を縦にコクコク
女神ハル
「では話してくれるかしら? 詳しい事情を……国王と教皇からの密令を。契約魔法は解除しますね」
ミズハ
「うっ!……良かった、ありがとうハルちゃん。……契約魔法は解除されたわ、ありがとう」
ユアイ
「これで遠慮なく話すことが出来ますね、ミズハねえちゃん」
(お兄ちゃん成分不足でチョロインになってるかも? でもミズハねえちゃんの気持ちは変わっていないのだったら、どうして現勇者とイチャつくなんて真似をしたのかなぁ。まさかイケナイ領域まで進んでしまったとか? 現勇者に押し倒され無理やりベットで押さえつけられて、とか)
ミズハ
「うう……、ヨシタカ君、みんな、ごめんなさい。国王陛下と教皇閣下の口止めの上、契約魔法が結ばれて、喋られなかったの。本当にごめんなさい」
ヨシタカ
「……ミズハ、気軽に(浮気を)白状して欲しい……(実際イチャつく必要性はなかったよな)」
ミズハ
「……ヨシタカ君、今から詳細に説明しますね」
女神ハル
「で、出会いから詳しく……。進展具合は端折らないでね」
ユアイ
「お姉ちゃん、R18は気にしないでね……。赤裸々に……。詳しくお願いします」
サトシ
「告白は現勇者からしてきたのかな?」
(ぼくがハルちゃんと恋人という関係に近づけるヒントが必ずある筈、見逃すなよ! ぼく)
ミキオ
「そうか、ミズハの初体験がついに通過したという事か?」
(こ、こいつら、ミズハに何を話させるんだよ、趣旨違くねーか)
女神ハル
「えっ! ミズハちん、現勇者に押し倒されちゃったの!?」
渓流神マナ
「これは複雑な恋愛関係が生まれる予感」
ユキシ&エレーネ
((えっ、今のミーティングって恋バナでしたっけ?))
全員
「「ごくり……」」
ミズハ
「だーかーらー、わたしは寝取られてないってばっ! ヨシタカくん一途だっていつも言ってるでしょ! 現勇者はキモいって困ってたの!」
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・・・・・・・・・・
ミズハ
「ゴホン、質問は後でまとめてお願いね。まず最初の異変みたいなものなんだけど……」
みんな
「「うんうん……」」
ミズハ
「それは教会内で急に現勇者たちが召喚されて、女神様はお忍びの地球滞在だったし、誰が召喚したのかも分からなかったの。陛下はもとより教皇様も知らないという召喚で」
女神ハル
「私も初めて知った時はビックリしたわ」
ミズハ
「とりあえず召喚側の問題は後回しにして、通例通り、被召喚者たちの技能を調べることを兼ねて、教会騎士団と模擬戦を実施したのね。そうしたら彼らは異質な魔法を使ったの。その魔法の効果で騎士団は惨敗」
ミキオ
「惨敗だと? 教会騎士団でも、かなり強力な兵隊だから、驚くべき結果だな」
ミズハ
「そこで次に宮廷騎士団の精鋭との模擬戦も実施されたの。結果は同じだったわ」
ユアイ
「そんなに強そうには見えなかったわ。私でも一発のレーザーで現勇者を倒したもん」
ミズハ
「現勇者たちの召喚直後の話なんだけど、やたら被召喚者に近寄ってきたのが摂政アルフォンヌ公爵さまで、彼は反国王派にも関わらず、長い間、国内第二位の地位を維持している変わった経歴の人で、陛下と教皇様は疑念を持っていらっしゃったの。強権が長いと腐敗するものね」
エレーネ
「確かにアルフォンヌ公爵は悪い噂の堪えない人物像ですね」
ミズハ
「公爵は何か企んでいるのでは? と前々から陛下も注視していたという話だったわ。国内の重鎮にそんな人が存在していること自体が極めて異例よね」
エレーネ
「私の婚約者であるアランという男性も人間性は最低でした。その人はアルフォンヌ公爵の遠縁にあたります」
ミズハ
「うん、怪しい動きの後ろには公爵関係者が多く、きっと関係はあると思うわ」
ヨシタカ
「通常は公爵クラスだと、不祥事があっても中々手が出せない地位だもんな」
ミズハ
「そして一番の問題は、騎士団との模擬戦時に彼らが使用した”黒い空間の魔法”でね、みんな見たことがないと思うけど、HPや戦闘力は十分の一になるし、魔法は使用できなくなるし、空間内で一人死なないと解除されないし、黒い空間に覆われたら敗北必至というよく分からないものだったのよ」
ヨシタカ
「俺が正夢で見たやつだな。一度発動させられると深刻なほど厄介だった」
ミズハ
「そうなの? そう、そこで私が第二聖女として、彼らの勇者パーティに加わって、調べることになったの。陛下と教皇様の勅命という異例な命令で……。疑われないように契約魔法もした上で慎重に事を運んだのよね」
ヨシタカ
「ミズハ……。今更で悪いんだけど、あの、現勇者とは何もなかったよな? キスとか……」
ミズハ
「するわけないじゃん、あの男って酷いのよ、部屋に勝手に入ってくるし、下着なんかも盗むし、お風呂の着替えとか覗くのよ。すぐに勝手に触ってくるし、恋人でもないのに唇や耳たぶや頬、髪の毛なんて触ってこないわよフツー、ほんと、今思い出しても腹立つし最低な男だったわ」
ヨシタカ
「なんだか地味にダメージ食らっている俺なんだが……」
ヨシタカの予知夢とミズハの内部事情の共有で、凡その状況が全員に把握された。
次は女性たちが監禁されているという場所の絞り込みと、他にも不都合な犯罪があることを隠ぺいされているかもしれないと、広い視野を持ってコトに当たる。
ただ、下調べの間に、大変異様で怪しいカフェ店に遭遇することになる。




